48話「喧嘩?」
「それじゃあこの話は終わりにしましょう」
ソファに座って一息つこうとしている院長の服の裾を引っ張る。
「何言ってんの?」
何勝手に終わらせようとしてるんだ。
話はまだ終わってない。
「約束忘れてないよね?」
ハーヴェイに視線を向けると、院長から「ちょっと!!!」と焦った声で制止される。
「今、納得したでしょう!?」
「したよ。でも、現状を知りたい」
情報を制する者は世界を制すって言うし、情報はとても大事だ。
「それにせっかく誓約魔法解いたんだよ?今聞いとかなきゃ勿体ない」
「それは……」
聞きたいことはいっぱいある。
教会の動向、ハーヴェイの今後とか。
「院長たちは、今まで会わないようにもしてるんでしょ?」
「え?」
「じゃないと、院長大好きなハーヴェイがこんなに孤児院に近寄らないなんてありえない。
院長だって好きだもんね〜」
からかうと段々真っ赤になっていく院長たちにニヤニヤが止まらない。
(わかりやすいし、おもしろ〜い)
2人とも30代だけど、初々しくて恋愛ドラマでも見ている気分になる。
二人は思わず顔を見合わせ、さらに真っ赤になっている。
さっきからずっといじりたかったし、やり返せたみたいでちょっとスッキリする。
「さて、ユアン、ディラン、アンちゃんは退出願います〜」
二人がラブラブしているうちに、3人に向き直る。
もう敵はバレてしまったけど、これ以上巻き込みたくない。
「嫌よ。意地でもここにいるわよ」
「却下」
「……」
全員が退出を拒否して、誰もその場から動かない。
(もう……頑固者め)
一体誰に似たんだか。
どんどん言うこと聞いてくれなくなってる。
「パム……」
「なに?」
1人俯いて黙っていたユアンから呼ばれる。
「俺もパムと一緒にSランクを目指したい」
「さっきの話聞いてた?
教会は敵。貴族も何があるかわからない。
……危ないからダメ」
「聞いてたよ。
……いつもパムは俺たちを助けてくれるんだ。でもそれは嫌だ……!」
ユアンがガバッと顔をあげる。
ユアンは泣きそうな顔をしていて、拳をギュッと握りしめている。
その姿を見て、思わず顔を逸らしたくなった。
でも、なんか言いくるめられそうな気がしてグッと我慢をしてユアンと目を合わせる。
「なんで……なんで1人で勝手に決めるんだ!?
なんで俺たちのことを頼ってくれないんだ!?
なんで……ひとりで頑張って守らせてくれないんだ……」
「……」
気持ちが分かるから耳が痛い。
ユアンに大切に思われてるのもわかる。
でもだからこそ首を縦に振れないし、振るわけにはいかない。
きっと守ろうと無理をするだろうし。
「話を聞かなくても、危険なことくらいわかるよ。だからこそ俺は耐えきれない。
大事な子を守りたいって思うのはいけないのか?」
ここに来て、この勇者気質が厄介になるとは思わなかった……
簡単には了承してくれなさそうだ。
「これから何が起こるかもわからない。
危険が迫るかもしれない。それでもここでパムが傷ついていくのを見てろって?」
「そう」
もう意地だ。
この場から無理矢理出て行かせようと、ユアンを押すけどピクリとも動かない。
(ちっ、ゴリラに力技が効かない!!)
仕方ない。魔法を使おう。
「うわっ!」
そう思って、強化魔法をかけようとしたら、ユアンに突然手を引っ張られる。
「そんなの嫌だ!!!!」
初めて聞いたユアンの怒鳴り声に驚きを隠せない。
今の私は口も開いて、目も見開いて、すごく間抜けな顔をしていると思う。
「絶対に嫌だ!今だって顔色が悪いじゃないか!
パムのわからず屋!!!パムは馬鹿だ!!!えーと……馬鹿!!!」
「ええ……?」
馬鹿って言った?ユアンが?
ていうか罵倒のレパートリー少なっ……!馬鹿しかないの!?
初めての罵倒だし乗ってあげるべき?
