40話「冬のバザール・聖灯祭6」
※今回はいつもよりシリアスな内容になります。
「お…さ……お嬢さん!大丈夫っスか!?」
金髪の変態に体を揺すられて我に返る。
「え、ええ……」
あたしが返事を返すと金髪の変態は、安心したようにホッとした顔をした。
自分の口から出てきた声は、カスカスだったが、かろうじて聞こえたみたいだ。
「あ、あいつは……?」
「とりあえず逃げれたみたいッス。
でも……残念なことにあいつの手下が周辺を彷徨いているみたいでここから離れられないッス」
たしかに遠くの方で、あたしたちを探している声が聞こえる。
「俺じゃ守りきれないんで、ここ入るッスよ。汚いし臭いけど、ちょっと我慢してくださいッス」
そう言って金髪の変態は、ゴミ箱に指を差した。
大人が二人入れそうなくらいの大きさだ。
「怖いだろうけど大丈夫ッスよ。俺の味方もそのうち来てくれると思うっス」
差し伸べられた手を掴んで、ゴミ箱の中に入る。
「金髪のへんた……あんたって何者なの?」
「ちょっと待ってくださいっス!変態って言おうとしたっスか!?俺は冒険者のエドッスよ!!」
「ちょっと!声が大きいわよ!」
大声で話すエドの口を慌てて抑えて、ゴミ箱の蓋を閉じる。
漂ってくる臭いがさっきよりも臭くてウッと鼻を抑える。
「予想以上っスね…生ゴミの臭い……」
伝わっているか分からないけど、頷く。
全く同意だわ。
こんな所に入るだなんて思わなかった。
「怖いっスよね。
すみません、ウィディゴ盗賊団がこの街に来てたの知ってたのに……すぐに避難させなかった俺が悪いっス……」
頭を下げるエドを制する。
「あんたのせいじゃないわ。元々あたしが悪いのよ。それに……いてくれて助かったわ」
体の震えはまだ止まらないけど、エドのおかげでだいぶ正気に戻れた。
一人だったら、今頃とっくにあいつに捕らえられてた。
(情けなくて嫌になるわ……)
親の仇も取れない。
それだけじゃなく震えているだけなんて……
「お嬢さん……」
ガサガサとエドが動く音が聞こえる。
慰めようとしているのかもしれない。
そう思っていると――
「おーい。お嬢ちゃーん!出ておいでー」
近くからあいつが呼ぶ声が聞こえて、息を飲む。
涙が出てカタカタと歯が鳴る。恐怖で声も出そうだ。
慌てて片手で口を抑えて、自分の身体を抱きしめる。
本当にあたしは何をビビってるの。
こんなに近くに、恨んでるやつの声が聞こえて、仇も打つチャンスよ。
次会った時は絶対復讐するつもりだったのに……
なのに、また震えて何もできないの?
今もお願いだから、どこかに行ってって思ってる。
やっぱり、あたしは何も出来ないどうしようもないやつ……
「お嬢さ……!?」
こっちを見ているエドの目が見開かれるのが見える。
おかしい。
ゴミ箱の中は真っ暗で何も見えないはずだ。
なのに今は光が差し込んでいてエドの顔が見れる……
ハッとして上を向くと、涙でボヤけた目に赤髪を刈り上げた坊主頭が見える。
次第に目が慣れていくとニヤニヤとこっちを見ている、凶悪な顔をしたあいつがいた。
「みーつけた」
息を呑む。
こっちに向かってくる手に、思わず目を瞑る。
もうダメだわ……。
結局、何もできないまま私は……
「おい!!なーにやってんだ!!俺たちの家族によ!?」
何かが飛んでくる音が聞こえて、目を開けたのと同時に、目の前の盗賊のリーダーが消えていくのが見える。
「アン、大丈夫!?」
「ユアン……?」
「うん。とりあえず抱えるよ?」
必死に頷くと、ユアンの手が伸びてくる。
「無事で良かった」
「なんでここに……」
「戻ってきたらアンがいなくてすぐに追ってきたんだ。見つかって良かった」
いつもみたいに、にこりと笑うユアンに酷く安心する。
「兄さん!アンは無事みたい!!」
「おう!よかった!!!心配したぞ!」
ザレックが走ってくる。
盗賊団のリーダーは、ザレックの後ろでうつ伏せで倒れている。
(ザレックって強かったのね……)
「急所に当たったみたいだからしばらくは動かねえと思う!」
「ザレック……」
「おう?どうした?」
いつも通り、大きな声で馬鹿そうな顔をしているザレックに安心する。
さっきとは違う意味で涙が出てくる。
安心しきって力が入らない。
あたし、そこまでみんなのこと信用してたんだ……
なんで孤児院のみんなはこうやって助けてくれるの……?
