23話「兄冒険者の帰還」
「おーい!パメラー!!!」
部屋を出て廊下を歩いていると、見知った声が聞こえてきた。
立ち止まって、中庭の方に振り向くとこちらに向かって手を振っている茶髪の少年がいる。
「あ、帰ってきてたん……ぐえっ」
走ってきた少年に勢いのまま飛びつかれ、少女らしくない声が出てしまった。
(ていうか後ろに倒れる――!!)
飛びついてきた馬鹿の頭を庇うように抱え込む。
衝撃に備えていたら、背中に回された手に支えられて助けられた。
「大丈夫?」
「うん。ユアン、ありがとう」
ほっとした顔のユアンが大きく息を吐いた。
「わりぃわりぃ!それよりパメラ、久しぶりだなあー!!!!」
当の本人は悪びれた様子もなく、私を抱きしめたまま、頭をかき混ぜるように撫でている。
(……ま、いっか。私も会えて嬉しいしね)
きっと頭もボサボサになっているんだろうけど、嬉しそうな声に止める気にはなれなかった。
それに依頼から怪我もなく無事に帰ってきたということでチャラにしよう。
「ユアンもそうだけど、パメラも大きくなったなあ!!」
「ザレック、3ヶ月しか経ってないからそんな変わんないでしょ」
でも身長は測ってないからわからない。
もしかしたら急激な成長を遂げているかもしれない。
それに反してユアンは結構成長したと思う。
3ヶ月前くらいまでほとんど同じ身長だったのに、今は抜かされてしまった。
「変わってるぞ?特にむ、ぐあっ!」
ザレックのお腹に、精一杯力を込めて殴る。
デリカシーのない発言は問答無用でお仕置きだ。
他所で発言したら大変なことになる。
(……でもやりすぎちゃったかな?)
仮にも私は少女なのでそれほど痛くはないはずだ。
それに現役の冒険者だからこれくらい大丈夫だろう。
と思って殴ったけど、ちょっと急所に入ったみたい。今度からは気をつけよう。
「うーっ」と唸りながら芋虫のように丸まってしまったザレックをみて反省する。
「ザレック、それ女の子に言うと嫌われるから気をつけて」
「うん、俺もそう思うよ。ザレック兄さん」
回復魔法をかけながらユアンと二人で注意すると、
「すみませんでした」とか細い声が聞こえた。
◇◇◇
寒いから、とりあえずユアンの部屋に移動した。
「二人でまた剣の訓練でもしてたの?」
「うん。ザレック兄さんに相手してもらってたんだ」
(そうだろうね、泥だらけだし)
全身に泥を付けたままでベッドに座る二人を見る。
でも清掃魔法もあるのに、なんで使わないのかが分からない。
私なんてザレックの抱き着かれた時の泥もすぐに落としたのに……
(え?本当に気にならないの……?)
「なあ!聞いてくれよパメラ!!」
平然としている二人が信じられなくてジーッと見ていたら、必死な形相で迫ってくるザレックに仰け反る。
(危ない、また泥着くところだったよ……)
「落ち着いてよ。どうしたのさ」
「ユアンのやつ、また強くなってんだけど!!俺と互角くらいになってんだけど!!俺、冒険者になったのに成長してないのか!?」
この馬鹿でもプライドがあるらしい。弟に抜かれるのは嫌なのか涙目になっている。
「成長速度は人それぞれだよ。
ザレックも冒険者で経験積んでたら強くなるんじゃない?まだ二年目だしそんなもんでしょ」
「パ、パメラ!!!やっぱりお前はいいやつだなー!!!!」
「ぐえっ」
また抱きつかれた。本日2回目だ。
(あーあ、泥着いちゃったよ……)
ザレックは相変わらず抱き着き魔みたいだ。
でも、こうしていると昔を思い出す。
ザレックは私が6歳の時に孤児院に入ってきた。
あの時のザレックの第一印象は、掃除が苦手な馬鹿だ。
ヒルダみたいに掃除をサボっては院長たちに怒られて、掃除をしたと思ったら適当過ぎてやり直しをさせられる。
それを見かけるたびに、手伝って慰めていたらいつの間にかこうなってた。
ていうか懐かれた。ちょうど今みたいな感じで。
(冒険者になって変わるかと思ったけど……やっぱ人ってそんなにすぐに変わんないか……)
いつまでも馬鹿なままの兄にため息を吐く。
「ていうかいつまで抱きついてんのさ」
「えー!いいだろ!久しぶりにパメラとの再会だぞ!!」
ニコニコの笑顔のザレックには悪いが、正直私はもう限界だ。
「いや、汗臭いから一旦離れて」
「…………!?」
「それに泥がつく」
訓練したままの姿で抱きつかないでほしい。
ていうか緊急事でもないのに本当になんで使わないんだろう。
部屋の悲惨さに目が行って落ち着かない。
ザレックはポカンとした顔を戻して、すぐに私の顔色を伺うと、
また一瞬、間が空いたが、すぐに「あ、はい……ごめんなさい」と言って離れた。
すぐに清掃魔法を自分にかけている。
私も泥がついたのでまた自分に魔法をかけた。
ちなみにユアンもだ。
こっそりと魔法使ってるけどバレてるからね。でも少年らしくていいと思うよ。
その思いを込めて、ユアンにニコリと笑うと、気まずそうに目を逸らされた。
「それよりザレック、依頼は?」
みんなが綺麗になったところで、気になっていたことを尋ねる。
ザレックと最後に会った時、新種の魔物事件があった近くの街に応援をしに行くと言っていたはずだ。
人の被害は幸いなかったが、家の崩壊など街に結構な被害が出たみたいで気になっていた。
「おう。
……実は、その件でお前たちに手伝ってもらいたい事があるんだよな――
ある女の子を、俺と一緒に救ってくれ!」