今も馬鹿と言いながら、私の体調を心配しているのか、どこからか出てきた椅子に座らせようとしている。
(いや、ユアンに汚い罵倒はちょっと無理かも……)
いい子なんだもん。良心が抉られて言えない。
それに、ムカつくというかむしろ面白い。
でも、この状況で笑っちゃダメだと思って、手で口を隠す。
「パム?体調悪くなった?大丈夫?」
体調が悪いと思ったのか心配しだしたユアンに肩が震える。
こんな時でも、人の心配するんだ。
どう見ても笑いを我慢してる人にしか見えないのに。
アンちゃんたちは気づいているのか、ため息を吐いてるのが見える。
「というか、わからず屋っていうより、自分勝手よね」
「あと、実は泣き虫のくせに強がる。一昨日もアンを探す時に……」
「ちょっと!!!!!」
慌てて立ち上がって、ディランの口を塞ぐ。
「なにそれ?聞かせてよ」
興味を示したアンちゃんがニヤニヤと近寄ってくる。
「ちょ、やめて!2人だなんて卑怯だよ!!!」
私の手をどかせようと必死なディランとアンちゃんに焦る。
慌てて強化魔法をかけるけど、横から伸びてきたユアンの手に掴まれて、あっけなく手を離した。
「パム、喧嘩するつもりじゃないんだ。ただ……俺に守らせてほしい」
「……ごめん。自分の身は自分で守るよ」
ユアンがグッと歯を噛み締める。
しかし瞬きした次の瞬間には――
「俺は諦めないよ」
覚悟が決まったような表情を向けられて、思わず後ずさる。
そんな顔初めて見た。
(なんか……眠れる獅子でも起こしちゃった……?)
戸惑っていると、手を叩く音が聞こえる。
「はい、そこまでよ」
振り返ると、観察していたのか院長とハーヴェイと目が合った。
いつの間にか院長たちは椅子に座っていたみたいだ。
「パメラ、ユアンたちの言う通りだわ。この場はユアンたちも同席させることにします」
「は?」
「じゃないと、ハーヴェイに何も言うなと口止めするわ」
ハーヴェイをちらっと見る。
院長よりも私のお願いを……聞くわけないな。
「はぁ……、とりあえず私の負けでいいよ」
「ふふっ、いつもあなたの思い通りにならないわ」
まぁいい。現状だけだもん。
そんなに危ない情報は出ないだろう。
「ハーヴェイ」
院長が名前を呼んで続きを促す。
「はい。しかし、現状といっても話せることは少ないです。
教会はソフィア様に接触しようとは思っていないようです。
この街でソフィア様は有名ですから」
院長に接触するつもりがないなら助かった。
冒険者になっても、孤児院の心配をする必要がない。
ハーヴェイが言うように、有名だから手は出せないだろう。
わざわざ危険な橋を渡るほど、教会も馬鹿じゃないし。
「あと、また誓約の印を付与するってことは出来ますか?」
「は?」
(今なんて言った?)
聞こえた言葉に口が引き攣る。
「じゃないとバレてしまうので。
たまに上から呼び出されるんです。契約の印があるか確認するために」
「……」
(こいつ本気で言ってる?)
あんな大変な思いをしたのに、またつけろって?冗談でしょ?
「あと将来ソフィア様の誓約の印を削除する際には、あの眠らせて麻痺させる魔法を使ってください。
初めの時のように、とてつもなく痛い思いをさせたくないので」
「……」
「それにしても、私あんな治療法は初めてです!!よく思いつきましたね!!治癒魔法を使ってナイ……」
全てを漏らそうとしているハーヴェイの口を急いで塞ぐ。
「喧嘩売ってる?」
私の顔を見た途端、ハーヴェイは怯えた表情を見せ、ブンブンと勢いよく左右に首を振った。
嘘つけ。今全部バラそうとしてただろ。
「はぁ……よし。
復讐はハーヴェイ、お前からにさせてもらうね」
ハーヴェイの口から手を離して、腕をまくる。
「あ、あのパメラ様!!今のは口が滑ってしまいまして!!!」
身体強化魔法を自分にかけながら、後ずさるハーヴェイに近寄る。
「無能な味方が1番足手まといって言葉知ってる?」
今日だけでハーヴェイが大事なことを漏らすのは2回目だ。
教会が敵ということも、誓約魔法の消し方も、どっちも知られたらまずいことをベラベラと話している。
「危険がないなら見逃すけど、今の状態じゃいつバレて危険になるかわからないもん。
1回痛い目にあった方がいいんじゃない?」
ニコリと笑うと、釈明の余地はないと知ったのか、プルプルと震え出した。
「4人とも、目瞑っててね」
「「「「はい」」」」
後ろにいる院長とユアンたちにお願いすると、同情の余地はないと思ったのか素直に従ってくれた。
「えっ……あのパメラ様……パメラ様あああああ」
孤児院にはハーヴェイの叫び声が響き渡った。
(大袈裟。ちょっと脅しただけなのに)




