46話「パメラの苦境」
痛みで暴れているハーヴェイが見ていられなくて魔法で眠らせる。
「誓約って……なにしでかしたのよ!?」
「知らねえよ」
頭を抱える。
昨日の夜から今までの言動がフラグになってることに今さら気づいた。
ああ、最悪だ。
「少なくとも神父を助ければ、ソフィアさんの秘密はわかる。それに、この神父も助かるだろうな」
「じゃあ早く助けなさいよ!」
残念ながら、そんな単純な話じゃない。
「助けたいのは山々だが、誰が治す。
それに王族の誓約を解除した、なんて知られたらどうなると思う」
「どうなるのよ……」
アンちゃんが戸惑うのも無理はない。
「……悪くて危険分子扱い、良くて崇め立てられる。
どっちにしろ、ろくなことになんねぇ」
「それなら、良い方にかけるしか……」
私もそう思う。
でも、それには厄介な相手がいるから99パーセント無理だろう。
「俺はともかくただの平民……
それも孤児がどうにかしたとなれば、貴族は黙ってねえよ」
「……っ」
残念ながら、現実は非常だ。
どうにもできないことはある。
「みんな、ちょっとこれを見てほしいんだ」
珍しくずーっと黙っていたユアンが何かを見つけたらしい。
ハーヴェイの刺青を指している。
「花の部分を見てくれ。たしか王族が使う誓約の印って紋章と一緒だったよね?」
「これ……ピオニーの花とは違うわね……」
この国を建てた初代の王様は愛妻家だったとか。
だからピオニーの花が大好きな王妃様のために、王族の紋章にこの花を採用したらしい。
ライオンは初代勇者一行兼王様が倒した、最大の敵とかだった気がする。
「てことは、王族が施した可能性は低いな……」
私もディランの意見に賛成だ。
わざわざ別の花を使うとは思えないし、この世界の魔法の精度的にも、できるか怪しい。
それが誰なのか、それが気になるけど――
「……まぁ、今はどうでもいいよ。そんなこと」
「パム?」
「……」
「は?どういう意味よ!?」
どうせ助けたら、ハーヴェイから詳細が聞ける。
となると、今はこの子たちが問題だ。
「時間がない。ユアン、アンちゃん、ディランあっちに移動して」
ハーヴェイから離れた場所に移動するように指示をすると、戸惑いながらユアンとアンちゃんの二人は移動した。
「……治すつもりかお前」
察しが良くて困る。
小さい頃から無茶ぶりに慣れさせすぎたかもしれない……
「秘密。ほら、さっさと移動して」
「おいっ!お前!!!」
ディランの腕を引いて、ユアンに押し付けるように渡す。
そして見えない、聞こえないようにユアンたちに防音、マジックミラー機能付きの障壁を貼った。
「おお、こんなこともできるんだ」
半信半疑でやったけど、やっぱ私天才だ。
障壁の中にいる3人を見ると、焦った顔をしているのが丸見えだ。
こちらが見えていないか確認のために、手を振っても、なんの反応もない。
むしろ、違う方向を見て段々と怒りを顕にした3人に頷く。
(よし、これで集中できる)
「助けるって言っても限度があるのわかってんの?」
神父に文句を言う。
まぁ、眠らせて気を失ってるから聞こえてないだろうけど。
「本当に教会のヤツらってムカつく」
でも――
このバカな元護衛騎士が、うちの院長のためにこうして犠牲になってるのに助けないなんて選択肢はない。
それに院長の大切な人を助けられるかもしれないのに、見殺しにした。
なんて結末になったら、院長に顔向けできない。
それを知っててこの神父は託したんだろう。本当に腹たつ。
「それに、あの子たち巻き込まないでよ。
遠ざけるとか、やりようあったでしょ」
障壁の中で出ようと奮闘してそうな子供たちを指さす。
手遅れな気もするけど、解除方法を見てないだけまだマシだろう。
嫌だからってついてきてもらったのは失敗だった。一人で来てれば……
「後悔しても遅い。それより始めよ……」
とはいえ、思いつくのは状態異常しかない。
本来ないものを体に付けて、体を蝕む。
呪いみたいなものだろう。
「効かない……」
そう思って治癒魔法をかけたけど、効いている様子はない。
「うーん、1回じゃだめ?」
何回も何回もハーヴェイに治癒魔法をかける。
使っているうちに、段々変化が起きてきた。
苦しそうな表情が一瞬だけ取れることがわかった。
でも刺青はまだ残ったままだ。
「となると、もしかしてこの刺青から呪いか何かが出続けてる?」
そうなると、内側の呪いをかき消しつつ、この元の誓約の印を取り除く……
そういう方法が必要なのかもしれない。
ていっても、どうやって?
回復魔法をかけながら、治癒魔法をかけて……取り除く魔法?
それってなに?
「ダメだ……思いつかない……」
自分で言うのもなんだけど魔法を使う力もコントロールも抜群だ。
いわゆるチートだとは思う。でも――
「こんなハンデ背負ってるやつに命預けるだなんてほんと馬鹿だよね……」
思い出そうと努力しているけど、今回使えそうな魔法が私にはわからない。
力はあるのに魔法の記憶は歯抜けだなんて、宝の持ち腐れだ。
本当に厄介なハンデだと思う。
「はぁ……」
考えてても仕方ない。
なにか魔法のヒントになるようなものがないか探そう。
腰を上げて、辺りを見回す。
カーテン、使えない。
窓、使えない。
意味があるかは分からないけど、何もしないよりはいいだろう。
客間の何もない部屋を続けて見回す。
テーブル、使えない。
お客用の果物――
ああ、最悪だ。
すごい嫌な方法思いついちゃった……
テーブルの上に置いてある果物が入ってるカゴの中にある、ナイフに目を向ける。
「はぁ……本気?人の皮膚なんて切ったことないんだけど……?」
前世、医者でもなんでもない、ただの社会人がなんでこんな羽目に。
「これで切れるんだよね?」
一応クリーン魔法を使って清潔にする。
「よし……」
手が震える。
「大丈夫」
焦らず深呼吸。
治癒魔法をかけながら、刺青が入っている皮膚をなるべく素早く取り除く。
死なないように合間に回復魔法もかける。
とりあえず小さく切ろう。
本当に消えるかわからないし、回復魔法で塞がる。
様子を見てやれば大丈夫。
「……大丈夫」
このままだとハーヴェイは死ぬ。
これからずっと私が回復魔法をかけ続けるなんて到底不可能だ。
それに苦しみは続いている。
生き地獄になるだけだ。
「……後悔がないようにヤれ、だよね」
ナイフをハーヴェイの胸に当てて、大きく深呼吸をする。
「ふぅ……本当、恨むからね。
痛いだろうけど我慢してよ!」
ハーヴェイの胸にナイフを入れた。




