44話「神父と聖騎士」
反射しそうなほど輝いている大理石の廊下を歩く。
外観だけでなく内観も豪華なようで、高そうな壺などが置かれている。
何回通っても、この教会は落ち着かない。
「パメラ様、皆さまお久しぶりですね。
ソフィア様はお元気でしょうか?」
もう一人の厄介者、この教会のハーヴェイ神父に先導される。
「元気だよ。ていうか今日も会ったんじゃないの?」
「ええ、冬のバザールの品を戴きました」
「……じゃあなんで聞くの?」
「日頃、お元気になされてるか私は心配で心配で……」
白と黒の神父服を揺らしながら、大袈裟にリアクションするハーヴェイに口元が引き攣る。
そんなに気になるなら会いに来ればいいのに、なんで私たちに聞くんだろう。
「パメラ様、俺も気になります。パメラ様がお元気かどうか。
だからまた孤児院に行ってもいいですか?」
「ダメ」
「そんなっ……」
談話室に着いた。
落ち込んでいる聖騎士を無視して、みんなで入る。
「お茶を取ってまいります」とハーヴェイは部屋を出ていった。
「なにしてんの……?」
ソファに座ると、足元で跪いてこっちを見つめている変質者がいた。
真顔で見つめ返す。
「パメラ様の顔色を見て、いつでも行動できるようにこの場にいます」
「は?」
「それにパメラ様は身長がまだ低いので届かないんじゃないですか?
ほら、足置きにでもいかがですか?」
「届くわ!!やめてよ、気持ち悪い!」
顔は悪くないのに、なんでいつもこうなんだろう。
それに仏頂面の顔を頑張って動かした結果、すごく悪い顔になっている。
本人は穏やかに笑ってるつもりで、その意思がないのはわかってるけど、ただの変態みたいだ。
「そんなんいいから立ってよ」
それに持ち上げろとか、いいように命令されてるだけで、忠誠心もないでしょ。
そう思って立つように促すが、首を横に振られた。
「照れ隠しですか?相変わらず変わりませんね。そんなに俺が好きですか」
「今年こそこの勘違い野郎を殴っていいよね?本気でイラついてきた」
腕を捲って拳を振り上げようとすると、ユアンに腕を掴まれる。
「パム、気持ちはわかるけど押さえて」
眉を下げて、困った顔をしているユアンの頭を撫でる。
撫でると嬉しそうな表情を見せるユアンに口角が上がる。
……ああ、癒される。
こっちは顔だけじゃなくて、性格もイケメンだ。
「……そうだね。挑発に乗る所だった」
怪我なんてさせたら責任とってくださいとか言われかねない。
こいつはそういうやつだ。
「ねぇ、誰かそろそろ説明してくれない?あたし何がなんだかわからないんだけど……」
アンちゃんから戸惑った声が聞こえてくる。
「それは私が説明いたしましょう」
人数分の紅茶とクッキーをお盆に乗せて持ってきたハーヴェイがドアから入ってくる。
「はじめまして。私はこの教会の責任者のハーヴェイと申します。
今後ともよろしくお願いしますね、アンさん」
サミュエルが白なら、神父は黒だ。
黒髪に神父服で対照的になっている。
オセロみたい。
「あたしの名前知ってるんですか?」
驚愕した様子のアンちゃんに、ハーヴェイは笑いかけた。
(お腹空いた)
ハーヴェイが持ってきたクッキーを口に入れる。
(美味しい……)
「ええ。以前、私はソフィア様の護衛を務めさせていただいておりました」
護衛を務めていたからか、未だに筋肉はすごい。
神父服で多少隠れてはいるけど、ほかの神父よりも明らかにガタイがいい。
それに顔だけで「全てを許しましょう」みたいな優しさを持っているだけに余計に目立つ。
(相変わらず似合ってない……)
「今でも交流はありますから、ソフィア様からアンさんのお話もお聞きしましたよ」
「ソフィアさんの!?
