41話「冬のバザール・聖灯祭7」
キンッとディランと盗賊の手下らしきヤツの剣がぶつかる音が響く。
「ちっ、うぜぇな」
ディランは苛立たしげに舌打ちをした。
気持ちはわかる。これで何回目だろう。
うじゃうじゃ出てきて本当に鬱陶しい。
ディランに敵の対処を任せている間、耳を澄ます。
「俺の……な……よ!!!!」
遠くで聞こえてくる声にハッとする。
これはザレックの声だ。
普段うるさいと思ってたけど、こんなところで声の大きさが活躍するとは思わなかった。
「ディランこっち!」
まだ残っていた盗賊たちを眠らせて、ディランと路地裏を走り抜けると、アンちゃんたちの声も小さく聞こえ始めた。
それに……近づくにつれて血の匂いが漂ってくる。
「おい、行けるか?」
「行けるに決まってる」
「そうか」
もう覚悟は決まってる。
それに、生きてる限りどんな傷でも私が治す。それだけの力はある。
大きく息を吐いて深呼吸をする。
「よし行こう」
しばらく走っていると、アンちゃんたちの姿が見えて、さらにスピードを上げて近づく。
現場に着くと、ユアンがひとりで敵と対峙していた。ザレックとアンちゃんは血まみれだ。
しかもアンちゃんは短剣を持ってるし、ザレックは倒れている。
「おい!アン止めろ!!俺はユアンに応戦する!」
「もちろん、そっち任せたよ!!」
予想以上に酷い。
(ザレック生きてるよね……?)
とりあえず、これ以上怪我人を出さないのが先決だ。
ザレックに回復魔法をかけながら、アンちゃんの腕を掴む。
アンちゃんの顔を見ると、虚ろな目で瞳には何も映していなかった。
(や、闇堕ちしちゃってるよ!!)
……ダメだ本当に焦るな。アンちゃんの今後に関わるかもしれない。
でも――
「アンちゃん、ストーップ。何してんの?正気に戻れないならぶん殴るよ」
物理的にやめさせる方法しか思いつかない!!
……でもこれでいい!多分!!!
ついでに本気でやるからね?と睨みつけるとアンちゃんの表情が段々戻ってきた。
(よ、良かったぁ……)
私が本当にやりかねないと思わせておいてよかったかもしれない。
変人って呼ばれる日頃の行いがここで活きるとは思わなかった。
「パメラ?」
「そう、パメラちゃんだよー?よく頑張ったね」
頑張ったどころか、ものすごく頑張ってる。
平気で人を殺す奴を相手に、生き延びるなんてたいしたものだと思う。
前世の私がその年齢の時なら、気が狂って漏らしてるかもしれない……何がとは言わないけど。
「え?」
何を言われたかわからない様子のアンちゃんの頭を抱き寄せて抱きしめる。
ザレックが生きているかチラッと確認すると、親指を立ててこっちを見ていた。
(頑丈だね……)
「ザレックは生きてる。誰も死んでない」
「本当……?」
「うん。だから自分を責めるのはやめて。あのクズが全部悪いんだから」
本当に良かった。
今はとりあえず、みんなが生きてるならそれでいい。
なんか一人、街でアンちゃんにぶつかりそうになった見覚えのあるバカがいるけど。
私たちを見て泣いている金髪のチャラ男にチラッと視線を向ける。
こいつ仲間でいいんだよね?
「パメラ……」
「なに?」
アンちゃんに呼ばれて、チャラ男を片隅にやる。
「あたし生きてていいの?」
(な、なんて難しい質問……)
きっといいよ。って言うところなんだろうけど、それだけで納得するとは思えない。
闇堕ちするくらい考えてたんだろうし。
うーん……
アンちゃん意外と情に弱いし、情に訴える作戦で行こうかな。
「アンちゃんは孤児院のみんなを泣かせたい?」
「泣かせたくはないわ……」
いい傾向だ。
「じゃあ生きててよ。私たちのために。
家族を失うのは辛いんだよね。知ってるでしょ?」
きっとアンちゃんが亡くなったら、孤児院のみんなは昼も夜も泣き続けると思う。
「そうね……でもその言い方はずるいわ……」
(まぁ、そりゃ私はずる賢い大人だからね)
でも、守るのが大人の役割でもあるから。時にはずる賢く、厳しくすることも……
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
(え、泣いちゃった)
や、やりすぎた?いや、でもいい傾向なのかな!?
アンちゃんが泣くのは初めて見た。
オロオロと焦ってザレックの方を見ると、ニカッといい笑顔を見せていた。
(あ、これでいいんだっけ……?)
ザレックがアンちゃんは泣かないって言ってた気がする。
感情を出せるようになったってことは……ザレックのお願いも叶えられたってことだよね?
ザレックにニコニコと親指を立てて見せる。
よくやった。
でも後で、
なんで冒険者になる前に盾魔法教えたのに使わないの!この馬鹿!
不器用なザレックに教えるのに何時間使ったと思ってんの!!
って文句は言いたい。
(後で覚えてろ……)
睨みつけると、私が怒っているのがわかったのかザレックの顔はみるみるうちに青ざめていった。
それにしても――
「アンちゃんって結構泣き方豪快だね」
「うるさいっ!久しぶりに泣くんだから黙って泣かせてちょうだい!!」
確かにその通りなんだけど、実はモタモタしてる暇はなかったりする。
今、前線で戦っているユアンとディランの二人も気になる。
それにもう一つやり残している。
「アンちゃん」
「な、なによ……」
よからぬ事を考えてると思ったのか、怯えた顔をしたアンちゃんに笑いかける。
「あのクズに一発お見舞いしてやる気はない?」
「は?」




