47話「真相?」
換気のために窓を開ける。
「はぁ……」
いつもの日課の掃除が億劫で、何回もため息が出る。
魔法で済ましてしまおう。
そう思って、清掃魔法を発動しようとすると、ドアがコンコンと叩かれる。
ドアを開けると、院長が立っていた。
「パメラ、あなた昨日帰ってきてからずっと顔色が悪いわ……
今日はお仕事はいいから休みなさい」
ちょうどいい時に来てくれた。
「それについて話があるから、後で時間くれない?」
◇◇◇
お昼を食べて、談話室に入る。
机と椅子だけで何もなくて、手持ち無沙汰だ。
椅子に座ってボーッとして待っていると、院長が来た。
「パメラ、待たせたわね。
……まぁ、ハーヴェイあなた来ていたの?」
談話室に入って、すぐにハーヴェイの存在に気づいたみたいだ。
「はい、ソフィア様。
相変わらずお美し……ごほん、お邪魔させていただいてます」
こんな状況でも、院長にキザなセリフを投げかけるハーヴェイを睨みつけると、わざとらしく咳をした。
「パメラ、ハーヴェイ。二人が一緒だなんて珍しいこともあるのね。どうかしたの?」
「……このバカな神父から聞いて」
のほほんと微笑んでいるハーヴェイを親指で差す。
「こら、パメラ!人を指差さないの!!」
怒られても今回ばかりはやめない。
私だって我慢してる。本当ならこの指を下にしたいところだ。
「いいんですソフィア様。それ以上のことをした自覚はありますから」
慌てた様子で、失礼だと怒り出した院長をハーヴェイが止める。
「パメラ様が怒るのも無理はありません」
自覚があるなら何よりだ。
二度とやるなよ。と睨むと苦笑いを返された。
「まずはソフィア様に謝らないといけません」
ハーヴェイが口を開くと、張り詰めた空気が広がった。
「ハーヴェイ?どういうことかしら……?」
顔を曇らせた院長に、ハーヴェイは一瞬唇を噛み締めて、また口を開く。
「ソフィア様が孤児院を作る時にした約束も、パメラ様が聖女の資格があるとわかったあの日の約束も破ってしまいました」
「それって……」
怯えたような表情をした院長が、手を胸の前でぎゅっと握る。
「パメラ様に……誓約の印を消していただきました」
椅子がガタンと後ろに倒れる音が部屋に響く。
ハーヴェイに掴みかかろうとする院長の腕を掴んで止める。
「夫婦喧嘩はあとでやってよ」
「ふ、夫婦じゃありません!!」
「そ、そんな……ソフィア様とはそのような関係じゃ……」
真っ赤な顔で否定をする二人に呆れた顔を向ける。
孤児院どころか街にまで噂されてるのに、その言い訳はもういい。
「それより、どういうことかきっちり説明してよ」
昨日はハーヴェイを治した後、疲れ果てて結局聞けなかった。
今度こそは聞かせてもらう。
「はい、もちろんです」
「ダメ……ダメよ!やめてちょうだい!!!」
突然大声を張り上げた院長の方を見ると、拳を握りしめて、涙を貯めている。
(そんなやばいことなの……?あーあ、本当に嫌になってきた)
こんな怯えた院長の表情を見るのは、孤児院の食事問題を解決しようとした時以来だ。
(ん?)
これってもしかして……あの時の怯えてる謎の人に関係してる可能性ある?
「院長、おじいちゃんの時に怯えてたのこれと関係あるの?」
「っ」
院長の体がビクッと跳ねた。
なるほど……関係あるんだ。
「じゃあいずれ問題になってたんじゃない?避けては通れないでしょ」
「それでもあなたを巻き込むのは嫌よ!!!
あなたを迎え入れた時、幸せにするって決めたわ!」
そう言われても、もう巻き込まれてる。
今更、嫌って言われたってどうしようもない。
「危険なことに巻き込まれるってわかってて、巻き込むなんてできないわ!!」
「ソフィア様……」
結局こうなるよね。気持ちはわかるけど……
ここに来てお預けだなんて、私も納得できない。
大変な思いして治したんだから!!!絶対吐いてもらう!!!
「ああ、もう!!ごちゃごちゃうるさい!
今更そんなこと心配しても遅い!解決するために教えてって言ってるだけじゃん!!」
「嫌よ!あなたは一人で突っ走るでしょう!?
