31話「地獄のミサンガ作り、開幕」
午後2時頃、食堂に孤児院にいる全員が集結した。
例外でディランも参加している。
孤児院出身じゃないけど、リンジーさんに手伝ってこいと言われて以来、毎年参加している。
今ではすっかり孤児院のメンバーに入っている。
「みんな揃ったわね。大変だと思うけど、今回も頑張りましょう」
前に立っている院長が神妙な顔で、そう告げた。
「いやだ!俺、あれきらいだ!!」
「ヒルダも嫌なの!!ずっとずーっと!苦痛になるの!!!」
苦手なちび達から批判の声が次々上がる。
みんなこの世の終わりのような顔をしていて面白い。
でも気持ちはわかる。
私もどちらかと言うとそっち側だ。
初めは楽しいけど、途中から飽きる。
「みんな頑張ろう?俺も手伝うから」
「ごちゃごちゃ言ってても終わんねぇぞ」
「そうだぞー!!俺も苦手だけど手伝うからな!!!」
それに反して得意なものと、やる気だけはある者からは励ましの声が上がった。
こっちはこっちで色々、不安な声が混じっている。
手伝うとか言ってるけどザレックの不器用さには要注意だ。
やる気があるのはいいことだ。
でも少し目を離した隙に、いつもとんでもない事をしでかす。
「なんのことなのか全然わからないわ。どういうことよ」
そして、この話の意味がわからない子がここに一人……
「あんた聞いてんの?パメラ、あんたに言ってるのよ」
後ろの方の席で、みんなのやり取りを眺めて楽しんでいると、アンちゃんから声がかかった。
(ていうか……)
「アンちゃん、今名前で呼んだ?いてっ……」
無言で頭を叩かれる。
ツンデレがここにもいた。
ヒルダと合わせてツンデレ姉妹と呼ぶことにしよう。
2人が真っ赤な顔でふんっとそっぽを向いている姿を思い浮かべる。
あ、ダメだ。
ヒルダは、嫌な顔してそっぽを向いている。
妄想の中でも、私は嫌われているみたいだ。
でもアンちゃんはいける!!
今もニヤニヤしてアンちゃんを見ていると、顔を真っ赤にしてそっぽを向いている。
「アンちゃんかわいい〜!!」
「うるさい!!!早く説明しなさい!!!」
いじると顔を真っ赤にして、声を張り上げた。
……噴火しそうだからそろそろやめとこう。引き際は大事だ。
「もうすぐ冬のバザールがあるんだよ。
それでみんな揉めてる。
苦手組VS得意組。
毎年、得意組が宥めるところから入るんだよねー」
孤児院の恒例行事のひとつ。
冬のバザールが、あと1週間程で開催される。
今日は、バザールに出すための商品を作る日だ。
編み物、刺繍、クッキーとか色々な物を今まで出してきた。
その量がちょっと……いや、だいぶ多いからこうやって嫌がる子が出ている。
バザールの売上は、私たちの日用品や、孤児院の維持費等に使われる。
だからどれだけ嫌がろうと、やらないという選択肢はない。
「あ、ほら。ヒルダたちが駄々こね出した」
「どれだけ過酷なのよ……」
嫌だ嫌だ〜!!!と泣きわめくヒルダたちを見てアンちゃんは顔が引き攣っている。
すごく誤解してそうだけど、そこまで過酷じゃない。
できる範囲でしかさせないから。
(でも面白いからこのまま誤解させておこうっと!)
椅子から立ち上がって、院長の元へ行く。
気づいたユアンとディランが、嘆いているチビたちを宥めると一気に静かになった。
「パメラが出てきたの……!!!嫌な予感がするの……!!」
「ゼッテーへんなことだぜ?」
チビたちも、私が院長の隣にいるのに気づいたみたいだ。
ヒソヒソと小声で話しているつもりだろうけど、全部聞こえている。
それに、聞き捨てならない。
毎年嫌がるちびたちの為に、今年はわざわざ頑張って用意もしてきた。
おじいちゃんも、絡ませたからすごいめんどくさかったのに。
(まぁ、前世の知識を使ったんだけど……)
……いや、それでもめんどくさいものはめんどくさい!
