56話「初めての冒険者ギルド」
木製の二階建ての立派な建物を見上げる。
ドアの斜め上には、目立つように剣と炎が書かれた看板がついている。
「いい?ユアン、女関係には気をつけなさいよ?」
「うん。でも、そもそもそんなことにはならないと思うよ」
「そんな言葉信用ならないわ。約束しなさい」
「わかった。約束するよ」
隣でアンちゃんが、ユアンに子供に言い聞かせるように何度も復唱させている。
お節介な姉と、手のかかる弟みたいだ。
「男目当ての女には近寄らない」だの「嘘泣きの女には騙されない」だの色々注意してるみたいだ。
私もアンちゃんほどではないけど、心配ではある。
ユアンは押しに弱いから、変な女に引っかからないだろうか。
でも、それはアンちゃんにも言える。
(まぁ、でもそれも経験かな……)
私が口を出すものでもないかと私は沈黙を貫いている。
こういうのは年の近い者同士の方がいいだろう。
私だと擦れている考えしか出てこない。
「パメラ、あんたも聞いてんの?」
「え?私?」
2人を見ていたら突然、飛び火してきて驚く。
「そうよ。あんたも変なの釣り上げないでよ?」
「それを言うならアンちゃんもね。
ていうかみんな気をつけようでいいじゃん。ほらいくよ」
「あ!!ちょっと!!」と呼び止めるアンちゃんを無視して、冒険者ギルドのドアを開ける。
(だんだん、院長に似てきた……)
お小言が増えつつあるアンちゃんに、こっそりため息を吐く。
冒険者ギルドに入ると、たくさんの冒険者がごった返していた。
「俺が一番詳しいと思うから説明するね。真ん中が————」
ユアンの説明をアンちゃんと一緒に聞く。
真ん中に受付があって、そのそばに依頼書が張り出されているらしい。
依頼書を見ている人たちは、争奪戦のように争っており、できればあの場には行きたくない。
そして受付の左隣には解体の受付がある。
いまは朝なので、出発する人が多いのか人は並んでいない。
解体の受付の人は暇そうだ。欠伸をしている。
そして、右には酒場がある。
朝から飲んだくれがざわざわと騒いでいてうるさい。
お酒以外にも料理を提供していて、食堂としてもやっているらしい。
それと、この冒険者ギルドには階段もあり、二階は応接間やらで使われている……と。
「これでだいたい説明は終わりかな」
「朝に来たくない……」
本音が出てしまった。
朝のしんどい時になんでこんなうるさい場所に来なくちゃいけないんだろう。
冒険者になるなんて言ったこと、今すごく後悔している。
「諦めなさいお嬢さん。新人は朝の依頼を奪い合うものだわ」
後ろから知らない人の声が聞こえて、バッと振り返る。
銀髪のお色気なお姉さんがいて、目を見開く。
服装も露出度が高くて、思わずアンちゃんたちの目を隠した。
「きゃっ!!ちょっと何するのよ!!」
「アンちゃんたちにはまだ早い!」
ふと目線をあげると、ユアンと目が合う。
背が高いから、目元があんまり隠れてなかった。
「パム?」
意味がわかってないのか、困惑した顔をしている。
普段通りのユアンに首を傾げる。
(え、この格好、ユアンにとってはセクシーじゃないの?)
セクシーお姉さんの格好を再び見る。
胸は出てるし、スカートもスリットになって太ももまで足が見えてる。おまけにスタイルもいい。
……信じられない。
「ユアンくん、こちらのお嬢さんたちは?」
「ああ、俺の家族で幼馴染のパメラです。こっちも家族のアン」
唖然としているうちに、抱き上げられて、肩を持って前に出される。
最近、身長差が出始めたからか、こうして力技が多くてまるで猫にでもなった気分だ。
(ていうか知り合いだったんだ……)
「よろしくお願いします!セクシーお姉さん。とてもタイプなお顔です!」
握手を求めようと手を差し出す。
色気のあるお顔がとてもキュートだ。
「あらあら」と言いながら手を握り返してくれた。
(うーん!いい匂いする!)
ほのかに薫る匂いが、花のような甘い匂いで、つい嗅いでしまう。
「あ、あんた!!!そういう趣味だったの!?」
「いや?私は男が好きだよ?
でもそういう人がいてもありだよね〜」
多様性は大事だよ。いろいろな選択肢があっていいと思う。
「あんた寄りによってこんなババアを好みって……目を覚ましなさい!!行き遅れよ!?」
「あ?」
アンちゃんが指を刺した方向から、どす黒い声が聞こえてきた。
(あ〜そういうタイプかぁ……)
「調子に乗るんじゃないわよ?胸のないお嬢ちゃん?」
「はあ?行き遅れのババアが若いあたしに嫉妬してるわけ?そこしか言うとこなかったわけ?」
(行き遅れのババアは私の心にもちょっとグサッとくる)
セクシーお姉さんが何歳かは知らないけど、前世も合わせたら絶対私の方がセクシーお姉さんよりも上だろう。
前世で結婚してないし、お姉さんよりも行き遅れちゃってるよ私……。
まぁ、リセットされたけどさ……。
「二人とも落ち着いて」
ヒートアップしてきた二人の間にユアンが割って入る。
「あら、ユアンくんはどう思う?私まだいけるわよね?いけるって言いなさい」
「言ってやって。お前はもういけないって」
「え?俺は……いえ、ええと……」
(あーあ、女の戦いに割って入るから……)
どっちも黒いオーラを出してユアンに迫っている。
発言しようとしても、その前に二人の口が開くから、止めようにも止められないみたいだ。
助けて欲しいと、こっちにアイコンタクトしてくるけど、「頑張って」と口パクで伝えて高みの見物を決め込む。
(これも試練だよ)
モテ男の宿命と思って切り抜ける練習しなきゃね。
それに面白いから止めたくない。いいぞもっとやれ。
「何やってんだお前ら。騒々しい。目立ってるぞ」
隣から呆れた声が聞こえてきて、振り返り、黒髪で見慣れた顔の男を見上げる。
こっちもこっちで身長が伸びまくっていて首が痛い。
「ディラン久しぶり。再会のハグでもしようか?」
「やめろ」
手を広げて迎え入れようとすると、真っ赤な顔で拒否される。
一足先の冒険者になったディランとの、このやりとりも久しぶりだ。
まだ数ヶ月しか経っていないけど、懐かしい。
「ねえねえ、それよりあのセクシーお姉さん誰?」
「セクシー?ヘレナのことか」
興味なさそうに姿を見てガックリする。
なんだ……年上の女の人に二人とも興味ないのか。……つまらない。
「ヘレナは……ああ、ちょうど来たか」
ディランが視線で、見ろと合図してくる。
「ユアンー!!!!久しぶりだねー!!!!会いたかったー!!!!」
「わっ!」
人混みの中から飛び出してきた女の子がユアンに飛びかかる。
見覚えのある人物に目を見開く。
「ラナちゃん?」
「ああ、ラナとヘレナでパーティー組んだんだと。ユアンに断られたから仕方なくって言ってたけどな」
「へぇ……」
世間は狭いらしい。
冒険者になっても、あまり代わり映えのしないメンバーにそう思った。
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