35話「冬のバザール・聖灯祭」
今日は、冬のバザールと聖灯祭の当日だ。
孤児院の門から建物の間に会場を設置した。
室内じゃないから少し寒いけど、建物内を探られるのは防犯上あんまり良くないから仕方ない。
簡易的な台の上に、色とりどりのミサンガを並べていく。
並べたものを眺めると、カラフルで目を引く。
なかなかいいんじゃないだろうか。
他にも院長たちがコツコツ編んだ、編み物などもある。
ミサンガが売れなかった時のために一応作ったみたいだ。
これが全部売れると結構な値段になる……
お小遣いでも貰おうかな。それか、アイデア料のお駄賃。
「パム、外に旗を立て終わったよ」
孤児院の外に出ていたユアンたちが帰ってきたみたいだ。
「お疲れ様」
一仕事終えたみんなに水を手渡す。
「パメラ!あの旗なんだ?作ったのか!?目立っていいな!あれ!」
「私じゃないよ」
「お前じゃなかったのか……」
「俺も、パムだと思ってた……」
三人とも驚いた顔をしている。
奇妙なことをしたら私っていう考えはやめてほしい。
私は前世を知ってるだけで、至って普通の女の子なのに。
まぁ、旗の件は一枚噛んでるんだけどさ。
「私がこぼした言葉を拾ったおじいちゃんが、勝手に作ったんだよ。
お祭りで使うって言ってたから、今回の聖灯祭の屋台で見れるかもね」
なんでも旗自体はあったけど、お祭りに使うという発想はなかったらしい。
だから私の話を聞いたおじいちゃんは乗り気になって、またアイデアを盗んで勝手に作った。
……こんなジジイが人気な商会の創設者で本当にいいんだろうか。
「……またお前とあのジジイの共同かよ」
「その言い方やめてよ。なんかすごく不愉快」
あのクソジジイとペアみたいな言い方はしないでほしい。
本当に嫌だ。
「あんたたち何サボってんの?」
「そろそろ開始しましょうか」
そろそろ始まるみたいだ。
事前に決めていた位置につく。
嫌な客も多いから何かあった時のために、バザールではなるべく子供たちと大人か年上組が一緒になるように配置している。
あと、接客が苦手な子などは包装係などに回ってもらっている。
あ、そうだ。
注意事項をもう一度言っておかなきゃいけない。
「みんなー!!注意事項は2点!!
1、切れた時に願いが叶う!かもしれないということ
2、孤児院のみんなで、願いが叶ったらいいなーって思って作った。ということ
一応紙にも書いてあるけど、字が読めない人もいるし、めんどくさいけどちゃんと説明してね」
これは後々「願いが叶わないじゃないか!!!」みたいなやっかみを避けるための方法だ。
この世界にも、怪しいツボを買う人や、クレーマがいる。
普通に考えたら子供が願いを叶えるお守りなんて作れるはずないのに。
「お釣りもちゃんと渡してね」
みんながウンと頷いているので、これで大丈夫だろう。
ミサンガを作ってる最中も嫌ってくらい、聞かせておいたから。
「それじゃあ今日一日、冬のバザール頑張るぞー!!」
「おおおおおおーー!!」
後ろから肩を叩かれて振り返る。院長だ。
「パメラ、助かったわ。みんな気合いが入ったみたい」
「いいよ。疲れ果てるだろうけど頑張ろうね……」
「うふふっ、そうね……」
◇◇◇
「お姉さんいかがですか〜?巷で噂のミサンガですよ〜!」
「頂くわ!まさか孤児院で手に入ると思ってなかった!!」
「お買上げありがとうございます!」
また一つ売れた。売り上げは上々だ。
いい具合にミサンガが流行ってるらしい。
よくやったおじいちゃん。
「おい、パメラ。貴族が来た。他領の男爵だ。行けるか?」
「嫌だけど行くよ。それよりなんかあった時チビたちお願い」
「わかった」
本当はめちゃくちゃ嫌だ。
でも何回もディランにも対応してもらってるから、さすがに私が出るべきだろう。
ディランもクソみたいな貴族相手にするの気が滅入るだろうしね。
それにこうやって教えてくれてるだけでめちゃくちゃ助かる。
おかげで接客の対応を変えられる。
ディランも一応貴族だからか、末端の貴族まで覚えているらしい。
面倒臭いのによくやるよね。
「いらっしゃいませー」
中肉中背の貴族様に挨拶をすると、私の目の前にあったミサンガを持って顔を顰めた。
「ふん、なんだこの紐切れは」
開口一番失礼なやつだ。
馬鹿にしたような表情に少しイラッとくる。
「ミサンガと言います。
ダリア商店さんが出してる流行品です」
「それがなんで孤児院なんかにある?盗人か?」
貴族は私をニヤニヤと見ている。
その表情を見るにわかってて言ってるみたいだ。
脅かそうとするなんて相当悪質な貴族だ。
「いいえ。この孤児院は元聖女が経営している孤児院です。
商店の創設者さんが孤児院の実態を知って、このミサンガを教えてくれたんです。
子供たちでも作れるからって」
事前に考えていた言い訳だ。
おじいちゃんにも了承を取っている。
「ふん、ここがあの有名な孤児院か」
この孤児院は他所の領地でも有名なようだ。
噂か何かで聞いたんだろう。
それにしても嫌な予感がする。絶対なにか企んでるだろこいつ。
