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45話「神父からのお願い」

「……それはどういう意味?」


 助けてという言葉の真意を突き止めようと問いただす。


「私が知っているすべてを話すとなると少し長くなります。話し切れるかどうか……」


 目を伏せてハーヴェイは言葉を切った。


「すみません、一応お聞きしてもいいですか?」


 手を挙げたユアンに、ハーヴェイが「はい、どうぞ」と続きを促す。


「俺たちの孤児院のソフィア院長ってことで間違いないんですよね?」

「そうですよ。ユアンくんがいる孤児院の院長のソフィア様です」

「そう……ですか……」


 (胃が痛くなってきた)


 昨日の今日で、もう厄介ごとを持ってきた。

 しかも、院長の話だから聞かないなんて選択肢ない。


 ……やっぱり教会なんてくるんじゃなかった。


「諦めろ。聞くしかねえだろ」


 ソファに体を預けて、大きく息を吐くとディランから、呆れたような声がかかる。


「わかってるよ。落ち込んでるのに、追い打ちかけないで……」

「はっ、落ち込むタマかよ」

「うるさい」


 でもまぁ、たしかにディランの言う通りだ。

 とっとと話を聞いて解決すればいいんだ。


 そうしよう。問題が簡単であることを願う。


「ソフィア様が魔法を使えない理由、それはご存知ですか?」

「知らない。……知ってるの?」


 思いがけない言葉が出てきて、身を乗り出して食いつく。


 私だけでなく、ユアンとディランも身を乗り出している。


「ど、どういうことよ?」

「院長、聖魔法がほとんど使えないんだよ。聖女だったのに」


 これは院長の闇というか、孤児院の中で聞いちゃいけない質問だ。


 昔は何回か聞いたことがある。

 でも院長は口を閉ざして一向に教えてくれなかった。


 だからいつの間にか聞くのがタブー扱いされてきた。


 私が前世を思い出すきっかけになった、ユアンを看病したあの日。


 あの時に私がユアンを酷い病気だと思った理由は、院長が聖魔法をほとんど使えないことを知っていたからだ。


 だから院長が私に治療を頼みに来たと思った。


 それくらい、孤児院では当たり前になっているし、誰も理由を知らない不思議な話になっている。


「なんで……」

「知っているなら教えて欲しいです。神父様」


 人の秘密を暴こうとしなさそうなユアンが、秘密を知りたいと思う気持ちもわかる。


 使えない度に院長がすごい辛そうな表情をするから、何とかしたいんだろう。


「それを話すには、まずパメラ様にお願いがあります」


 ソファに座っていた神父様は、不意に立ち上がった――


「な、何してんの……」


 私の前に来たと思ったら、跪いて土下座をしだしたハーヴェイに眉間にシワが寄る。


「パメラ様は魔法がお得意と聞きました。

 魔法適正検査を担当させていただいた日から知ってはいましたが、あの時よりすごい魔法をお使いになられるとか」

「なんで知ってんの」


 漏らしたのどこの誰だ――


 と思ったけど、この神父に漏らす人なんて1人しかいない。


(おしゃべり院長め……)


「回復魔法もお得意なようですね。それなら望みがありますかね……」

「望み……?なんの話して……っ」


 ハーヴェイの言葉に嫌な予感がして、やめさせようと立ち上がる。


「あれは、ソフィア様がまだ聖女のお仕事をしていた時の話です……」

「……は?」


 土下座している神父の肩を掴んで、顔を上げさせると―――


 口から赤い液体が流れているのが見えた。


(血?なんで血なんか……)


 吐血しているハーヴェイを見て動揺する。


「神父様!?」

「ちょっと!どうしちゃったのよ!?」


 気づいたユアンとアンちゃんが立ち上がる。


「ま、だ……大…丈夫ですよ……」


 ニコリと苦しそうな顔で返事をしたハーヴェイにハッとする。


 動揺してる場合じゃなかった。


「みんな静かに。ディランは鍵閉めて」


 今すぐに飛び出そうとしている、ユアンとアンちゃんに指示を出す。


 1番冷静そうなディランには施錠をお願いする。


 神父は助けて欲しいと言っていた。


 ……きっとろくなことじゃないだろう。


 それにこれが誰かにバレたら厄介なことになる気がする。

 用心はしておいた方がいい。


 そう思って急いで、防音機能付きの障壁魔法バリアを張る。


 治安が悪いからっていう理由で日頃から障壁魔法の練習しといて良かった。


 これで音は漏れないし、ドアも開けられないはずだ。


「いいよ」


 喋っていいと合図を出すと、ユアン達はハーヴェイの元へ駆け寄る。


 止まってて欲しいとは言ってないけど、わざわざ止まっていたみたいだ。


「神父様、大丈夫ですか!?」

「なんで血流してんのよ!!」


 本当になんで血を流してんの。

 急いでハーヴェイに回復魔法をかける。


「ソ……フィア様が……いつものように……ぐっ、ふ、聖女の……ううっ…」


 この状態で話されても、全く入ってこない。

 焦っている様子のハーヴェイに、嫌な汗が出てくる。


(……胸?)


 次は胸を押さえ始めた。


 そこが痛いのかと思い、良くなるように胸を重点的に回復魔法をかける。


「ぐああああああっっ」

「神父様!落ち着いてください!」


 良くなるどころかどんどん酷くなってる。


 胸元をギュッと力を込めて握りしめ、掻きむしろうとする神父様に、ユアンが力尽くで抑える。


 しばらく回復魔法をかけても意味がないようで、ハーヴェイは叫び続けた。


 このまま回復魔法をかけ続けても、死ぬことはないかもしれないが治ることはないだろう。


 ……何が原因?

 さっぱりわからない。


「ディラン、回復魔法ヒールが効いてない。何か思い当たることある?」


 こういうのは私よりもディランの方が詳しそうだ。


 そう思って、一歩離れたところで厳しい顔つきをして、観察していたディランに振り返る。


「ああ。おい、ユアン。神父の服、脱がせろ」

「了解!」


 ユアンが急いで神父様の服を脱がせると、右胸に、動物と花の刺青が見えた。


 (ライオンと花……)


 刺青、血を流す、胸を掻きむしる。


 これは全部、院長の秘密を話そうとした時に起こった。


 (はぁ……なんて厄介なもの持ってんの……)


「その様子じゃ、気づいたか」

「気づいたも何も……


 なんで元聖女の元護衛の聖騎士が、王族が使う強力な誓約の印をつけられてんの」

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