37話「冬のバザール・聖灯祭3」
「こっちにもいない……」
あれからディランと二手に別れて探すことになった。
私は東と南。
ディランは西と北の領主の屋敷付近までだ。
一通り見て回ったので、待ち合わせ場所の領主の屋敷まで走る。
「ディラン!!ユアンたちいた!?」
待ち合わせ場所に着くと、ディランが立っているのが見えて、急いで駆け寄る。
「居ねえ」
ディランの方にも居なかったみたいだ。
「孤児院に帰ったとか?」
「その可能性もあると思って一応戻った。居なかったぞあいつら」
街の人たちはポツポツと光の玉を作り始めている。
孤児院にもいないとなると
……行方不明なのは確定してしまった。
(どこにいるの……)
さっきから嫌な予感がして、ずっと心臓がバクバクしている。
きっと今の私の顔は顔面蒼白だろう。
指先まで、冷えていくのが自分でもわかる。
こういうときは焦らず深呼吸だ。
何か方法がないか、ちゃんと落ち着いて考えよう。
(あ、そうだ!)
今こそ使うべき探索魔法があった。
予想以上に焦っていて、魔法の存在を忘れていたみたいだ。
これで手掛かりがわかるといい。
そう思って魔法を発動してみるが——
不発だった。
「え……」
何も起こらなくて情けない声が出る。
何回も試してみるけど、何度やっても同じ結果だった。
「なんで……」
「どうした」
私の様子がおかしいことに気づいたディランを見る。
「今思い出したんだけど、私、探索魔法を使えるんだよね」
「どうだった」
「それが何回やっても不発……」
「は?」
目を見開いたディランに同意する。
は?って感じだ。
こんなことは初めてだった。
「ディラン、なんか魔法使ってみてくれない?」
「ああ。水球魔法」
詠唱するとディランの手の平に水で出来た球が出現した。
「大丈夫そうだね。てことは私の問題……?」
「まだわかんねぇだろ。お前もやってみろ」
頷いて私も同様に水球魔法を使う。
するとディランと同じように手の平に水球が現れた。
「成功した……」
「もう一回、探索魔法使ってみろ」
「うん」
もう一度探索魔法を使ってみるが、やっぱり何も起こらなかった。
「どうだ」
「無理……ちょっと色々使って、またやってみる」
「ああ」
焦っているからと思って平常心を保ちながら、無心で色々な属性の初級魔法を次から次に試す。
そして最後に探索魔法を発動するがやっぱり使うことは出来なかった。
(ちっ、使えない)
いざというときに使えないなんて、なんのための魔法だよ。
便利な魔法なんじゃなかったの?
ていうか本当にまずい。どうしよう。
こんなに人が多い中、魔法もなく探すのは困難だ。
嫌な考えが頭に過ぎる。
誘拐にあってたらどうしよう。
それに怪我してたとしたら?
どっちも場所がわからないんじゃ助けることもできない。
「落ち着け」
頭に手が乗る感触が伝わる。
「貴族の息子をからかう度胸も、貴族に害される恐怖心の耐性もあんのに、何をビビってんだ」
「……それとこれとは別だと思うけど」
「他人が害されるのは嫌で自分はいいってか?お前の悪い癖だな。昔からそうだろ」
「……うるさい」
図星だ。
前世を思い出す前からの仲だから、なんでも知られてて何も言えない。
虚勢も張れない。ムカつく。
過去の自分は曝けだしすぎだ。
「それに少なくともユアンとザレックがいるだろ。
何かあっても大丈夫だ。あいつらは弱くねえよ」
その通りだと思う。
模擬戦でしか見たことがないけど、弱いとは思ってない。
でも……
「でも、そのユアンたちが怪我してるかもしれないでしょ!もし……いや、ごめん」
ダメだ。ディランに怒鳴ってどうする。
それに悪いこと考えるのもダメだ。余計に余裕が無くなる。
こういうときに余裕がないのは本当にダメだ。
じゃないとあの時みたいにまた……
「おい、落ち着け」
ぐいっと引っ張られて、顔を肩に抑えられる。
「泣くな。ちゃんと息もしろ。
俺が傍にいる。どうにかなる」
いつの間にか泣いてたみたいだ。
ディランに言われて初めて気づいた。
そう自覚すると呼吸も荒くなっているのがわかって深呼吸する。
(あーあ、子供に慰められて何やってんだろ……)
情けなくて嫌になる。
本当にちゃんとしなきゃ。
助けられるものも助けられなくなる。
孤児院の誰かが死んだなんて言葉を聞くのはもう嫌だ。
兄さんたちの時みたいな思いはしたくない。
ディランの身体に手を回してギュッと抱きしめる。
この子たちを守らなきゃ。
今も怖がってるかもしれない。
だから取り乱してる暇なんてない。覚悟を決めよう。
大丈夫。死なない限り私が助けられる。
回復魔法が使えるのは立証済みだ。
それにしても……
「なんてキザなセリフと行動……」
「うるせえ」
実はさっきから気になってた。
ダメだ思い出したら笑いが止まらない。
でも、笑う場面じゃないのもわかってる。
「ふ、くっ…ふ、ふふッ」
「笑うか止めるかどっちかにしろ。変な声出すな」
我慢していたら、ディランから素早くツッコミが入る。
顔を上げると、真っ赤な顔をしているディランが見えて、また笑いそうになる。
でも、おかげでいつもの調子が出てきた。
「ありがとう」
「ああ」
落ち着いたので、ディランから離れる。
「落ち着いたなら考えるぞ。
行き先、今までの会話で行きそうな場所はどこだ?」
「ザレックは食、ユアンは他人の行きたい所について行くでしょ。
アンちゃんは基本、孤児院にいるからわからない」
「俺も同意見だ」
あと考えられるとすれば何があるだろう。
人が多いからはぐれたと仮定してシミュレーションしてみよう。
「ディラン。誰かがはぐれたとして心配して探しに行くのってこの中だと誰?」
「アンだろ。ユアンとザレックは逸れても、勝手に帰れる」
私も同意見だ。
アンちゃんには迷子になった時の説明をしたとはいえ、1回しか街に出ていない。
「じゃあ、アンちゃんが逸れたと仮定して知ってる場所をあげるね。
領主の屋敷、冒険者ギルド、商業ギルド、騎士団本部、孤児院。いや、待って……」
アンちゃんを待ち案内した時にもう一つ何か説明した気がする。
一から思い出してみよう。
孤児院を出て、騎士団に。
それから中央広場に行って、金髪で褐色肌のチャラ男がアンちゃんにぶつかりそうになった。
それから中央にある建物を紹介したはずだ。
(……あ、もうひとつある)
それも無意識のうちに、行かないだろうと思って探してなかった場所が。
(……理由もなんとなくわかったかも)
「どうした」
「ディラン、わかった。
この領主の屋敷より北エリアにいる」
「北か……探してなかったな。根拠は?」
「家族。聖灯祭の時は家族連れが多い。
アンちゃんがそれを見たくなくて逸れたとしたら、行き着く先は誰もいない静かな場所。
アンちゃんにはお祭りの当日、北の警備が手薄って話をした」
「上出来だ。行くぞ」
間に合ってくれ。
そう思いながらディランと二人で走り出した。




