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49話「新年の挨拶」

(寒い……)


 一月一日。今日はお正月だ。


 お正月で人通りが多い大通りを一人で歩いている。

 道行く人たちが全員、頬を真っ赤にしている。


 私も悴む手を擦りながら白い息を吐いて、目的地へと急ぐ。


 今日は新年の挨拶回りにきた。


 この世界にもお正月の挨拶回りという文化があるみたいで、おじいちゃんやオリビアおばちゃんたちに挨拶に行くところだ。


 あれから大変だったから、歳を越していい切り替えになったと思う。


 去年はあの馬鹿な神父のせいで散々だった。


 あの後、ハーヴェイには誓約の印を復活させた。


 口の軽さは、制限されていた解放感からだと言い訳をしていたけど、こっちからしたら信用できない。


 本人も望んでいたし、試しにやってみたら誓約魔法を使うことができてしまった。


 ……さすがの私でも、誓約魔法なんて使えないだろうと思っていたけど、簡単に使えたことにまた頭を抱えている。


 どんどん明かせない秘密が増えていく日々に、最近胃が痛い。

 それに、また解除する日がくると思うとさらに胃が痛くなる。


 こんなの社畜時代以来だ。


 絶対これが解決したら、あいつに報復してやると今から楽しみにしている。


 そう思うと、胃が痛いのがマシになってきた気がする。やっぱ我慢ってよくない。


 あと変わったことが2つある。


 1つはユアンが四六時中訓練をするようになって、朝から晩まで孤児院にいない日が増えた。


 でも帰ってくる度、痛そうな生傷が増えている。

 チビたちも心配しているし、理由が明白すぎて、止めようとしたけど――


 逆効果かと思ってやめた。


 ユアンの性格的に、もっと頑張らないといけないって燃えそうだ。


 それにアンちゃんも一緒に訓練を始めたみたいだ。

 騎士団と、冒険者ギルドに行って、一緒に訓練しているらしい。


 運動神経が悪いからか、毎日コケた傷を負って帰ってくる。


 魔法の訓練なのに、なんでユアンと同じくらい生傷があるんだろう。


 2人ともそこまで健気に頑張ろうとする姿には感動するけど、やめて欲しい。


 あと、止める手段がわからない。


 そしてもう1つ、ユアンとの距離も少しぎこちなくなってしまった。


 といっても毎朝起こしてくれるし、必要があれば話もする。


 ぎこちないというよりかは、少し距離を取っているといった方がいいかもしれない。


「本当にどうしようかな……」


 ◇◇◇


「おじいちゃーん、新年の挨拶にきたよー。おめでとうー」


 テラスでお茶を飲んでるおじいちゃんの隣に座り、背もたれに凭れかかる。


 こんな寒い中テラスでお茶を飲むなんて、まだまだおじいちゃんは長生きしそうだ。


「パメちゃんおめでとう。

 ……なんか疲れとるのう?なんかあったんじゃな?」

「詮索やめてよ」

「ふぉふぉふぉ」


 興味津々に聞いてくるおじいちゃんに手で牽制すると、おじいちゃんが笑い始めた。


 ため息を吐きながら体を起こすと、次はニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべている。


「おじいちゃんはもうわかっておるぞ?ズバリ……」


 おじいちゃんの言葉にゴクリと喉を鳴らす。

 誓約の件は知られてないとは思うけど、緊張する。


 なんかあらゆる秘密を暴くの好きそうだし……このジジイ。


「ユアンくんたちと喧嘩したんじゃろ?」

「……」


 正解とも不正解とも言えない……。


「正解じゃな!?やっぱりそうだと思っとた!!最近、ユアンくんたちと一緒にこないんじゃもん!」

「喧嘩してるって知ってはしゃぐな。くそジジイ」


 手を叩いて、嬉しそうに拍手をするおじいちゃんに眉間のシワがよる。


 人の不幸で喜んでやがる。

 やっぱりろくなジジイじゃない。


 ムカつくから、おじいちゃんのお茶受けを全部口に放り込んで立ち上がる。


「またくるよ、クソジジイ」

「次はユアンくんたちと待っておるぞ〜」


 おじいちゃんの家を出て、次はオリビアおばちゃんのところへ来た。


「オリビアおばちゃん、新年おめでとう!」

「まぁ、パメラちゃんおめでとう。今年もよろしくね」


 やっぱりあのクソジジイとは違ってここは癒される。


 オリビアおばちゃんの母性溢れる笑顔を見ると一気に疲れが吹き飛んだ。


 歓迎してくれるオリビアおばちゃんに抱きついた。


「この紅茶美味しいね……っ!」


 挨拶も終わって早々にオリビアおばちゃんと紅茶を飲んでいたら、背中に人の気配がした。


 バッと振り向くと——


「ぶっ」

「パメラちゃん!!おめでとう!!」

「まぁ、アイラずるいわ。パメラちゃんおめでとう〜」


 アイラさんとライラさんだった。

 私を奪い合うように、次々と抱きしめられる。


 鼻に遠慮なくボンボン当たる。どこにとは言わないけど。


(ハーレムってこういうこと?大変だね……)