今回がいい例よ!昨日ユアンたちと一緒にいたはずなのになんであなただけなのよ!」
「はぁ!?子供をこんなのに巻き込めるわけないでしょ!このくそババア!!」
この世界と前世では年齢の違いはわかるけど、前世だとまだユアンたちは小学生だ。
いくらなんでも前途多難すぎるし、大人の私からしたら巻き込みたくない。
「パメラ様……」
今まで黙っていたハーヴェイが立ち上がる。
「いくらパメラ様でも、ソフィア様にクソババアなんて言葉許せません!!」
「うるさい黙ってて!エセ神父が!!」
「黙っててちょうだい!!あなたが元凶でしょう!!」
口を挟んでくるハーヴェイに2人で怒鳴る。
まさか院長にまで怒鳴られるなんて思わなかったのか、ハーヴェイは目を丸くしてしょんぼりと肩を落とした。
(いい気味だ)
「あの……」
この場にいない人の声が聞こえて、ドキンと心臓が高鳴る。
「あなたたち……」
院長と二人で振り返ると、アンちゃん、ユアン、ディランの三人がいつの間にか入ってきていた。
「俺たちも話を聞きたくて来たんだ」
「……」
院長と二人で目を見合わせる。
「足手纏いってことも頼りないってこともわかってるよ。それでも心配なんだ」
(はぁ……やだな)
「ユアンたちには関係ない」
「でも……っ」
「あと、私のことパーティーに誘うのももうやめて」
「……っ」
こんな言葉私も投げかけたくない。
ショックを受けた顔をしているユアンを見ていると心が痛い。
「あんたっ!!昨日みたいにまた一人でやるつもり!?」
アンちゃんが胸元に掴みかかってくる。
そんなに怒っても私は了承するつもりない。
伝えようと口を開く――
「アン、あなたたちの気持ちはわかったわ」
「え?ソフィアさん?」
前に、院長に遮られた。
掴まれていた力が緩まった。
その隙にやんわり解いて、服のシワを伸ばす。
「パメラ、私は決めたわ。あなたに頼まないわ」
院長が胸の誓約魔法があるであろう場所を抑える。
「やっぱあるんだ……」
ハーヴェイの印を見た時から、そんなことだろうと思っていた。
きっと聖魔法が使えないのも、理由が言えないのも誓約してしまったからだろう。
「知ったところで、今すぐどうにかできる問題ではないわ」
「わかんないじゃん……」
院長が諦めたような顔で、微笑む。
「もし……私を助けてくれるなら、Sランク冒険者になってほしいわ」
「は?」
なんでそこまで飛躍したのかがわからない。
Sランク冒険者というと、この国に一組のパーティーしかいない希少な冒険者だ。
それになれって……どういうこと?
「教会や王族にも無視できない存在になりなさいってことよ。
その時に治してちょうだい」
(なるほど……いいかもしれない)
教会は私が聖女の資格があるって知っている。
聖女の数も少ないし、既に無視はできない存在だ。
でも、より存在を示したいなら、本気で聖魔法を使うのを見せればいい。
教会相手にはお粗末な聖魔法しか使っていないから。
問題は王族と貴族。
王族を巻き込むなら貴族も巻き込むべきだ。
あとから横槍を入れられる。
王族も貴族も脳筋だから、強ければいいって考えだ。
それでも平民……いや、孤児には厳しいし、ただ強いだけじゃダメだろう。
でも、Sランクなら可能性があるかもしれない。
強い力、名声があれば、簡単に手出しはできないし、世間的にも無視はできなくなる。
(ん?)
ここまでしなきゃいけない相手ってこと?
それって……
「実は私もそれを言おうとしていました。
教会を潰すには、王族、貴族も巻き込んだ方がいいと思います」
(ん?教会を潰す……?)
「ちょっと!!」と焦っている院長を見るに、聞き間違えではないみたいだ。
なるほど、教会が原因だったんだ。そっかそっか。
いつも嫌がらせしてくるのも教会。
ハーヴェイを治させた元凶も教会。
院長をこんな目に合わせたのも教会。
「ふ……ふっふふふ」
あーおもしろくなってきた。
笑顔が止まらない。
笑い声も勝手に漏れる。
「パメラ……あなた余計なこと考えてないでしょうね?」
私の様子を見て怯えた院長が、恐る恐る尋ねてくる。
「……私の恨みを買った教会を潰すのが楽しみだなって。
これで心置き無く教会のクソ共をぶっ殺せるね。ふっふっふ」
私に、あんなことさせた罪は重いと思い知らせてやる。
堪忍袋の緒もとっくのとうに切れてるんだよ。
「ぶっ殺すのはちょっと……いい人もいるわ……」
「知らない。じわじわ痛めつけてぶっ殺す」
「ちょっと!!!」
「あははは!冗談だよ。半分は」
さすがにそこまではしないけどやり返さないと気が済まない。
おかげで「楽に自由に楽に」だっけ?
あれ?「楽に自由に楽しく?」
まぁどっちでもいいや。
とりあえず、自由に楽しく生きたいって目標を狂わせた責任をとってもらう。




