57話「思わぬ難関」
「結構並んでるわね……」
「うん、もう少し時間をズラした方がよかったかな?」
みんなで受付の列に並ぶ。
成り行きでディランまでいる。
「別にいいだろ。文句あるなら朝に来いって言ったあいつが悪い」
「あいつって誰よ?」
「師匠だよ。話したい事があるんだって」
みんなが話してる中、周りを見渡すとすぐに後悔した。
(うわぁ……)
ユアンたちを見ている冒険者たちの目がギラついていた。
ただ新人が気になっているのか、それとも美貌に惹かれてるのかどっちなんだろう。
幸い、ギルマスの弟子ということを知っているのか、はたまた領主の息子のディランのおかげなのかは分からないけど、近付いては来ないみたいだ。
そこまで配慮できるなら、その目も隠して欲しい。傍から見れば異様な光景だ。
そんな中、一歩踏み出して近寄ろうとしているマッチョの怖面冒険者がいた。
その冒険者の視線の先を見つめると、アンちゃんがいる。
うーん、犯罪臭がする……。
あ、目合っちゃった。
気になって冒険者をじっと見ていると、視線がかち合う。
そして私を見るなり、ギョッとした顔をした。
(ダメだあいつ……)
ちょっと睨んだだけなのに、こんなに可愛い私を見て怖がるなんて……意気地がない。
見掛け倒しの冒険者なんだろうか?
いくらなんでも弱すぎる気がする。
「お祝いするつってたぞ」
「師匠が?嬉しいな」
ため息を吐いて、わいわいと話してる後ろから黙ってついていく。
私が黙っているからか、みんな私が何かしでかさないかとチラチラと後ろを確認している。
(失礼しちゃうよ!!!)
こんな大勢いる場で、わざわざ迷惑なことなんてしない。
これでも立派な大人ですから。
さっきも騒いでたのはアンちゃんたちなのに……
頬を少し膨らませながら、列の順番を待っていると、ようやく私たちの番がきた。
「あら、ユアンとディランくんじゃない。
ユアンくんの冒険者登録をしにきたの?今日って言ってたわよね?」
受付には青髪をサイドに束ねている美人なお姉さんがいた。
またまたユアンたちの知り合いみたいだ。
「マリエッタさん、こんにちは。そうなんです。この2人とパーティーを組もうと思ってます。
左横にいる子がアンゼリカ、右横にいる子がパメラです」
「よろしくお願いします……」
「よろしくお願いします!マリエッタお姉さん!わぁ……綺麗……。
髪もさらさらですね!何か手入れしてるんですか?」
「ちょっと大袈裟すぎた?」と思ったけど、マリエッタお姉さんは「まぁ」と嬉しそうに口元を抑えた。
その仕草もお上品でいい。洗練されてる感じが受付嬢にぴったりだ。
「うふふ、嬉しいわ。髪のお手入れ頑張ってるのよ。
ダリア商会で出してる、髪オイルがとってもよかったの!」
「へぇ……ダリア商会。稼げるようになったら私も買って見ます!!
お姉さんみたいな綺麗な髪憧れちゃうな〜!」
後ろから「誰だよお前」っていう声が聞こえてくる。
ただの処世術だよ。受付の人に嫌われていいことなんてないもん。
それに、髪が綺麗なのは本当で、気になったから。
ダリア商会か……って気持ちはあるけど致し方ない。
こういうのはヒルダが喜びそうだから、いつか買って行ってあげよう。
今頃、孤児院の年長者として頑張っているヒルダを思い浮かべる。
(ストレス溜まってそうだしね……)
「おい、早く登録しろ。うしろつかえてる」
ディランにそう言われて、後ろを振り返ると、少しイライラした冒険者たちがいた。
「あ、すみませーん」とお辞儀をして、前を向く。
「えーと、冒険者登録と冒険者パーティーの登録でいいのよね?ディランくんも入るの?」
マリエッタお姉さんは手を動かしながら、作業を淡々とこなしている。
なかなかいい手さばきだ。
きっとお姉さんは仕事ができるんだろう。
「俺は入らない」
「あら、そうなの?一緒に居たから私てっきり……」
私としても、居てくれたらもっと楽しかったんだろうけど、仕方がない。
ディランのやりたいことを止めたくないし。
「ディランはいい子ですよ〜。
私たち幼馴染が心配で居ても立ってもいられなくなって来ちゃったんですよ。
見た目と違って可愛くて面白いですよね〜」
「うるせえ」
頭をこつかれる。
みんなみんな私の頭を叩かないでほしい。ばかになる。
「うふふ、みんな仲が良いのね。
