39話「冬のバザール・聖灯祭5」
「うめえ!!」
「本当だね兄さん。
おじいちゃん、こんなに美味しいご飯をありがとうございます」
「いいんじゃよ。2人ともいい食いっぷりじゃのう〜いっぱいお食べ」
既にユアンとザレックの前には、空のお皿が山盛りになっている。
まだまだ積み上がりそうで、見てるだけで胸焼けしてきた。
「アンゼリカちゃんも食べてるかのう?」
「ええ、ご馳走様です。でも本当にいいんです?お金払わなくて……」
お爺さんにはご馳走をすると言われたけど、この量はさすがに……。
「いいんじゃよ。パメちゃんからお願いされておったからの」
「あの子から?」
「うむ。嫌ってほど、みんなのお腹を満たしてやってって言ってたのう」
「……」
(ツッコんでいいのか、わからないわ)
冗談なの?それとも本当にパメラの言葉?
それにお爺さんにツッコんでいいのかしら。だいぶ年上の方よ。
「ていうのは冗談じゃ。会ったらいい思い出になるように美味しいもの食べさせてあげてじゃと。」
「……」
「パメちゃんって不思議な子じゃよな。
小賢しいし、生意気じゃし、そのうえこの間なんかのう。わしが―――」
ほのぼのしたと思ったらなんか、いつの間にかパメラへの愚痴が始まっちゃったわよ!?
お爺さんに何したのよ、あの子!
結構な鬱憤溜まってるわよこのお爺さん!!
「……でもいい子じゃ。それにあの孤児院の子は全員な」
「……ええ、そうですね」
わかってる。
だから突き放せなくて……どうすればいいのかわからないのよ。
「爺さん、サンキュー!!じゃあな!!」
「おじいちゃんご馳走様でした」
「……ありがとうございました」
「じゃあの〜!聖灯祭楽しむんじゃぞ〜!」
少し……食べすぎたわ。
それにあのパウンドケーキってやつ美味しかった。
……お爺さんは癖が強すぎたわ。
「次はどこ行こうか?」
「さっき見れなかった露店でも見にいくか?掘り出しもんとかあるかもしれないぞ!」
(あれ?)
本来あるはずの物がザレックの手元にないことに気づく。
「……あんた旗は?」
指摘すると、ザレックは顔を青くさせて走り出した。
「やべぇ!爺さんのところに忘れた!!俺、取ってくる!!ここで待っててくれー!うお!?」
知らない人とぶつかりそうになったザレックが慌てて回避する。
「兄さん!急がなくていいから人にぶつからないように気をつけて!」
慌ただしいやつ。
元気なのは良いけど、時々あのテンションが鬱陶しいのよね。
「端の方で待ってようか」
「そうね」
ユアンと二人で邪魔にならないところに移動しようとすると
「あ!ユアン!!ひっさしぶりぃー!!!」
「うわ……っ!」
(今度は誰なわけ?)
オレンジの髪の毛をお団子にした女の子がユアンに抱きついている。
(何?この女)
それに私の方をちらっと見て、一瞬勝ち誇った顔を見せてくる。
……鬱陶しいわ。
あたしはそいつに興味無いわよ。
「もー!!!なんで会いに来てくれないのさ!!」
「ごめんねラナちゃん」
ユアン、あんた押しに弱いわね。
苦笑いしてるくせになんで受け止めてるのよ。イライラしてくるわ。
「ラナちゃん紹介するね。この子は……」
「そんなこと良いの!!!それよりユアンちょっと来て!!!」
「ちょっと待って、今は」
「早く早く」
こっちを見て助けを求めるのはやめてちょうだい。
助ける気なんてないわよ。
さっさと行けと手で払うと申し訳そうな顔をしながら「すぐ戻るからそこにいて」と言いながらウザい女に手を引かれて行った。
「はぁ、鬱陶しい女が消えたわね」
嫌いなタイプだわあの子。
紹介を遮るなんて失礼だわ。
それになに?あの勝ち誇った笑み。
あいつ絶対性格悪いわね。
もし、あの子の立場がパメラだったら、ユアンじゃなくて「誰?その子?」って私に興味を持っていたでしょうね。
……いや、これだとあの子を褒めてるみたいでなんか嫌だわ!!!
