55話「孤児院、最後の日」
「いよいよ明日から冒険者ね……」
「そうだねー」
アンちゃんの部屋のベッドに寝転びながら生返事をする。
今日は明日から始まる冒険者業前の最後の憩いだ。ユアンの誕生日でもある。
訓練から数ヶ月、アンちゃんは魔法を3秒で発動できるようになり、どんどん成長していってる。
魔法のコントロールも良くなった。杖を導入したのが良かったみたいだ。
いずれは無詠唱で頑張って欲しい。
この調子でいけばできるようになりそうだ。
前線で戦うつもりのディランとユアンの二人も、片手間で練習につき合って成長したし、訓練は成功と言っていいだろう。
「それにしても……あいつは明日から冒険者だってわかってんの?
リーダー決めとかの話し合いはどうしたのよ……」
ベッドから起き上がって、窓から中庭をみる。
中庭ではユアンがヒルダたちと鬼ごっこをしているのが見える。
笑い声がこっちにまで響いてきていて楽しそう。
「まぁまぁ……冒険者になったら今みたいに時間取れなくなるかもしれないからいいじゃん。
それに今日はユアンの誕生日だよ」
「まぁ、そうだけど……」
煮え切らない様子のアンちゃんに首を傾げる。
なんでそこまで……あ、もしかして混ざりたいの?
そう思ってアンちゃんに聞いてみたら、「違うわよ!!!」と怒られた。
「あんた……気にならない?」
「なにが?」
特に気になることもないけど。
「ユアンのことよ。あいつ……モテるでしょ?」
目を丸くさせる。
アンちゃんからそんな話が出るとは思わなかった。
なんで今その話?もしかして……
「アンちゃんってユアンのことす……痛い!」
「違うわ!!!」
アンちゃんに頭を叩かれて、抑える。
(茶化しただけなのに……)
筋トレの成果か前よりも衝撃が重い。
「そうじゃなくて!冒険者になった時のあいつの女関係よ!!」
「あーそういう話ね」
確かにこれから大変だろうとは思う。
ユアンは声変わりしてまた一歩大人へと近づいた。
身長だって高くなったし、175くらいありそうだ。
しかも今も成長痛にまだ悩まされているらしく、まだまだ伸びるだろう。
美貌も成長が留まることを知らず、あの性格だ。
冒険者になったら人と出会うことも多くなるし、アプローチされること間違いなしだと思う。
「まぁ、モテモテだよね。冒険者って積極的な人も多そうだし」
「それよ!それが問題なの!!!」
窓際を手で叩いてヒートアップしているアンちゃんを落ち着かせようと、無理矢理ベッドに座らせる。
「モテるのが嫌なの?
え?じゃあやっぱりユアンのことす……痛い……」
「何回おんなじことさせんのよ!
ユアンもディランもザレックも私はタイプじゃないわ!」
くどすぎたみたいだ。
「アンちゃんの好きなタイプどんな人?」てすごく聞きたい。
でも、これ以上やると怒りが沸騰しそうだからもうやめておこう。
「そうじゃなくて、あいつ……
女の子に迫られて、パーティーに入りたいって言われたら断ると思う?」
「んー場合による?好みだからって入れるような子ではないと思うけど」
まぁ好みがあるのかさえ怪しい。
老若男女分け隔てなく接する陽キャタイプで、全然わからない。
(見分けはついてるよね?)
「じゃあ、例えを一つ出すわ。
パーティーに入りたいけど誰も受け入れてくれません。困ってるんです!!私をぜひパーティーに!!!
って人だったらどう思うのよ?」
「……」
なにも言えない。
想像するまでもない。
その場合は多分引き入れようとする。
「ほら、みなさい!!!」
アンちゃんが何か言ってるけど、それよりも私は、手を顔の下で組んでプリプリしてたアンちゃんが可愛くて入ってこない。
アンちゃんもどんどん美人になっていく。
私の周りは将来有望な男女が多くて嬉しい。
おかげで冒険者になっても楽しみが減らなさそうだ。
なんて言ったら怒られるから言わないけど。
「聞いてんの!?」
「ん?聞いてるよ?」
「嘘つくんじゃないわよ」
すっとぼけてみたけど、アンちゃんにはお見通しだったみたいだ。
「それでどうしたの?」
「一人でもそんな女を入れてみなさい。
噂聞きつけて何人もくるわよ……!!鬱陶しい女たちが!!」
鬱陶しい女か……
ベタベタくっつく、睨みつけてくるとか……?
「私は面白いと思ってるから結構楽しみだけど……ちょ、最後まで聞いて!!」
また殴られそうになって、アンちゃんの手を受け止める。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。ユアンにそのことを話したら、無下にするようなことはしないよ」
助けようとはすると思うけど、あのユアンがアンちゃんの嫌がることをするなんて思えない。
「まぁ……子犬みたいに毎回悲しんでるかもしれないけどね」
「ぐっ……」
想像したのか嫌そうな顔をしている。
アンちゃんも苦手なんだ。私もあの顔見ると甘やかしてあげたくなるんだよね……
これが魔性の男ってやつ……?
「でも、私としてはアンちゃんも心配なんだよね……」
「はあ?」
「アンちゃんもこんな美人なんだから狙われるよ?」
まつ毛長くて、髪も綺麗で、涼しげな可愛い顔。
中身は始めはツンだと思われるだろうけど、話したら心優しい女の子。
そんな女の子にデレられたら、男もコロっと落ちる。
「はあ?顔のいい厄介な男ばっか釣り上げまくってるあんたに言われたくないわ。
あんたが気をつけなさい」
「それ誰のこと!?あのばかな聖騎士のこと!?
そんなこと言ってると、あのバカみたいなやつアンちゃんにもつくよ!?
呼んでないのにやってくる黒光りの虫に似てるんだから!!」
本当に厄介なんだから!!
私は何回もぶん殴ろうと理性を抑えたことか!!!
「ほら、見なさい!!もうすでに盲信的な奴が多いじゃないのよ!!」
「妄信的っていうか利己的というか……」
あれはそんなんじゃない。
思いっきり私を利用しようとしてるだけだし。
「そういうことじゃないのよ!!!
あんた……色々気づいててとぼけてるでしょ!?」
「え?なんのことか意味わかんなーい!」
「何を訳分からないこと言ってるんだろう?」という目で見るとまた怒られた。
今日は厄日に違いない。
遊び終えたユアンが部屋にくるまで、私たちの言い合いは続いた。




