50話「結論」
「パメラ!やっと捕まえたの!!」
夕食を食べ終わって、食堂から出ようとすると、ヒルダに行く手を阻まれた。
ドアを塞ぐように通せんぼされ、仕方なく立ち止まる。
「早くどうにかするの!!!ユアンがかわいそうなの!!」
「またその話?喧嘩はしてない。意見が合わなかっただけ」
本当に喧嘩はしてな……いや、してるのかな……?
「そんなわけないの!!ずーっと何か考えてて、上の空なの!!
何かしたとすればパメラ以外あり得ないの!!」
なかなか勘が鋭い。
といっても私の日頃の行いもあるんだろうけど。
「とにかく私じゃない。はい、この話おわり」
ヒルダをサッと抱き上げて、ドアの前から退かす。
「パメラ!!待つの!!!逃げるなんて卑怯者なのー!!!」
今日は災難だった。
こういう日は部屋に引きこもるのが1番だ。
自室のドアを開けて部屋に入り、ベッドにダイブして顔を埋める。
「あーみんなに心配されてる。
どう誤魔化すべき……?」
色々考えてるけど、時間の問題なのはわかってる。
でもさぁ……
「ん?雨?」
私の心と同じで、外も一杯一杯だったのだろうか。
雨の音が聞こえてくる。
雨の音が心地いい。このまま寝てしまお…う……
「あ……」
ふいに窓を見ると、開いてるのに気づいた。
「はぁ……めんどくさいなぁ……」
眠気でだるい体を何とか起き上がらせて、窓に近付いて閉めた。
入り込んでしまった雨を適当に拭いて、汚れた布に清掃魔法をかける。
そういえば、廊下も開いてた気がする。
誰かが閉めるだろうとは思うけど……
濡れていると誰かが転んじゃうかもしれないし……
「はぁ…仕方ない」
自分の部屋のドアを開けて廊下へ出る。
やっぱり窓が開いていたみたいで、雨が入り込んでいた。
「あーあ、びしょびしょになって……ん?」
閉めようと窓に近づくと、中庭で素振りをしているユアンが見えた。
手を止めて、ぼーっとその様子を眺める。
「なんでそこまでするんだろうね?」
また生傷が増えている。
雨で傷が痛むのか顔を歪めながら訓練する姿を見てため息を吐く。
あれから数分経ったけどユアンはまだ訓練をしている。
雨脚もさっきより強くなった。
「はぁ……まったく。あれじゃあ風邪引くよ……」
「そう思うなら止めたらいいじゃない」
「無言で見てたのに、やっと話す気になったの?アンちゃん」
「あんたが真剣に見てるから遠慮してあげたのよ」
見てないし。
ムスッとした顔でアンちゃんを見ると、呆れた顔をされる。
「いつまで意地貼ってんのよ。
あんた、あたしたちに甘いんだから、いずれ折れるのも時間の問題でしょ?」
「甘いのは認めるけど、折れはしない」
私が言い切ると隣からアンちゃんのため息が聞こえてきた。
ため息を吐きたいのはこっちだ。
みんなしてしつこい。
「ほら、行くわよ!」
「ちょっとアンちゃん!!」
引っ張るようにどこかへ連れていこうとする、アンちゃんにストップをかける。
動かないでいると苛立たしそうに顔を歪めた。
「ずーっとユアンのこと熱心に見てんだから話しなさい!
あんた意外と意気地がないのね」
「なっ!!意気地はあるよ!!」
そんな腑抜け扱いされるのは心外だ。
「じゃあ話なさいよ。
あんたが必要以上に話さないの、あいつ結構気にしてるわよ。
この前なんか泣いて……」
アンちゃんの肩を掴む。
「本当に……?」
ああ、やっぱり私は甘いみたいだ。
◇◇◇
中庭に出ると、一気に体が濡れて寒い。
こんな中訓練してるなんて本当にバカだ。
ユアンに近づくと、私に気づいたユアンが剣を振るのをやめた。
「パム……」
……何を言えばいいかわからない。
やめて欲しい?諦めろ?なにしてんの?
色々な言葉が浮かび上がって、言葉が出てこない。
「パム、風邪引くから屋根のあるところに……」
(私の心配してる場合じゃないでしょ)
私を屋根の下へと誘導しようと握られた手が冷えきっている。
ユアンの手をギュッと握りしめると、固まったように動かないユアンを見上げる。
(大きくなったなぁ……)
いつの間にか手の大きさも、身長も結構な差がついた。
「……なんでここまで頑張るの?」
「パムを守りたいから」
「なんで?」
「大切だから。パムが俺たちを守ろうとするのと一緒だよ。
……前に言った話って覚えてる?パムに憧れたから一緒に冒険者になりたいって話」
頷く。
もちろん覚えてる。
ラナちゃんの呪いを治した帰りに「憧れた私と一緒に冒険者になりたい」って話をした。
あれからずっとユアンに冒険者になろうって熱狂的なスカウト受けたし、印象はすごく残ってる。
「あれ撤回するよ」
「…………」
「憧れだけじゃダメだった。
じゃないとパムの横に立てない」
(横に立つ?)
