28話「亀さんアンちゃん、街へ行く2」
「お!いたぞ!!!
おーい!ディラーン!!!!こっちこいよー!!!!」
騎士に混ざって訓練している黒髪の男を、声の大きいザレックが呼び出す。
「おーい!!!!聞こえてんのかあー!!!!」
しかし無視をするディランに、ザレックはさらに大声を張り上げた。
隣にいるとうるさくて仕方ない。
両手で耳を塞ぐ。
さっさと来て欲しい。
その想いが通じたのか、こちらに歩いてくる。
遠目から見ても嫌そうな雰囲気が伝わってくる。
「おい、訓練中だ。何の用だ……げっ」
訓練服に身を包んだディランが、汗を拭いながら文句を溢す。
今まで気づいていなかったのか、私の姿を捉えた瞬間「厄介なやつが来た」と更に顔を歪めた。
「げって何?人の顔見て失礼だと思わない?」
ディランの持っている布をパッと盗み取る。
汗を拭ってあげようと手を伸ばすと、手を掴まれた。
「おい、お前何するつもりだ」
切れ長の目を更に釣り上げて、こちらを睨んでくる。
顔は怖いが、性格を知っているので何も思わない。
「頑張ってるディランくんのために拭ってあげようと思って!
お疲れ様、今日もかっこ良かったよ!」
猫撫で声で褒めるとディランは「やめろ」と声を張り上げた。
口も引き攣っている。
掴まれている手と反対側の手を伸ばすと、片方の腕も掴まれ押し相撲をしているみたいになった。
真っ赤な顔で抵抗し始めるディランに、口元がにやける。
「おい、ニヤてんじゃねぇ」
そうやって反応がいいから、いつも私にいじられる羽目になるんだよ。
そんなことなぞ露も知らずに、毎回律儀に反応してくれる。
意外と初心なディランにはいつも感謝だ。
おかげで毎回楽しい思いをさせてもらってるから。
でも、今日はこのくらいにしておこう。
しつこくしているとディランに嫌われそうだ。
力を抜くと、「俺で遊ぶんじゃねぇ」とデコピンをされる。
バチンといい音がなったが全然痛くない。
こういうちょっと強面の顔に似合わず意外と紳士的な所が女の子にモテるんだろう。
ユアンとは違うギャップが面白ポイントだ。
「痛い」
「そんな強くやってねぇよ」
わざと痛がるふりをすると、ディランは深くため息を吐いた。
「あんたたちどんな関係?」
私たちのやりとりを見ていたアンちゃんから疑問の声が上がる。
「ペットとご主人様」
「おい」
アンちゃんの質問に即答で答えると、横から即座に突っ込まれる。
(これだよこれ!!!)
反応速度のいいツッコミにニヤニヤする。
こういうしょうもないボケでも拾ってくれる……ここも面白ポイント!
しかし、アンちゃんはいかがわしい関係と勘違いしたみたいだ。
ドン引きしながら後退している。
(ま、ただの幼なじみなんだけどね)
「お前のせいでこいつが勘違いしてんじゃねぇか。つーか誰だこいつ」
今更気づいたのか、ディランが説明しろと顎でしゃくった。
「この子はアンゼリカって言うんだ。
一週間前に他の孤児院から俺たちの孤児院に移ってきたんだ」
「ああ、親父が言ってたやつか。ソイルの街のやつだろ」
もう既に知っていたみたいだ。
「なんで親がそんなこと知ってるのよ?
あんたまさかボンボン?」
フッとアンちゃんは失笑した。
アンちゃん的には、こんなイジられてる奴が貴族なわけがないって思ってるんだろうけど…………
(そのまさかなんだよね〜)
「ボンボンねぇ。
そうなんだとしたらお前……どうする?」
顔をニヤリと歪めて、アンちゃんの顔を覗き込んだ。
悪人面がよく似合っている。
それに反して、アンちゃんは「は?」と目を見開いて固まった。
その様子を見て、ディランは満足したようだ。
とてもいい笑顔をしている。
(このやり取り久しぶりに見た)
「アン。言い忘れてたんだけど、実はそうなんだ。
彼はディラン・ヴァリアントって言ってこの街の領主様の息子だよ」
「はあ!?」
初めて会った日以来の、アンちゃんの大声だ。
ザレックとは違い、耳を塞ぐほどうるさくない。
アンちゃんは驚いた顔で私とディランを交互に見ると、次第に顔が真っ青になっていく。
そして、見たことのない素早い動きで私の隣に立ったかと思うとーー
「ぶっっ!!!」
私の頭を持って地面に押さえつけた。
ゴンッという音とともに、おでこがヒリヒリする。
私の体制は、まさにジャパニーズ土下座と言うべきだろう。
みんなから「え?」と困惑した声が聞こえてくる。
「すみません!!ご子息とは知りませんでした!
この子バカなんです!!とびっきりのバカなんです!!どうかお許しください!!」
アンちゃんはさらに私のおでこを地面に擦り付ける。
おでこに更に石がめり込んでめちゃくちゃ痛い。
ウッと顔を顰める。
「アンちゃん痛い!!」
「うるさい!!!!あんた領主様のご子息になんて口聞いてんの!!!?」
「そ、それにはわけが!!!」
「うるさい!!!!!謝りなさい!!!」
結局、処刑されると思って庇ってくれたアンちゃんと、おでこをずっと地面に擦り付けられる私。
それを見て唖然としていたディランたちが焦って止めにくるまで、私のおでこは地面と仲良くする羽目になった。
(アンちゃん……私そこまでバカじゃないよ……?)
救出された私は、おでこを擦りながら涙目になった。