ていうことは聖騎士ってことよね?それがなんで神父様に……」
(そう言われればそうかも)
深く考えたことはなかった。
普通は院長が辞める時にそのまま聖騎士を続けるか、引退するかの2択だと思う。
ていうかなれるんだ。
「ソフィア様が辞めるのと同時に、私は神父に転身いたしました」
クッキーを食べ終わってしまった。
(物足りない……)
ご飯を食べていないから、お腹がすいてきた。
「神父がこの教会の責任者になれたのは、ソフィア様とご縁があったからでしょうか」
チラッと右横を見ると、ディランと目が合う。
要らなかったのか、お皿を交換してくれた。
「ありがとう」と小声で話しかけて、ユアンと半分にする。
(もうすぐ夜ご飯だからね)
「何かあれば、助けになるようにと仰せつかっております」
足元で「パメラ様は俺に言ってください。お助けします」と言っている聖騎士に軽く蹴りを入れる。
うるさい、黙ってろ。ていうかさっさと立て。
「それであの子は……なんであんなに嫌がってるんです?」
アンちゃんが心配そうな顔で私を見ている。
あ、天使だ。
でも下を見たら地獄がある。
「パメラ様の足元にいらっしゃる聖騎士は、サミュエルと申します。
パメラ様が聖魔法が使えるとわかった日から、パメラ様の担当をすることになりました」
にこやかな笑顔で、神父はサミュエルを紹介する。
「よろしくお願いします。
俺はパメラ様命の美形男子です。この顔でパメラ様を射止めてみせます。
アンさんもぜひご協力をお願いいたします」
「……」
(絶妙になんか腹立つんだよね……このバカ)
挨拶をされたアンちゃんも「何言ってんだこいつ」という顔をして、眉間に皺を寄せている。
「ごほんっ……パメラ様は聖女に興味がないようなので、彼は普段は別の聖騎士の仕事をしています」
(……仕事してたんだ)
チラッとサミュエルを盗み見ると、目が合って不器用にウインクをし始めた。
(全然できてない……)
職務をこなす姿は真面目だと思う。
毎日孤児院に諦めずに来るくらいだし。
そんなやつがなんでこんな変なことするのか分からない。
でも……ちょっと面白いと思った自分をぶん殴りたい。
(笑うな笑うな……)
「主人が欲しいのでしょう。だからああやって勧誘をしているのですよ」
私が聖魔法を使えるとわかったのが、8歳の時の適性検査だ。
どの魔法が得意か。
といった簡易的な魔法の検査だ。
その時、サミュエルの年齢は18だったはずだ。
嬉しくはないけど3年間勧誘を受けている。
(色々とお腹いっぱいかも……)
「ただその……勧誘の仕方が少し強引と言いますか……。
パメラ様的には嫌がらせと思っているようでして……」
「嫌がらせだなんてとんでもないです。俺はパメラ様を喜ばせようとしているだけです」
腹立つ笑みを浮かべて、違うと言い切った聖騎士にまた腹が立ってきた。
嫌って言ってるのに、3年間やめないのは嫌がらせ以外のなんでもない。
だんだん険しくなっていく私の顔面に、みんな苦笑いを浮かべた。
初めてサミュエルと会ったアンちゃんでさえ、私を見て気の毒な顔をしている。
本当に私、気の毒だと思う。
こんな変なやつに付きまとわれて。
……人のこと言えないけど。
「パメラが嫌がってたのはこれ?」
「そう。この馬鹿が、担当した日から毎日しつこく孤児院に来るから私が爆発した」
私だって初めはちゃんと優しく接していた。
敬語だって使ったし、話も聞いた。
でもいくら拒否しても変わらないから、諦めたしキレて、今現在に至る。
「それで、バザールの次の日が勧誘をする日ってことになった。院長たちが説得してくれて」
まぁ、それでも行きたくないから毎回ゴネてるけど。
バザールも冬だけじゃないし。
でもそれも今年までだ。
「来年からは絶対ここに来ない」
来年はもう冒険者になっている。
来る義理もない。
こいつに合わないと思うと清々する。
「そうですか……それでは俺もパメラ様について行って冒険者になりましょう」
(冗談でしょ?)
「絶対いや。
……もうそろそろ諦め時でしょ。
何回も言うけど教会の聖女にはならない」
冷たい、酷いと言われようがならない。
2度目の人生は好きなことやるって決めている。
「それでも俺は諦めません。諦めるわけにはいきませんから」
「……」
そう言って、聖騎士は立ち上がって部屋から出ていった。
「サミュエルさん、なにか思い詰めてるみたいだ……」
ユアンがポツリとそう呟いた。
「あんた、少し言い過ぎちゃったんじゃないの?」
アンちゃんから非難の顔を向けられる。
「可哀想?どう見ても私が可哀想でしょ……!
だってどう見てもあいつ厄介ごと抱えてるじゃん!!
アンちゃん!!巻き込まれて可哀想なの私!」
それにあんな意味深な言葉残していくのずるい!!気になっちゃうじゃん!!
「でも……」
「パメラのいうとおりだろ。
あいつ、過去に回復魔法使えないって言ったパメラに、怪我したって嘘ついて回復魔法使わせたり、
近所中に聖女様って喚き散らかして、強制的に聖女になるように仕組んだりする奴だぞ」
「そうだそうだ!!」
おかげで近所中に白い目で見られた。
聖女になるかは強制じゃないのに、なんで私が白い目で見られないといけないんだ。腹立つ。
「今回が本当だとしても、こいつも信じられねぇだろ」
「……」
そうだそうだ!
純粋な子供の私を何回も騙してきた男だ。信用がない。
ていうか助けて欲しいのなら助けてって言え!!
そうじゃないと助けたくない!
「パメラ前言撤回するわ。あたしが悪かったわ」
「信じてくれたならそれでいいよ。
とにかくあいつが必死に助けてって求めてこないなら私は関わらない!」
その代わり報酬ぶんどるけど。
まぁ、仕方ないから身内価格にしてやろう。
「あんた……実はあの聖騎士のこと気になってるでしょう?」
アンちゃんに鼻で笑われる。
「ふふっ、パム優しいから」
「どっちかというとお人よしだろ。お前と一緒で」
みんなで生暖かい目でこっちを見るのやめてほしい。
ただ後味が悪くなるから助けるだけだから。
「必死に助けを求めて……ですか……」
これまでニコニコと私たちの会話を聞いていたハーヴェイ神父がなにかを呟いた。
「パメラ様」
神父に呼ばれて、振り向くと真剣な眼差しを向けられる。
ただならぬ雰囲気を感じて息を飲む。
「それでは私とソフィア様をお救いくださいませんか」
「は?」