ユアンが真剣な表情を見せた。
「俺は憧れたパムに、安心して背中を預けてもらえるくらい強くなるよ。
……今回みたいな思いは二度としたくない」
背中を預ける……か……。
それはなかなか難しい目標だ。
思いっきり子供扱いしてる自覚もあるし、守ろうとして言動が先に出てしまうから。
「そのために……傷がいくら増えようが、挫折しようが、パメラの了承を得られるまで何でもするよ。
これは俺が決めた目標だからパメラにも邪魔はさせない」
(こんな顔もできるんだ)
じっと真剣な顔をして、軽く睨まれる。
「したたかになっちゃって……」
「ふふっ、さっき何でもするって言っただろう?
これも日頃パムを見てて成長したんだ」
怖い顔を潜めて、にこやかな笑顔をしているユアンにため息を吐く。
(育てかた間違えたかな……)
なんか……みんなどんどん私の悪い部分を吸収していってる気がする。
横でアンちゃんが何かを指示しているのも見えているし。
(何考えてるんだか……)
「あっ!」となにかを思い出したように、声をあげたユアンが口を開く。
「それに俺はパムがダメって言ってもついていくよ」
「は?」
「それでもパムが拒んだら、俺たちがひどい目に会うかもしれない……
だって俺たちはパメラのために無理するから」
(脅し……?)
これ……絶対ユアンの言葉じゃない。
誰だ!正統派イケメンにこんなこと教えたの!!!
(あ……)
「それ……もしかしてディランからの知恵?」
気まずそうに視線をそらしたユアンに確信する。
ディランのあの時の言葉はこれだったんだ……。
脅し作戦ときたか。なるほど。
確かに私の弱点をついたいい作戦だ。
それをユアンに言わせるのが、さらに悪質だ。
色々予想外すぎて度肝を抜かれた。
「ふっ……」
「パム?」
顔色を伺ってくるユアンにもう限界だった。
「ふ、ふはははははは!!!」
笑いが止まらない。
「あんたついにおかしくなっちゃった!?」
屋根下にいたアンちゃんまで、私の様子に驚いて駆け寄ってきた。
濡れるよって止めるべきなんだろうけど、お腹が痛くて無理だ。
「ずるい!!あはははは!!あのユアンが脅してきた!!」
「あんた……そこ笑うとこなの?」
「顔と性格に似合わないんだもん。ふ…ふふっ」
笑いながらユアンたちの手を引いて屋根下に避難する。
「いいよ、合格」
うんうん。十分楽しませてもらった。
「は?」
「折れてあげるよ――
ていうか初めからそのつもりだったし」
私がそういうとふたりは目玉が飛び出そうなほど目を見開いた。
(スマホあったら動画撮りたかったなぁ…)
「はああああああ!!!?」
「え……」
ドッキリ大成功だ。
理解するのに時間がいったのか、遅れて叫んだ2人に笑みがこぼれる。
やっぱユアンたちって面白い。
「気づかなかった?試されてたの」
「ど、どういうことよ!?」
どういうこともなにも。
みんなの性格なんてお見通しだ。
だから試させてもらった。
「院長が、私たちが喧嘩?してるのを見て、黙認してるのおかしいと思わなかった?
あの時、ユアンたちに同席を許可したのにさ」
「あ……」
「……」
ハーヴェイに現状を聞こうとした時。
院長は、私1人にこの件を任せるのを嫌がってた。
なのに今はユアンたちに任せて何も関わってこないなんておかしい。
院長、ユアン並のお人好しだもん。
結構なヒントだったはずなのに、気づかないなんて……やっぱり2人ともまだガキンチョみたいだ。
「グルだったわけ?」
「そうだよ。あの馬鹿のせいでグルにならざるを得なかった」
あのあと院長と二人で話した結果。
「このまま放置しておくと無茶をする。私が見た方がいい」という結論に至った。
でも、心配なのは心配だ。
ここがユアンたちの人生の岐路かもしれない。
そこで思いついたのは、本気でその覚悟があるのか…どういう行動をとるのかだ。
巻き込む前に色々試しておきたいと思って、こういう行動に出た。
そのおかげで面白いものを見せてもらった。
「じゃ、じゃあこのままだとどのみち、パーティーに誘われてたってこと?」
「そう」
まぁ、それは今みたいに真剣に訓練してたらだけどね。
「パムが俺たちを避けてたのもわざと?」
「そうだよ、ごめんね……
もー!2人とも寂しかったよ!!
冷たくする度に私の心すり減って!」
「「……」」
絶句している2人を抱きしめる。
もう我慢できなかった。2人ともやっぱり可愛い。
そもそもいつまでも悩んでるのは性にあわない。持っても1日までだ。
「さて、そうと決まればやることがあるんだよね。アンちゃん」
このパーティーで、ユアンが一番最後の誕生日だ。
それも、もう1年きってる。
どこまでできるか分からないけど……
「な、何よ」
「魔法の訓練するよ。私が鍛える」




