3話「ユアンの看病2」
「……」
目が合ったままユアンと一緒に黙り込んだ。
というより、声をかけたけどユアンの返事がなかったから黙っている。
それにしても、なんでユアンは目を見開いてるんだろう。
もしかして『看病なんてできるのか?』って思われているんだろうか。
それとも予想していなかった人物がいてビックリしているのか。
「パ、パメラ…?」
ユアンが復活したみたいだ。少し困惑した顔でこちらを見ている。
「ごめん、看病しに来たんだけど起こしちゃった?」
「いや、大丈夫だよ。ありがとう」
そういって体を起こそうとするので慌てて止めに入った。
「熱なのに無理するからいつも悪化するんだよ。はーい、おねんねしましょうねー」
ユアンの肩を押すと『ごめんね』と言って、抵抗もなく素直に横になった。
きっと自分でも無理をしているって自覚があるんだろう。
ユアンに布団をかけて、ポンポンとあやすように叩くと、ユアンの身体がビクッと震えた。
(え?なにその反応?)
バッとユアンの上を見ると、固く目を瞑っていた。
(え…?あれ?わ、私もしかして嫌われてる!?)
さっきからどこか緊張したようなユアンの様子に、不思議だとは思っていたのだ。
もし――嫌われているのだとしたら、
起きた時からの反応も納得できる。
ユアンが起きた時は『なんでこいつがここにいるの?』が正解で
あやした時は『目すら合わせたくない。ベタベタ触るな』って思われていたんだろう。
そうなんだとしたら……
(もっとやるしかないよね?)
誤解しないで欲しいけどこれは違うよ?
嫌がらせとかじゃないよ?反抗的なほど燃えるって言うか……そういうことってあるでしょ?
ニコニコと微笑むながら、手を動かし続ける。
なにか言わない限り、合意とみなして永遠と続けてやる。
数分経った頃――
ついにユアンは手で顔を覆いだしてしまった。嫌なら言えばいいのに。
「あの…こ、これはパメラが作ったの?」
ついに耐えきれなくなったみたいだ。
自分の頭の乗っていた布を取って、こちらを向いた。
まだ視線は合わないけど、合格点としよう。
手を止めるとユアンは安心したようと息を吐いた。
「高熱だから冷やしたら気持ちいいだろうなー。って思って氷入れたんだよ。で?感想はどう?」
「気持ちいいよ、ありがとう」
ユアンも気に入ったみたいだ。
頬に布を当てたりして冷感を堪能している。
表情もどんどんにこやかになってきた。
「……ふふっ、パメラはいつも面白いことを思いつくね。」
そういって、ユアンは微笑んだ。
「そういえば、氷はどうしたの?」
「氷まく…氷が頭の中に浮かんで、魔法で作ってみた。
あのさ……ちなみに氷枕って知ってる?」
「ごめん、知らないな。氷を枕にするのかな?でもそれだと濡れるよね?」
私が覚えていないだけで、ユアンは見たかもしれない。
淡い期待を持って聞いてみたけど、やっぱりユアンも知らないみたいだ。
「私もわかんないんだよね。急に頭に浮かんできて……あっ、そうだ。じゃあアイドルは知ってる?」
院長と話していた時に浮かんだ言葉を思い出す……が。
これもダメみたいだ。首を横に振られた。
「おつかいの時にでも見たの?」
「んーそうかも……?でも違うかも……」
目を瞑って頭を抱える。
考えれば考えるほどわからなくなってきた。
何故かその時に、不意に気になった質問をユアンに投げかけたくなった。
「ねぇ、ユアン。ユアンは私のこと変だと思う?」
言い終わる前に頭に手が乗る感触がして、目を開ける。
いつの間にか起き上がっていたユアンが私に向かって手を伸ばしていた。
……こんなふうに触れられるのは何年ぶりだろうか。もう覚えてもいない。
顔を上げれば、ユアンと目が合った。
「変じゃないよ。俺はそういうパメラが好きだ」
そういってユアンは照れくさそうに微笑んだ。
「…そっか」
「うん」
無意識のうちに少し悩んでいたみたいだ。
ユアンに話して心がスッキリした。
「それにしても…ふふっ、久しぶりにパメラを撫でたね」
そう言って、ユアンは何度も確かめるように私の頭を撫でた。
ユアンもきっと懐かしいんだろう。私もこの感触が懐かしくて心地がいい。
……あの頃よりずいぶん大きな手になっちゃったけど。
「その役割すっかりチビたちに取られちゃったからね」
「ふふっ、それはお互い様だよ。」
昔はこうしてよくユアンに撫でられていた。
主に怒られた時だったけど。
私が気にしていなくても、この男はこうして慰めにきたものだ。もちろん反対の時だってある。
それが今ではお互い、すっかり年長者で撫でる側だ。
院長からも撫でられることもなくなったし、久しぶりの手の感触に少し感慨深くなってしまう。
褒められるのってやっぱり気分がいいものだ。
というかユアンこそ褒められるべきだろう。
「やっぱり……頑張り屋なみんなのお兄ちゃんを褒めないとね」
「え……」
「たまには撫でられるのも悪くないよ」
ユアンにもこの気持ちを味あわせてあげようと手を伸ばす。
「ほら、悪くないでしょ?」
自分が撫でられるとは思わなかったみたいだ。
目を丸くしているユアンがおかしくて笑ってしまう。
「ははは!たしかに悪くないね」
ユアンもつられたように笑い出す。
その笑顔には、もう緊張した姿は見る影もなかった。




