番外編「ヒルダの1日」
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ヒルダの朝は、大好きなユアンに起こされることから始まる。
「ヒルダ、朝だよ起きて」
「んーまだ起きたくないの」
優しく起こしてくれるユアンに、どさくさに紛れて膝に抱きつく。
「ヒルダ……もう起きてるだろう?
他の子も起こさないといけないから起きてくれると嬉しいな」
そういうと、抱き上げられて立たされる。
ユアンと目が合った。
「やっぱり起きてる」と笑いながら言われて、ぶすっと口を尖らせる。
パメラを抹殺しようとして以来、いつも甘やかしてくれたユアンが、甘やかしてくれなくなったの。
前までは「まったく、しょうがないな」って甘やかしてくれてたのに。
そんなユアンに少し不満だけど、こういうユアンもかっこいいと思うの。
それにパメラに言われたのは癪だけど、かっこいいユアンに、相応しくなるためにもここは我慢!!なの。
「これも、将来のユアンのお嫁さんになるための訓練!ヒルダ頑張る!!」
腰に手を当てて、バシっと指を天に向けて宣言する。
「いい子になるのは嬉しいけど、お嫁さんについてはお断りさせてもらうね」
……また断られたの。
でもヒルダは気にしない!!
絶対、将来のお嫁さんはヒルダが勝ち取るの!!!!
◇◇◇
朝ごはんを並んで食べようとしていた、パメラとユアンの邪魔を今日もした。
ユアンの隣の席はヒルダのものなの。
最近これが日課になりつつある。
「ヒルダ今日も勝てて良かったじゃん」
寝起きが悪くて覇気がないパメラが、笑いながらからかってくる。
ヒルダは真剣なのに何を遊んでるの!!!
パメラもユアンも好きなくせに何してるの!!
ライバルのやる気のなさに少し腹を立てながらも、朝ごはんを食べた後――
1日の中で2番目に最悪な掃除の時間が始まる。
1番はお勉強の時間。
基本的には自分の部屋は自分でするけど、ヒルダはまだ個室を持ってない。
ひとりだと寂しいの!
ひとりで居たい時もあるけど、掃除もサボることができるし、夜は怖くないしヒルダはまだ大部屋にいるつもりなの。
でもユアンのお嫁さんになるためにサボらないって決めたから、みんなと一緒にお掃除をした。
「疲れた……」
そして、その後は当番ごとにエマおばちゃんたちのお仕事のお手伝いが始まる。
洗濯や、掃除、お使いのお手伝い。
でも今日はその中でも、ヒルダの1番大嫌いな窓掃除の日だった。
特に冬場は嫌なの。だって水が冷たいの。
(はっ……)
ヒルダ閃いた。
この後、ユアンに会いに行くの。
その時にユアンが、ヒルダの冷たくなった手に気づくの。
「手、冷たいね。これで暖かくなるかな?」
そう言ってユアンがヒルダの手を握る――。
「きゃー!!!えへへへ、ヒルダ頑張る!」
スキップをしながら掃除の場所へと移動する。
「さっきもお掃除頑張ったの……」
とはいってもやっぱり苦手だ。
水に手を入れたらぶるりと、体が震え上がった。
「まぁまぁ、ほら、窓拭いて。届かないところは拭いてあげるから。」
最悪なことにパメラとも一緒で、余計にテンションが下がったの。
でも、こうやってヒルダが苦手なことを知って、自分の分もあるのにヒルダのことを助けてくれる。
すごく、すごく癪に障るけど、ちょっと感謝してあげてもいい気がしたの……。
ユアンのお嫁さんを狙っている者同士、借りは作りたくはない。
でもお礼も言えない子にはなってほしくないってユアンに前言われたの。
ヒルダもそう思う。
だから、仕方なくお礼を伝える。
「あ、ありがとう……」
小さい声だったのにパメラはちゃんと聞こえてたみたいで「どういたしまして」と、微笑みながらヒルダの頭を撫でようとした。
でも、雑巾をチラッと見てパメラは手を下ろした。
(もう!察しがいいの!!!)
それでヒルダの頭を撫でようもんなら、雑巾を投げつけて、ヒルダのパンチをお見舞いしてあげたのに。
残念に思いつつも、なぜだか以前よりはこのやり取りに悪い気持ちはしなかった。
◇◇◇
お昼ご飯を食べて、今日はお勉強がないから中庭に向かう。
「ユアンが訓練に行っちゃうまであと少ししかないの!!」
それまで、めいっぱい遊んでもらおうとルンルンでユアンの所へ行こうとしてたら――
「ヒルダ」
パメラに呼び止められて、ムッとしながら振り返る。
「なに?ヒルダはユアンのところに行かなきゃいけないから忙しいの」
「まぁまぁ、そんな顔しないでよ。だから呼び止めたんだよ」
「ユアンそっちにいるの!?」
もしかしてユアンでも見つけたのかと思って、嬉しくなった。
中庭に行こうとしてたのは、大抵そこにいるからで、孤児院で人気のユアンは色々なところにいる。
パメラは、たまにこうして「あっちにいたよ」と教えてくれる。
ライバルのくせに手を貸してくれるパメラに一瞬罠かと思ったけど、その場所に行くとユアンが必ずいるから、今は信じてあげるの。
「あ、ごめん違う。でもご褒美あげようと思ってさ」
否定したパメラにがっかりする。
でもご褒美という響きに心が躍るのを感じた。
「ご褒美って?ユアンから『好きだよ』って告白なの?
それともユアンからチューされちゃうとか?
きゃーーーーー!どうしよう!ヒルダ困っちゃうのぉ!!」
顔を真っ赤にする。
パメラからのご褒美ということも忘れて、自分の願望を丸出しにする。
「いや……それはユアンに頼んでみて」
苦笑いしてきたパメラに気分が下がったの。
「じゃあヒルダご褒美欲しくない。パメラからのご褒美でチューとかやめてね」
パメラならやりかねないの。
大人っぽいくせに時々、変なことを思いついて面白がっているのは知ってるの。
「して欲しいならするけど?」
「嫌なの!!」
やっぱりそうきたの!!!
自分の唇を守るように手で口を隠す。
「あははは!冗談だよ。
ただ、髪の毛をアレンジしてあげようと思って」
◇◇◇
「ユアンー!!!!」
遠くの方で、みんなに囲まれているユアンに駆け寄る。
「ヒルダ?その髪の毛どうしたの?可愛いね」
「ほ、本当なの!?」
「うん、可愛いよ」
ユアンに、にこりと笑って褒められて、真っ赤になる。
「ヒルダちゃんかわいいー!!」
みんなにも可愛いと囲まれて、モジモジする。
嬉しいけど恥ずかしい。
少し俯くと、いつもはストレートの髪にカールがかかり、ツインテールにした髪が揺れるのが見えた。
いつもと違う自分に少しテンションが上がる。
「頑張ってるご褒美にってパメラが魔法でやってくれたの……」
「パムが?魔法でそんなことも出来るなんてさすがだね」
くすくすと笑うユアンに、ヒルダもそう思うの。
魔法が得意とはいえこんなことまで考えつくなんてパメラは正直すごいと思うの。
手強いライバルなの!!
それでもパメラには負けないの!!
……でも少しは認めてあげてもいいの。
そう思いながら、少しむかつくライバルのパメラお姉ちゃんを思い浮かべた。