そう思って、多少恨みを込めてヒルダたちの方を見ると目が合う。
でもすぐに怯えたように「ヒィ」と声を上げて目線を逸らされた。
(全く……人のことを化け物扱いしないでほしい)
まぁいい。
それより、今はバザールの話に移ろう。
ごほんっと咳払いをして、仕切り直す。
「今日は冬のバザールに出す商品を作る日です。
何を作るかは、まず見てもらった方が早いと思うので、これを回してくださーい」
糸でできた紐のような物を取り出して、先頭の人に渡す。
「なんだこれ?玉?」
「ひも?でもちょっとカラフル?」
みんなが見ている間に、色々な色の糸と、玉を前に並べた。
並べ終わると、みんな見終わったのか、紐が前に戻ってきた。
「これはミサンガと言って、切れたら願いが叶うお守りです。
こうやって手首に結んでもいいし、ストラップにしてもいいよ」
「そんなんで叶う訳ねえーだろ」
クソガキジョンから、バカにしたような声が飛んできた。
まぁ、疑う気持ちはわかる。
信じてない子からしたら、おまじない?なんだそれって感じだろう。
正直、私も信じてない。
けど、これはただのおまじないだから。
そもそも夢は自分で掴み取るものだから。
「いい意見だね。
たしかに、叶うには本人の努力は絶対いるよ。
でも、相手の願いが叶うように心を込めてプレゼントしたり、自分で決心するためにつけるのもいいと思わない?」
「それって……」
みんなが目を見開く。
どうやら気づいたみたいだ。
「聖灯祭とかけてんのか」
「正解!!ディランに1ポイント!!」
「なんのポイントだよ……」
バザールの当日には、聖灯祭というイベントがある。
これは、前世のクリスマスのようなものだ。
日にちも12月25日になる。
祭りの当日は「大切な人が願いを叶えられますように」と願いを込めたアクセサリーや手作りのものを、大切な人に送る。
そして夜には、願い事を込めた魔法で作った光の玉を夜空に解き放つ。
それを見た神様が、夢を叶えてくれるらしい。
それを今回は利用した。
孤児院の商品を毎年買ってくれる、心優しい人もいっぱいいる。
それに原価も安いし簡単。
ミサンガはこの世界にはない。
目新しさでそこそこ売れるだろうという目論見だ。
あと、ちょっと小技を使った。
孤児院産のものだと分からないように、事前におじいちゃんに教えて広めてもらった。
そのお礼にこの世界になかったビーズを教えた。
おじいちゃんは初め、少し難色を示していたけど、ビーズ細工と院長の名前を出したらすぐに落ちた。
おかげでチミチミ刺繍をしたり、編み物をしなくてもよくなった。
おじいちゃんには感謝だ。
これでみんないつもよりはまだマシだろう。
それに……もうひとつやる気を出すアイデアを考えてきた。
「あともう一個、理由があるんだよね〜、なんだと思う〜?ジョン?」
「わっかんね……」
頬に空気を入れてムスッとした顔のジョンにフッと笑う。
ほっぺをぷにっとつつくと、嫌そうな顔をされた。
「そんなに拗ねないでよ。
これ、ジョンも欲しくない?」
「は?」
ミサンガを持って、フラフラと揺らす。
ジョンは何を言われたかわからないみたいで、キョトンとしている。
「みんなでお揃い作らない?孤児院限定の」
「お揃い……?お揃い!!!!?」
興奮したジョンが、勢いよく椅子から立ち上がる。
椅子が倒れる音が、食堂に響いた。
「お揃い作るの!?パメラ!たまにはやるの!!」
ヒルダも興奮したのか、ジョンと同じように椅子を倒した。
「だよな!!変人!やるじゃねえか!!!」
なんか……褒められてる気がしない。
他の子は、素直に褒めてくれているのに、このクソガキコンビは本当に生意気だ。
今も「いつもバカでアホで変人で憎たらしいし」と悪口大会をはじめている。
「ちょっと!さっきから何言ってんの!?
それにたまにってどういうこと!?
いつも美人で聡明でいい女のパメラ様って呼びなさい!!!!!」
拳を握りしめて、机を軽く叩く。
「いい女じゃねえし、美人じゃねえじゃんー!変人ー!!」
「そうなの。ヒルダの方が可愛いの!パメラはただの変人なのー!!」
「ふっふっふ。2人とも私を怒らせるのはそんなにお好き?ならば買ってやろう!!その喧嘩!!!」
慌てて立ち上がって逃げ惑う、クソガキどもを追いかける。
「うわあーーーーーー!」
「きゃーーーー!」
「こら!!!走らないの!!!!!」
と院長の声が怒鳴り声に変わるまで、クソガキの相手をする羽目になった。
「あの子っていつもああなの?」
「そうだよ。ふふっ、でもやる気を出させるのがうまいよね」
「俺も混ぜろよー!!!!」
「おい、これ以上ちびとパメラ疲れさせんな。使い物にならねぇだろ」




