36話「冬のバザール・聖灯祭2」
「お兄さん、これ如何ですか?ハートのミサンガ。
先ほどから何か迷われているようなので、恋人へのプレゼントにお困りならこれをお勧めしますよ!!」
ずっと商品を見て迷っているお兄さんを見かけたので、密かに作っていたハートマークのミサンガを宣伝する。
このお兄さんの首元に、巷で有名になっているペアネックレスの片側が輝いているのは把握済みだ。
「これ可愛いね。せっかくだからいただこうかな」
「ありがとうございます!!お姉さんとお兄さんのお願いが叶うように祈ってます!!!」
「ありがとう」
普通のミサンガより少し高い値段にしていたけど売れてラッキー。
だけどお兄さんを最後にして、客足が途絶えたみたいだ。
でも問題ない。
こういうときのために考えてきたプランBに移ろうと思う。
孤児院に括り付けている旗を1個取って、適当な木の棒に括り付ける。
(よし、あとはうちにいる美男美女で吊ればよし)
「ユアン、アンちゃん、ザレック。
宣伝に行って来てくれない?
アンちゃんもお会計係ばかり疲れたでしょ?」
アンちゃんは接客が苦手そうだったので、ちびたちのお釣りがあっているか確認する係に移動してもらった。
計算が苦手な子も多いから助かった。
「わかった」
「おう!!」
「……まぁ、そうね」
了承を得たようだ。良かった。
「はい、じゃあこれ持ってお願い」
さっき作った旗を近くにいたアンちゃんに手渡す。
「……これ持って歩けって?あんた正気?」
「正気だよ。今の時間帯は人が多いから大声張り上げても意味ないんだもん。でもそれなら目立つでしょ?」
今日の聖灯祭は20時に始まる。
今は17時半過ぎだから、大通りに行くには大体18時くらい。
ちょうど夕飯時くらいになる。
それに今日は外で食べる人も多いから更に人がごった返しているだろう。
そんな中掲げているだけで宣伝になるだなんて、なんていい宣伝道具なんだろう。
声だって枯れない。
まぁ、ちょっと一目が気になるかもしれないけど。
「いいなあ!これ!俺はこれ気に入った!アンが興味ねえなら俺が持ちてえ!!」
「喜んであげるわよ」
押し付けるように旗を渡されたザレックは嬉しそうに手に掲げている。
それどころか大きくゆらゆらと揺らして遊んでいる。
(応援団みたい)
前世の体育祭を思い出す。
きっとザレックは張り切るタイプだと思う。応援団もやってそうだ。
でも、今は運動会じゃないからそれは困る。
「ザレック」
「なんだ!?パメラも持ちてえのか?」
「違うよ。持つのはいいんだけど、街では振り回さないでね」
「わ、わかってるって!!」
注意をするとザレックは目線を逸らした。
「不安でしかないわよ!!あんた振り回すんじゃないわよ!?」
アンちゃんの言う通り不安でしかない。
……護衛役でお願いしたけど、やっぱ人選をミスしたかもしれない。
そう思っていたら後ろから肩を叩かれる。
振り返るとユアンがいつの間にか背後にいた。
「パム、俺が見てるから大丈夫だよ。それよりパムは大丈夫?」
「それは貴族のこと?それとも体力?」
「どっちもかな」
心配してくれるのはありがたいけど、恐怖は全くない。
むしろ復讐心しか湧いてないし、私以外じゃなくて良かったと思ってる。
(まぁ体力は……いや、気力はもうないけど。疲れた)
「たぶん大丈夫だよ。一応ディランも残してるし」
遠くの方で、座って休憩しているディランを指差す。
何かあったらディランに頼むつもりだ。
まだ体力的にも少し余裕がありそうだし、また厄介な貴族が来た時のためにいて欲しい。
そのために宣伝係じゃなく孤児院に残した。
「パム、何かあったら絶対呼んでくれ。わかった?」
子供に言い聞かせるように約束させるユアンに苦笑いする。
でもこんな扱い受けるのも貴重だ。
前世ではもう受けられないであろう扱いは悪くない。新鮮さを感じる。
「わかった。だから私からもアンちゃんとザレックのことよろしくね」
「ふふっ、了解。それじゃあ行ってくるね」
孤児院の門を出ていく三人に手を振って見送る。
(さて、もう一頑張りしますか!!)
◇◇◇
「ありがとうございました!!」
19時頃、最後の商品が売り切れた。
ユアンたちはちゃんと宣伝してきてくれたみたいだ。
ミサンガがあると知ったお客さんがどんどんやってきた。
(あれって自分で簡単に作れるんだけどなんで買いに来るの?今更だけどさ)
追加でおじいちゃんが変な噂でも流してるのかもしれない。
……うわぁ、ありえそう。
自分たちが、教えて作ったものでしか叶わないかもしれないとか適当な嘘並べてそうだ。
(まぁ、もうどうでもいいや。今回のバザールは成功したから)
ミサンガ自体は安かったけど、量がたくさんあるだけに結構な売り上げになったんじゃないだろうか。
「ディランちょっと手伝って」
「ああ」
売上金を数えるためにディランを呼ぶ。
しかし――
「パメラ、ディランお疲れ様。
お金のことは私たちがやるわね。
だから休んでいてちょうだい」
と院長から声がかかった。
「最後までやるよ?」
「俺もできます」
私とディランは大丈夫だと断るが、院長は首を振った。
「それならユアンたちを探してきて欲しいわ。まだ満喫しているようだから」
たしかに。まだ帰って来ていないみたいだ。
聖灯祭が始まるまで、もう一時間程しかない。
でもザレックがいるから、この時間帯なら屋台にいる可能性が大だ。
屋台は19時40分頃に全て閉まる。
「ギリギリ遊びたい」とザレックが言い出すのは毎年のことだ。
「屋台でも満喫してんだろ」
「私もそう思ってた。屋台らへん探しに行こうか」
屋台は大通りにあるし、目立つ目印もあるし、どこかですれ違うだろう。
そう思って私たちは探しに出かけた。
だけど――
屋台のどこにもユアンたちの姿はなかった。