顎をさすって、まだニヤニヤと私を見ている貴族に寒気がする。
(気持ち悪……あーだめだ。抑えろ私)
相手は腐っても貴族だ。
処刑だなんだと抜かし出したら面倒臭いことになる。
まぁ負ける気はしないけど。
それに今の王様になってから、民に無闇に手を出したり殺してはいけないって法が出来たの知らないのかな。
無惨な処刑が起こりまくって問題になってたのに。
あ、それすら知らない相当な馬鹿なのかもしれない。
「お前、俺のこと馬鹿にしてるのか?」
「いいえ」
(あー出た出た。少しでも気に入らないことを言われたら怒るタイプの貴族だ)
本当は心の中でバカにしてるけど、もちろん顔にも声にも出してない。
……これは厄介なことになる。
ユアンたちに目配せをする。
瞬きを3回。
これは「厄介な客、避難」のアイコンタクトだ。
理解したユアンたちが急いでチビたちを連れて孤児院の中に入っていった。
あっちは任せておいて大丈夫だろう。
何かあれば衛兵たちも呼んでくれるだろうし。
「申し訳ございません。この子が何か粗相なことでも致しましたか……?」
(あーあ、出てきちゃった。厄介になること確定だ)
現に院長の姿を見た途端、貴族の顔は赤く染った。
美人の院長に一目惚れでもしてしまったらしい。
顔も心も綺麗な院長と、顔も性格悪いおじさんなんて、どう見ても釣り合ってない。
「ふん、まぁ些細なことだ。
それより、君。我が屋敷に招待しようではないか。
こんなところで孤児院なぞやっているより、屋敷にいればいい思いもできるぞ」
罰ゲームのようなセリフを吐いた貴族は、さらに勝手に院長の手を取って口づけをする。
(き、気持ち悪……)
鳥肌が立つ。
さっきまで相手の孤児院の子供を脅してたのによくできるよね。
何も決まってないし、そのキメ顔も気色悪い。
この貴族は目も悪いのかもしれない。
院長の顔も引き攣っているのが見えないみたいだ。
美人も大変だね。心底同情する。
こんなキモい貴族に口説かれて。
「いえ、私は孤児院を好きでやっていますので……」
「まぁまぁ、いいじゃないか。来たらきっと気にいる」
「い、いえ。お断りさせていただきます。申し訳ございません」
院長がやんわりと手を離すと、貴族の目つきが変わった。
「そうか。なら、この子供を苦しめれば考えも変わるだろう」
「そんなっ!やめてください!!」
院長を振り切って、こちらに向かって手が伸びてくる。
方向的に首でも締めるつもりなんだろう。
古典的な小物貴族で笑える。
それにしてもこの街が平和だから忘れちゃうけど、なんでこんな馬鹿な貴族が多いんだろう。
確かに偉いけど、貴族の本来の目的忘れてない?
この世界では魔物から民を守るために出来たのが貴族のはずだ。
なのに平民を殺すってどういうことなんだろう。みんな権力に溺れたのか。
それともこいつら、人の皮を被った魔物なの?
まぁそんなわけないけど。
迫り来る手を、じーっと見つめる。
(正当防衛ってありかな?)
そんなことを考えていると――
「そこまでだ。無駄な処刑は禁じられているはずだが」
「騎士も呼びました。もうすぐ来るはずです」
私を庇うように、ディランとユアンが貴族と私の間に入り込んできた。
(ちっ、仕留め損ねた)
「お前は……領主の息子か?」
「ああ」
騎士が駆け寄る足音が聞こえてくる。
さすがに分が悪いと思ったのか、貴族は腹の肉を揺らしながら逃げるように走って行った。
「おい、大丈夫か」
「パム?」
「パメラ?あなた大丈夫なの?」
貴族が走り去る姿を見ていたら、心配した三人に顔をのぞき込まれる。
「大丈夫。ただ……
やり返し損ねた!あのクソ貴族、いつか外歩けないほどの辱めを受けさせてやる!
しっかり顔は覚えたから!」
私だから良かったものの、子供になんてことすんだ。
改正も守らないバカなら貴族やめちまえ。税金泥棒が!
「あー腹立つ!手を出さなかった私を褒めてほしい!」
あんな雑魚一発で消し炭にできる。
まぁ、殺しは良くないけど!ハゲる呪いとかさ!
「お前……」
「はははっ、パムが元気なら良かったよ」
「あなたタフね……。私は肝を冷やしたわ……」
私が復讐に燃えていると、3人とも少しドン引いた顔をしている。
あ、忘れてた。逃げたアホな貴族より大事なことをしなくちゃいけない。
「院長、手出して」
「ええ……」
「清掃魔法、清掃魔法、清掃魔法――」
魔力を込めて清掃魔法を連発する。
「えーと、な、何をしているの?」
「汚い唾ついてんだから、清掃魔法かけなきゃでしょ。なんか変な病気にかかるかも。
あんな気色悪い貴族のばっちい唾なんて、何回も清掃魔法使わないと消えないよ!!」
院長は唖然としているけどよく平気だよね。
鳥肌立たないの?
私なら居なくなったら秒でかけるよ。
「言えてるな」
「あ、あはは……嫌な人だったから……」
そういうと二人も清掃魔法をかけ始めた。
二人も同じ意見だったみたいだ。
それから院長が騎士の対応をしている間も私たちは清掃魔法をかけ続けた。