 アイラさんたちの、このハグも恒例になってきた。


 私が前にラナちゃんを治したのに気づいたのか、やたらとよくしてくれるし可愛がってくれる。


 あの秘密も未だに口外していないみたいだ。

 やっぱり予想通りいい人たちだ。


「あれ?そういえばユアンくんたちと一緒じゃないの?」

「……」


 アイラさんから出てきた言葉にピクリと体が固まる。


 奪い合いをしていたはずのアイラさんたちから、今いちばん話したくない話題が出てきた。


「まぁ、喧嘩しちゃったの〜?」

「ふふっ、パメラちゃんでも喧嘩することってあるのね!!」


 (ここでもまたその話題か……!)


 ◇◇◇


「はぁ……」


 根掘り葉掘り聞かれる前に、まだ行くところがあるからと言って逃げてきた。


「なんか疲れた……」

「よお」


 歩いていると後ろから声を掛けられて、ビクリと肩をあげる。


「ディラン……なんか用?」


 会いたくないメンバーその3が来た。


「嫌そうな顔すんな。新年の挨拶はどうした」

「あー……おめでとう」


 挨拶がないことに文句を垂れるディランに、仕方なく挨拶すると満足そうに頷いた。 


「ああ、おめでとう。

 ……で?ユアンたちとはどうなったんだ」

「またそれ!?もうやめてよ!!」


 実は朝から、いや……あの日の次の日から、ヒルダやチビたちに散々その言葉を聞いた。


 口を開けば「仲直りしろ」、「ユアンをいじめるな」。


 みんな私がなにかしたと思っているのは、少し癪だ。


 それにしても新年早々、なんでみんなこの話題をしたがるの?

 普通はもっといい話しない?新年に去年の話を持ってくるんじゃないよ。


「ていうか、ディランも怒ってるんじゃないの?」

「怒ってはねえ。呆れてる」

「くっ……」


 二人みたいに純粋素直じゃないからやりにくい。


 今も「あれだけみんなに言われてまだ折れねえのかよ。こいつ懲りねえな」みたいな呆れた表情をされてる。


 言わんとしてることはわかるけど、普通にその顔腹立つ。


「なぁ――」

「なに?」 

「俺が一緒に組むって言ったらお前は了承すんのか」


(あーそう来たか……)


「やめてよ。前に断ったくせに」


 随分前に……ディランを冒険者パーティーに誘ったことがある。


 あれは前世を思い出す前だった気がする。


 ユアンとは微妙な関係だったし、ディランとは今のように仲が良かった。

 なんだかんだ世話焼いてくれるし、面白いからディランを誘ったんだけど……


 あの時、自分がどこまでやれるか試したいから断ると言われた。


 あれが今でもディランの本心なんだろうと思っている。


 ……私が心配だからって、その意見を変えるなんてやめてほしい。


「……だよな。後悔してる」


 ディランが深く息を吐く。


「俺がどれだけ言っても無駄なんだろ?」

「当たり前でしょ。挑戦したいならやるべき」


 なに当たり前のこと言ってんだろう。


 夢を追うのも挫折するかは分からないけど、挑戦するだけの努力もしてるんだから。

 これは前にも言ったけど。


「ふ、は……はははッ」


 急に笑い始めたディランに後退る。


(お、おかしくなっちゃった……)


 一人で笑っているディランに戸惑う。


 なんで笑ってんの?どこにツボ入ったの?


「悪い」


 ドン引きしながら、ディランを見ていたら収まったみたいだ。


「別にいいけど……どうし……」


 笑顔のまま距離を詰めてきて、言葉が途切れる。


「お前はそういう奴だよな。

 だから今はあいつらに託す。俺には俺にできることをする」

「は?」


 満足そうに笑って、意味不明な言葉を漏らしたディランに唖然としていると、頭をぽんと撫でて「じゃあな」と去っていった。


「なにあれ?」


 ディランに撫でられた頭を自分で撫でた。


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