それじゃあこれ、文字は読める?」
マリエッタお姉さんが、何かの紙を手渡してきた。
受け取ったユアンの手元をみると、名前の欄や年齢など、いろいろな項目が書かれてある。
(へぇ……紙で登録するんだ……)
「はい、大丈夫です」
「それじゃあ、少し混んでるから記入したらまたここに来てくれる?質問とかあったらその時にお願いします。
冒険者のルールとかも裏に書いてるからよく読んでね」
「はい、マリエッタさんありがとうございます!これからもよろしくお願いします」
礼儀正しいユアンが、代表して頭を下げた。
◇◇◇
列を抜けて、人気の無いところに移動する。
酒場に空いている席があったので、みんなで座る。
早速ユアンに配られた紙をみんなで見た。
「えーっとなになに?」
・冒険者のルール
その1、冒険者同士の私的な喧嘩、干渉は禁止
その2、実力の合わない依頼は禁止。依頼の受理は己のランクよりも1ランク上までとする(例外あり)
その3、依頼失敗の場合は、違約金が発生する
(へぇ……あんま変わんないんだ……)
このルールは、異世界ものでよく見た。
「私的な喧嘩、干渉って仲良かったら別にいいんだよね?」
きっと把握しているであろうディランに質問する。
「ああ、その認識であってる。それは知らない冒険者同士が無駄な争いをしないためだ」
「ふーん、なるほどね」
やっぱり知ってた。
「あと聞きたいことは」
今のところ思いつかなくて首を振る。
みんななかったみたいなので、次に行こう。
・依頼のランク・ポイントについて
F・E・D・C・B・A・Sの7ランクです。
常設依頼、指名依頼、緊急依頼を受けてあげる仕組みとなっています。
獲得したポイントは、配布する冒険者カードに書いてあるので確認してください。
※Sランクに上がるには、指名依頼のポイントも必要です。このポイントはFランクからの合計となっています。
日頃から、街の人々と交流し、よき冒険者になることをお勧めします。
指名依頼か……Sランクが少ない理由はこれが原因って聞いた事がある。
合計でいいのになんで、難しいんだろう?
「ディラン、指名依頼のポイントっていくら必要か知ってる?」
「一万」
「一万?指名依頼一個だいたいどれくらい?」
紙から顔を上げるとディランと目が合う。
「1」
「……1?」
(え?今1って言った?本気?)
1日連続で無名が指名されるなんて、まぁないだろう。
でもうちにはギルマスの弟子のユアンがいるから、何らかで噂されてるかもしれない。
週2……いや、週1で依頼されたとしてかかる時間は……
(あーもういい)
考えるまでもない。
というか計算したら更に気落ちする。
紙を放り出して背もたれに凭れる。
「1だ。現実逃避するんじゃねえよ諦めろ。ちゃんと抜け道はある」
「……なに?」
「貴族か金持ちの依頼、それか緊急依頼ならポイントは多い」
「それ遠回しにずっと1って言ってるよね?」
「…………」
目逸らすな。せめて言い訳して欲しい。
ダメだ、道のりが長すぎる……
強さと実績、それに人脈と運も必要だなんて聞いてない。
難易度がおかしい……。
異世界ものだと、Sランクまでみんなババンと上がってたのに……
ここだとどう頑張ってもそんなすぐには上がらない気がする。
さっさと教会の問題解決して、のんびり過ごす密かな計画がまたおじゃんだ。
「だから……Sランク冒険者が未だに1組しかいないんだ……」
みんなの顔見てから、諦めがついて机に突っ伏す。
みんな知ってたんだ……。
ダメだ……やる気がそげ落ちた……。
「あんた知らなかったのね……」
「一回も来たことないもん。今までSランクに興味もなかったし……」
どうせ、異世界ものの定番の上げ方だろうとか思ってた。
全然違った。反省してる。
「パム、元気だして。一緒に地道に頑張ろう?」
「ユアン……」
嬉しいけどその励ましが余計に心にくる。
「酒場でなんか奢ってやる。そろそろ昼だろ」
気落ちした私が見てられなかったのか、ディランが気の毒そうな顔をして席を立った。
じゃあ遠慮なくお願いしよう。
「任せる。なんかおいしいものがいい」
「俺はお肉がいいな」
「甘いもの」
「お前らには言ってねえよ。ちゃっかり注文しやがって」
そう言って買いに行ったディランの手には、みんなからリクエストされた食事がちゃっかり載っていた。




