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42話「冬のバザール・聖灯祭8」

「ちょっと!一発お見舞いしてやるってどういうことよ!?」

「そのまんまの意味だよ。あのハゲってアンちゃんの仇?」


刈り上げた頭の男に指を差す。


ユアンたちに押されてるみたいで、さっきから息を荒らげて大声で叫んでいる。


「お前ら全員殺してやる!!!」


(あ、負け犬の遠吠えだ)


怯えているアンちゃんの手を握る。


「手、握ってちょっとは落ち着いた?」

「ええ。それにあんたが普通すぎて……段々麻痺してきたわ……」

「ありがとう」

「褒めてない!」


いつものアンちゃんだ。

ツッコミにニヤニヤと頬が緩む。


(あ、ダメだ。和んでる場合じゃなかった)


「で?どうする?」

「私だって仇は考えたわ。

でも私は運動神経も悪いし、ドジよ。

魔法を使うのだってあまり得意ではないわ」


なんだそれだけか。

じゃあ問題ない。


「なるほどね。じゃあ私が教えてあげる」

「は?」


その言い方だと魔法が使えて運動神経が良くなればいいってことだよね。


「アンちゃん、私が魔法得意って知らなかったっけ?ちょっと待っててね」


 ザレックに近寄り頭を撫でる。

 

「ザレック、動かないでくれてありがとう。

そこの金髪くん、これをザレックの服の中に仕込むの手伝って」


血を清掃魔法で綺麗にして、収納魔法から取り出した瓶を数個、金髪くんに渡す。


「いいっスけど、これなんすか?」

「ケチャップ」

「ケチャップ?」


 ケチャップはこの世界になかったから、またおじいちゃんに教えた。

 ヒルダと料理対決をした時に卵を見て、オムライスが食べたくなったから。


 まさかここで使うとは思わなかったけど。


定番すぎる誤魔化し方だけど、ないよりはマシだろう。


「あ、金髪くん、これ数個切れる?」

「え?せっかく入れたのに切るんスか?」

「そう、大きく真っ二つに切って」

「あはははは!!結構無茶言うッスね!」

「ザレックを傷つけないように気をつけてよ?」


自分の剣に手を掛けた金髪くんに注意する。


でもその心配はなかったみたいだ。

綺麗に、チンピラハゲに切られた通りに切ってくれた。


「ナイス金髪くん!すごい!剣筋ピッタリだよ!!」

「えへへへへ、意外と俺、器用なんスよ!!」


ただの馬鹿なチャラ男だと思ってた、認識を改めるべきなのかもしれない。


「よし、瓶だけ回収して……これで完璧。ケチャップ臭いけどまぁいいや」


それに……もったいない。

オムライス作るつもりだったのに……


まぁ、仕方ないけど。


「はい、じゃあザレック。平気だったって思わせるために、もう一回あいつのとこ行ってきて」

「おう!任せろ!!」


 声をかけると元気よく起き上がったザレックにアンちゃんと金髪くんは口をぽかんと開けた。


「え?あいつ剣で斬られて……倒れてたわよね?」

「ええ!?なんで!?どうしてっスか!?傷は!?」


あまり大きな声を出さないで欲しい。

全部水の泡になる。


「だから言ったでしょ?魔法得意だって。回復魔法ヒール使ったのは秘密にしてね、めんどくさいのがいるから。

金髪くんわかってるよね?これは秘密ってこと」


 まだ信用ならないけど、色々見られたからもう遅い。


 口を割らないように脅そうと思ったけど、帰ってきた答えは——


「はい!あねさん!言わないっス!!」


 だった。


(姉さん……?なんで?)


なんかよくわからないうちに、手下ができたみたいだ。


(ま、いっか。黙ってくれるならそれで……)


「それよりアンちゃん、どうする?

本当に時間ないよ?ここに来るまでに騎士も呼んできたし」

「俺も仲間がいるっスよ!!

単独で探ってた最中だったんスけど、結構時間経っちゃったんで、そろそろ突撃してくるかもしれないっス!」

「ていうことはもっと時間ないかも」


 アンちゃんは迷っているみたいだ。

 仇を打ちたいけど、勇気がないみたいだ。


(あ、じゃああれだ!)


「アンちゃん、家族に愛してるって言われたことある?」

「突然、何よ……。でもそうね、亡くなる前にも言われたわ……」


 思い出させて申し訳ないけど、それなら話が早い。


「知ってた?愛してるって言葉は違う意味もあるんだって」

「え?」

「自分たちが亡くなった後にしてほしい行動らしい」


これがなかなか面白い。

私はめちゃくちゃ効いたからアンちゃんにも効くといい。


そう思って口を開く。


「あ、焦らず深呼吸

 い、いつも通り胸を張れ

 し、心配するな、どうにかなる」


指をひとつずつ立てていく。


「て、天高く見守っているから、やりたいことをやりなさい

 る、だから歯向かってくる雑魚なんて蹴散らして、どうせ死ぬならヤれ。そして人一倍幸せになれ」


 これは私の叔母からの言葉だ。

 あの人も私に負けず変な人だ。


「いい言葉っスね〜!」

「どこが!?最後の「る」はどこに行ったのよ!?」

「知らない。でも面白いと思わない?