「お前……やっと泣いたか!」
「兄さん、これは怖かったからだよ……きっと生理現象だよ」
「そうか?前だったら、光の無い目で諦めてぼーっとしてたと思うぞ?」
そういってザレックは顔を覗き込んでくる。
そしてニカリと笑ったと思ったら、ハッと焦った顔に一変した――
「あぶねえ!」
え?って思った時には、ザレックに抱きしめられていて、肩越しの盗賊団のリーダーと目が合う。
恐怖で膝の力が抜け、崩れ落ちてくるザレックと一緒に倒れ込んだ。
手に生温かい感触がした。
持ち上げると真っ赤に染まっている。
「嘘……」
慌てて下を見下ろすと、ザレックは力なくあたしに倒れかかっており、地面には血溜まりが出来ていた。
「は…ははは」
また目の前で死んだ。
あの時と同じだ。あたしを庇って大切な人は死んでいく。
「兄さん!!すみません、俺が出ます!!二人をお願いします!!!」
「了解っス!!」
ママとパパの時もそうだった。
あたしをクローゼットに隠して死んでいった。
なんであたしは死なないの?
あの時も……あたしだけ騎士に偶然助けられた。
なんで?あたしがいけないの?
あたしがみんなを不幸にしてる?
「アンさん大丈夫っスよ!ザレックさん死んでないっス!
ちょっとアンさん!?何してるっスか!?短剣返してくださいっス!!」
じゃああたしが死ねば……みんなは不幸にならない?
それなら……
「アンちゃん、ストーップ。何してんの?正気に戻れないならぶん殴るよ」
ふと声が聞こえて来て、目線を上げるとパメラがいる。
この子も来てくれたんだ……
「パメラ?」
「そう、パメラちゃんだよー?よく頑張ったね」
「え?」
ニコニコとしたパメラに抱きしめられて頭を撫でられる。
「ザレックは生きてる。誰も死んでない」
「本当……?」
「うん。だから自分を責めるのはやめて。あのクズが全部悪いんだから」
本当にみんな助かったの……?あたしのせいじゃないの?
でも、パメラが言うならきっとそうなのね。
なんでパメラがカッコいい大人に見えるの?
ただの変人だと思ってたのに……
なんでだろう。言葉がスッと入ってくるわ。
……もう1個、欲張ってもいいのかしら。
パメラに聞きたいことがあるの。
「パメラ……」
「なに?」
「あたし生きてていいの?」
「アンちゃんは孤児院のみんなを泣かせたい?」
その質問はどういう意味かしら。
でも、そうね……
「泣かせたくはないわ……」
「じゃあ生きててよ。私たちのために。
家族を失うのは辛いんだよね。知ってるでしょ?」
パメラの言葉にハッとする。
こんな時でもパメラは変わらない。
そこは慰めるところでしょう。
でも、ニヤリと笑うパメラに釣られて段々おかしくなってきた。
「そうね……でもその言い方はずるいわ……」
私……生きてていいんだ。




