26話「涼しげクールな美女登場2」
誰も喋らなくて食堂に静けさが広がった。
アンちゃんから突き放されて、みんなどうすればいいのか困惑しているようだ。
「な?手強そうだろ?」とザレックが小声で耳打ちしてくる。
たしかにその通りだ。
涼しげな顔にクールな性格。
ただでさえどこか近寄り難い雰囲気を持っているのに、本人から拒否られたら、距離を置くのが普通だろう。
でもだからこそ面白い。
ザレックに力強く頷いて、椅子から立ち上がる。
シーンとした食堂にギーっと椅子が引く音が響いた。
「いい自己紹介!アンちゃん!よろしくねー!!」
それに自分を押し通せるなんて素晴らしい。
この空気の中、意見を言えるのは勇気がいっただろう。
と思って絶賛していたのは私だけだったらしい。
みんなの視線が突き刺さる。
顔を見なくても言いたいことは大体わかる。
「お前正気か?」
「信じらんねぇ……」
と言ったところだろうか。
気持ちはわかるけど、時には強引に行くことも大事だと思う。
恐れていたら何も始まらない。
「やだなーみんなそんな熱心に見ないでよ。
仲良くなりたいなら自分から歩み寄らないとでしょ?」
私がそういうと「たしかになあ」とザレックとユアンだけが頷いている。
人見知りしないコミュ力お化けにしか響かなかったらしい。
とはいえ、このままみんなと接点もないまま終わるっていうのも惜しい。
誰がアンちゃんの心を癒すか分からないし、みんなも巻き込みたいところだ。
(仕方ない……あれでいこう)
「てことで、まずは親しみを込めてあだ名でも考える?」
多少ざわついていた食堂がまた静かになった。
さっきと同じく、ザレックとユアンしか反応してくれない。
私の賛同をしてくれるのはこの二人しかいないみたいだ。
「はい、じゃあ異論ないみたいだから賛成って事ね!
私としてはやっぱアンちゃんがいいと思うな〜!」
アンちゃんは怒る時は怒るらしいので、何も言わないってことはいいってことだろう。
うん、そういうことにしよう。
それにこの空気の中、乗ってきてくれる人は実際にいると思う。この中に。
「あ!!!次、俺!俺決めたぞパメラ!!!」
ナイスタイミング。
さすがザレックだ。
あとで褒めてつかわそう。
「はい、じゃあザレック!」
「俺はゼリーちゃんなんかいいと思うぜ!!!!前にパメラと食べたデザートと一緒の名前だ!!!美味しそうだろ?」
「たしかに美味しそう!それに可愛い!」
ザレックらしい案だ。
でもその案もいいと思う。
涼しげな見た目と反してゼリーちゃんというあだ名は、ギャップを感じてありだ。
親しみやすさを感じる。
「はい、じゃあ次ユアン」
「俺?そうだな……」
次はユアンを指名すると、
乗り気なユアンにみんなの視線が一気にユアンに向かう。
みんな「え?ユアンもやるの?」って困惑している。
(ふっふっふ、残念だったね。
もうこっちに買収済みだからね)
ここで1番の要はユアンだろう。
みんなが慕ってるユアンが言い出したら、みんなも乗るはずだ。
とはいえ、ユアンもよく乗ったと思う。
だってこれ即興だし、買収済と言っても知らないし。
実は、一番長く考えて真剣なユアンに私も少し驚いている。
正直、私とザレックの暴走を止めると思っていた。
「うーん、そうだな……」
長考しているユアンの言葉に全員が息を飲む。
「……パメラはアンちゃんだからゼリカとか?」
「……ゼリカ?」
ゼリカって言った?
無難なアンジーとかじゃなくて?
……なにそれ面白い!!!
「アハハハハ!!ゼリカいいね!!ちょっと大人っぽくて!」
腹を抱えて笑う。
これは予想していなかった。
「ユアン!なんでそんな変なあだ名なの!!!パメラに毒されちゃったの!!!!」
ユアンの隣にいたヒルダも予想外だったのか、必死にユアンの方を掴んで揺らしている。
当の本人は、何がダメなんだろう?とキョトンとしている。
それを見て「なんでパメラみたいな変なあだ名つけるの!」
とヒルダが聞くと、ユアンは楽しそうに笑った。
「ふふ、たしかに普通とは違うよね。
でも俺は、唯一無二なあだ名っていいと思ったんだ」
ニコニコと嬉しそうに微笑んでいるユアンにみんな顔を見合せる。
「たしかにそうかも」
「とくべつかんあっていいかも」
次々と賛同の声が上がり始めた。
(やっぱこういう時はユアン引き込むのは1番だなー)
ユアンを引き込むなり、すぐにいい方向に向きつつある雰囲気を見て頷く。
その時だった――
突然、椅子が倒れる音がし、
音の方向にみんなの視線が集中する。
そこには、
「ちょっともう我慢できない!!!!!」
今まで文句も言わずに静かに座っていたアンちゃんが立っていて、こっちを見ていた。
「どうしたの?」
「どうしたのじゃないわよ!
なんでいい雰囲気になってんのよ!!
なんでそのあだ名で誰もツッコまないのよ!!!
なんで突き放してるのにあだ名考えてるのよ!!!!!」
(おお……も、もしかしてツッコミ気質なの?)
今までの鬱憤をはらさんばかりに、突っ込みまくるアンちゃんに、目をキラキラさせる。
この孤児院、基本ボケ役しかいないから、圧倒的にツッコミ不足だ。
それに私だってもっとボケたい。
大事なツッコミ役――
絶対仲良くなりたい!!!!!
「みんな仲良くなりたいからだよー。結構いい策だと思ったんだけど。
アンちゃんはこうやってツッコんじゃってるしね」
「くっ………」
ニヤニヤが抑えきれていないまま、アンちゃんにそういうと、悔しそうな顔をしてアンちゃんはまた黙ってしまった。
しまった。浮かれすぎた。
「ごめんねアンちゃん!!!謝るから黙らないで!!もっとツッコんでよ!!!私ボケるから!!!!頑張るから!!!」
アンちゃんにしがみついて必死に懇願する。
めちゃくちゃ嫌そうな顔をしている。
「うるさい!!
あんたが一番意味わかんないのよ!!!
それにあんたはボケなくてもボケでしょうが!!!!!
ていうか引っ付くな!!!」
「えー照れる。私アンちゃん大好きになっちゃった」
「褒めてないのよ。貶してるのよ」
静かだった食堂が段々と賑やかになるのには、それほど時間がかからなかった。
私とのやり取りを見たみんなが、アンちゃんのあだ名決めに積極的になってしまい、諦めたアンちゃんから私の案が採用されることとなった。
「なんなのこの孤児院……」
「ごめんね、騒々しくて。パムもはしゃぎ過ぎだよ。アンが困惑してるからちょっと抑えようね」
「ごめーん」
「いや、金髪のあんたも十分おかしいから」
「??」