それに今の状況にピッタリでしょ?」


私の言葉にアンちゃんは「うーん」と頭を抱え始めた。


おかしい、あまり響かなかったみたい。

いい言葉なのに。


全く。仕方ない子だ。


「何をそんなに怖がってんの?」

「え?」


 ここに来て数日で怖い思いをしたのを忘れているみたいだ。

私はちゃんと覚えている。


「貴族の息子の時は震えてなかったでしょ。手を出せない相手よりぶん殴れる相手に怖がる必要ある?」


そうだ。貴族はあいつより厄介だ。

話も通じない、暴力もダメ。


相手にしてると本当にイラついてくる。


「こんなまたとないチャンスを逃すほど、アンちゃんって弱い女だったっけ?

今、貴族に処刑されるより怖い?」

「怖いわ。手の震えも止まらないのよ……」

「そっか……じゃあ仕方ないね」


座り込んでしまったアンちゃんの頭を撫でて立ち上がる。


「パメラ……?どこ行くの?」

「アンちゃんがやらないなら私がやる。

でも後で文句言わないでね」

「は?」


アンちゃんにいい機会を貰った。

これで憂さ晴らしができる。


あいつのせいで泣く羽目になった。

この辱めはあいつに返させてもらう。


ギリッと拳を握りしめる。


「私、結構腹立ってるから、あいつの顔面がピーになって、ピーーになるかもしれない。

それに死よりも怖いピーピーピーとかしちゃおう……」

「わかったわよ!やればいいんでしょ!?だからこれ以上はやめなさい!」


慌てたアンちゃんに口を塞がれる。


(ほんの冗談なのに、慌てちゃって可愛い)


「覚悟決まった?」

「ええ、あんたがあたしのためにあそこまでやるんだもの。頼ってばかりいられないわ。

それに、ここで踏ん切らないと前に進めない気がする」


真剣な表情を見せたアンちゃんに拍手をする。

よく決心した。えらい。


ちょっと私の強引さは否めないけど、時間が無いから許して欲しい。


「はーい、じゃあやりましょう!」

「わかったわよ……どうすればいいの?」


立ち上がったアンちゃんに、あいつの方を見るように指示する。


「今から言うことに黙って集中して実行してね。他のことは考えない」

「ええ」


 今から教えるのは、私が散々考えてきた魔法の知恵だ。

まだ憶測でしかないけど、多分いけると思う。

 

「思い込みでもいいから、私はできるって思いこんで。


 それが出来たら次は目を瞑って、強化魔法で、足、拳を強化するのを思い浮かべて」


次々と指示をしていく。


「拳は、かちかちで殴られたらとびっきり痛い。

足は、運動神経もドジっ子も解消されるように。

きっと綺麗に上手く回転してると転ばないよね。

あ、そうだ。雪合戦した時のヒルダたちを思い浮かべたらいいかもね。

拳はユアンみたいに力持ちな印象かな」


上手く想像できるように、アンちゃんに囁きかける。


「そしたらアンちゃんは痛くないし、転ぶ心配もないね。


 それが思い浮かべたら、次はもう実践するのみだよ」


アンちゃんがギュッと踏みしめて、拳を強く握り締めているのが見えて頷く。


「アンちゃん、私が怪我しないようにサポートしてあげるから、あのクソ野郎に一発お見舞いできるよね?」

「ええ!!」


 目を開いて、走り出したアンちゃんを見送る。


「よし、これでザレックからのお願いは完全に完了かな」


◇◇◇


「あーあ、全然聖灯祭楽しめなかった」


とっくに終わってしまった聖灯祭に俯いて肩を落とす。


綺麗だから結構好きなのに……


「しょうがねえだろ」

「パム。それなら、みんなで星空でも見てから帰るのどうかな?」

「いい案だね!!」


ユアンの提案に勢いよく顔を上げる。

 

「いいなあ!それ!!!」

「俺もお供します姉さん!!!」


 まだいたんだ金髪くん。

でもまぁいいや。アンちゃんを守ってくれたみたいだし。


「アンちゃん、行くよー!」

「ええ」


後ろを歩いているアンちゃんに近寄る。

 

「ずいぶんスッキリした顔になったじゃん」


 アンちゃんの顔を突く。


「結局、転けちゃったけど2回目は成功したから満足したわ」

「ふっふっふっ、初心者であれは鍛えがいがあるね」


今度、鍛えてあげようかな。

アンちゃんドジで心配だし。


「おーい!何してんだ!!!行くぞぉぉぉぉぉ」

 

大声を出したザレックが、ディランに殴られている。

うん、夜だからなるべく静かにね。


「行こう、アンちゃん」

「パメラ……」

「ん?」

「このミサンガありがとう。大切にするわ」

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