29話「亀さんアンちゃん、街へ行く3」
「落ち着いたアンちゃん?」
おでこを摩りながらアンちゃんの様子を伺う。
「ええ……」
アンちゃんは、大きくため息を吐いた。
紹介するだけのつもりが、予想以上に疲れさせてしまったみたいだ。
「でもきちんと説明してもらうわよ」
キッっと私を睨んで迫ってくる。
もちろんそのつもりだ。
これからディランとも関わることになるだろうし説明しておいた方がいいだろう。
「うーん、これにはちょっと昔話をしなくちゃいけないんだけど」
「おい、やめろ。思い出させんじゃねえ」
今度は、領主のご息子様から苦情がきた。
「でも、話さないと納得しないでしょ」
「親父たちから頼まれて仲良くしてるでいいだろが」
「えー!それじゃあ私たちと嫌々仲良くしてるみたいじゃん!!悲しい〜」
「……ちっ」
泣き真似すると、舌打ちをされた。
口の悪いお坊ちゃんですこと。
でも、嫌々ながらも諦めたみたいだ。
仕方ないから、両方の意図を組んで簡単に説明することにする。
私は優しいからね。
「ディランはね。昔、俺様だったんだよね」
「わははは!!!あん時のディラン面白かったよな!!!」
ザレックのいう通りそれはもうひどかった。
こっちが恥ずかしいくらいの俺様っぷりで。
本人のために内容は割愛させてもらうが、今の本人の様子は眉間に皺を寄せている。
思い出したくない黒歴史になっているようだ。
「どういうことよ?」
「んー、正義感はあるんだけど、この通りどこか偉そうなんだよ」
さっきの顎でしゃくるのとかまさにそう。
マシになったけど、未だに少し片鱗はある。
でも昔から悪いことには使わなかった。
よくある「貴族様の前だぞ!跪け!」とかはなかった……と思う。
「実際上の立場よ」
それも間違ってない。
でもそれは普通の街だった場合。
「そうなんだけど、ここの領主って代々冒険者がなるんだよ。
この街の平民から選ばれた冒険者が、この街を管理して守るんだよね」
なんで貴族が領主にならないの?って思うだろうけど、これは随分昔から続く伝統のようなものだ。
一応、この街は後に勇者一行と呼ばれるようになった人達が作った街と言われている。
その頃は、平民も貴族もなくみんな平等だったみたいだ。
やがて魔王が出現し、討伐し終えたあと、勇者一行の一人が建国をして王様になった。
だから今でも、この街では平民が領主になるのを皇族が認めている。
ご先祖さまが作った街だから、伝統は大事にするみたいだ。
(まぁ、勇者は作った云々は、昔のことすぎて真偽は不明なんだけどね)
薄れてきた今は、この街の伝統をバカにしている貴族も多い。
現に、貴族会議でも舐められると領主様はボヤいていた。
「だからディランのお父さんもお母さんも元平民なんだよ。
それに、自分たちの子供には普通の子と同じように育って欲しいっていう願望があるみたい」
領主様たちの気持ちもわかる。
両親が領主になれたからってディランが、領主になれるって保証もない。
「それで?」
「それで……ある日、いつものように街でディランが俺様っぷりを披露してたんだよね。
そしたら、ディランのお母さんのリンジーさんが来て、息子の様子を見て、気づいたら私が任されることになってた」
うん、詳しく伏せるならこれが1番しっくりくる言い方かもしれない。
あの時、悲鳴をあげたリンジーさんが、その場にいた私に、必死の形相で息子と積極的に絡んでくれと迫ってきた。
「は?どういうことよ。なんであんたが任されるわけ?」
それには深い事情が……ない。
「院長が領主夫婦と前から知り合いだったんだよ。
ユアンと私も、領主様からディランと友達になってくれってお願いされてたし、そもそも知り合いだった」
小さい頃すぎてあまり覚えてないけど、たしかそうだったはずだ。
確認のために「ね?ユアン?」と話を振るとユアンは頷いた。
「そうだね。初めはビックリしたよ。
領主様のご子息と友達に……なんて言われて」
「俺とはパメラたちと知り合ってから友達になったんだよなあー!仲良いもんな俺たち!!な!ディラン!!」
ディランは仲良いと言われて嫌そうな顔をしているけど、諦めた方がいい。
ディランも傍から見れば個性豊かだから。もう手遅れだから。
「それならソフィアさんに任せられることになるんじゃないの?
なんでわざわざ子供のあんたに任せるわけ?」
ごもっともな意見だ。
「院長じゃダメ。優しすぎるから治んない」
院長じゃ、俺様っぷりを見ても微笑ましい顔で見られるだけだ。
「私に補正してくれって頼んだ理由は、領主であろうと普通に接してくるから。
それに私の性格をよく知ってたから適任だと思ったんだって」
多分この子だと遠慮なく自分の息子を振り回してもらえる、とでも思ったんだろう。
ユアンも優しすぎるし、この子しかいないって。
あのときは、私の記憶が戻る前で今よりも恐れ知らずというか世間知らずだったから――
(……あれ?もしかして私ってアンちゃんの言われた通りバカ?)
いやいや、でもあれはノーカンにして欲しい。
だって前世思い出す前だもん!!
「おかげでお前に死ぬほど苦労させられた」
「おかげで紳士なイケメンに成長したんだからいいでしょ」
ディランは憎まれ口を叩いているけど、感謝は伝わってきている。
黒歴史と思うほど、あの時のことを言われるのを嫌っているのがその証拠だ。
「あんたに任せるのが信じられないけど、理由はわかったわ」
「うん」
「でも、院長と領主様が知り合いってどういうことよ?
元冒険者と孤児院の院長がどういう知り合いなのよ?」
その言葉を聞いて、私たち四人は顔を見合わせた。
「アンちゃんって知らなかったの?」
「知らないみたいだね。俺はザレック兄さんが言ってるのかと思ってたよ」
「俺も言ったと思ってたぞ?言ってなかったのか……?」
「お前らにとっては当たり前すぎて忘れてたんだろ」
「「あ〜」」
ディランのその言葉に私たちは頷く。
たしかに、あまり意識したことはなかった。
院長は院長だから。
「アン、院長は数年前にこの街にスタンピードが起こった時に、教会から駆けつけてくれた聖女様の一人なんだ」
「それでそのときに偶然助けた人たちの中にいたのが」
「俺の親父たちのパーティー」
「すっげえ偶然だよな!!!」
この言葉でまたアンちゃんは、数秒後に大声を出すことになる。
アンちゃんの大きな声は今までで一番大きくて、騎士団で訓練をしている騎士も振り返るほどだった。