別のことを考えましょう。
「……家族連れが多いわね」
さっきよりも家族連れがどんどん増えていってるように感じる。
手を繋いでいる家族、楽しそうに笑い合ってる。
それに、幸せそうな恋人もいる。
「いいな……」
それに比べてあたしはひとりぼっちね。
孤児院のお節介馬鹿どももいなくなったわ。
あたしもママとパパと、このお祭りに……
(何を考えてるのかしら……もうこの世にいないのに……バカみたい)
前の孤児院では、自分のために前を向けって言われたわ。
でも……まだ会いたいって思うのはそんなにいけないことなの?
(もし……もし……こういう時パメラだったらどう思うのかしら……)
◇◇◇
「ここ……どこかしら……」
気づいたら知らないところに来ていた。
無意識のうちに人を避けて歩いていたみたいだ。
さっきの騒音とは違い、シーンと静まり返っていて、人の話し声も物音ひとつない。
自分の足音だけが響き渡っている。
「なんか不気味ね……」
こんなところ、早く出ましょう。
急ぎ足で大通りを目指そうと足を踏み込んだ瞬間――
「誰っすか!?」
「ひゃっ!!」
後ろから声が聞こえてきた。
振り向くと、褐色で金髪の男が立っていた。
「君……なんでこんなところにいるんッスか」
その男は私を認識した途端、慌てた様子で近寄ってきた。
そして唖然と突っ立っている、あたしの耳元に顔を寄せた。
「変態!!!」
「うわあ!!?」
殴り掛かろうとするが、寸前でかわされる。それどころか口を抑えられた。
「んー!!んんー!!!(変態!離せ!!)」
暴れまくると、後ろから抱えられるように抱きしめられる。
やっぱりこいつ変態よ!!!
身体にゾワッと鳥肌が立つ。
「シー!シーっすよ!!ここ危ないんスよ!領主様の屋敷より北の話を知らないんスか!?」
領主様の屋敷より北?
聞いた覚えがあるわね。
「あれ?その様子じゃ知ってるんスか?」
「んー!!」
声を出そうにも塞がれてたら出せないわよ!!
腕を叩くと「あ、すみませんっス!」と言って解放された。
離された途端、距離を取ると「なんで!?」と金髪の変態は傷ついた顔をした。
悪いやつではなさそうだけど、用心のためよ。
「それより話の続きよ。その話はどこかで聞いたことがあるわ。でもあまり覚えていないのよ」
「それじゃあ簡単に説明するッスね」
「ええ」
「ここは領主様の屋敷に変な輩をなるべく寄せ付けないために、祭り中は屋台も何も出さないッス。
警護も人手が足りないんで他に回されて、危ない輩が来る可能性があるッス。
普段は問題ないんスけど、祭り中はここには近寄るなっていうのがこの街での基本なんっスよ」
あ、思い出した。
パメラたちに街を案内された時に言われたわ。
「お嬢さんここの出身じゃないんっスか?」
「私はソイルの街、出身よ」
あたしがそういうと金髪の変態は固まった。
「ソイルの街って言ったスか!?そ、それはまずいっス!早くここから…っ!!!」
急に浮遊感を感じて、思わず歯を食いしばる。
舌をちょっと噛んじゃった。
「何すんのよ!!」と怒鳴ろうとした。
その時――
「よお、ガキがこんなところで何してんだ?ん?売れそうなガキがいるな」
声を聞いた途端、体が無意識に震える。
体の力が入らない。
「まずいっすね。大丈夫っすかお嬢さん!!」
この声……聞いたことある……。
忘れもしないわ……。
だって……あたしの両親を殺した盗賊のリーダーだもの。




