22話「ユアンのお嫁さん対決2」
なんとかスクランブルエッグが完成した。
「ふふん、余裕だったの!早くユアンに渡しに行くの!」
ヒルダは早々に、食堂へと続くドアを開いて行ってしまった。
「……」
洗い場をチラッと見る。
使った調理器具は流し台に放置されたままだ。
「片付けまでが料理なんだけどなぁ……ま、いっか」
院長が見ていないから、魔法でパパっと綺麗にする。
至る所に卵が飛び散っていたので、部屋全体にも魔法をかけた。
「やっぱ清掃魔法ってサイコー!!」
魔法をかけると一気に綺麗になってスッキリする。
ホコリだって頑固な汚れだってこの魔法を使えばなくなる。
なにがあってももう絶対この魔法手放さない。清潔って大事。
「前の時も欲しかったなぁ……」
前世の片付ける暇がなくて、少し荒れた部屋を思い出す。これがあったら楽だったのに。
「前の時って?」
後ろから声が聞こえて、ビクッと肩が上がった。
振り返るとヒルダを連れたユアンが立っている。
「なんでいるの?」
「パムが来ないから、片付けしてないんじゃないかなって思って戻ってきたんだよ」
ユアンに感心する。
ヒルダのことはお見通しみたいだ。
長年面倒見てた甲斐があるみたいだ。
あれ?これってもしかして………
将来、妹と思ってた子が、いい女になって意識する。
みたいな少女漫画的展開に発展する!?
(うわぁ!面白い)
二人とも家族のような存在だから、その気があるなら私としては嬉しい。ぜひ幸せになってほしい。
でも期待しすぎないようにしなきゃ。
でもニヤニヤが止まらない。
「パム、その顔は変なこと考えてる?……絶対違うよとだけ答えておくね」
苦笑いするユアンに肩を落とす。
「なんでわかったの?ニヤニヤしてたから?」
「うーん、ちょっといつもと表情が違うんだ。
どこが違うの?って聞かれたら答えられないんだけどね」
「おー!勘ってこと?すごい!」
拍手をする。
ここ数ヶ月でわかるようになるだなんてすごい観察力。
鈍感ユアンなのに、人の表情の変化には敏感みたいだ。
「ユアンって本当に面白いよね〜」
そういうとユアンは目をパチパチとさせた。
「そうかな?でもパムが楽しいなら嬉し……」
「ヒルダはつまんなーい!!ユアン!ヒルダは!?ヒルダの表情もわかるの!?」
にこりと笑ったユアンを遮るようにヒルダは口を開いた。
「ヒルダは凄くわかりやすいよ。
それよりヒルダ、パムに片付けのお礼は?」
ユアンがヒルダの肩を押して促す。
(すごい嫌な顔してる……)
「ありがとうパメラ」
「………どういたしまして」
ヒルダのさっきの照れはどこかにいったらしい。
ユアンの命令は絶対なのか、嫌がりながらも素直にお礼を言うヒルダに虚をつかれる。
(ユアン……無意識に調教してる……)
末恐ろしい男だ……。
それでいいのかとは思うけど、ヒルダとユアンらしいからいっか……。
***
厨房から食堂に移動すると、院長がちょうど来ていた。
「院長おまたせ。ここで待ってたの?寒かったでしょ?」
今度の冬のバザールで出すのか、編み物をしながら待っていた院長の隣に腰かける。
暖炉に火もついておらず、厚着をして凌いでいる院長の手を握ると冷たくなっている。
「少し前に来たのよ。だから寒かったけど問題ないわ。
それに私とユアンだけだもの。ユアンは寒がっていないし勿体ないわ」
「風邪引かないように気をつけてよ?」
ユアンは体温が高くて暑がりだからいい。
前世で見た、半袖短パン少年くらい寒さ耐性がある。
けど院長は違うんだから体には気をつけてほしい。
まぁ、いざとなったら私が治せるけど。
「パメラ!!!!早く料理出して!!!!」
私の服を引っ張ってヒルダが催促する。
「はいはい、じゃあ始めようか。
ユアン、院長の隣座って」
反対側にいたユアンと席を交代する。
位置も決まったので、さっそく2人の前にスクランブルエッグを出す。
まずは私のから。
「はい、どうぞ〜。食べたら次出すから、その後に良かった方に表入れてねー」
「わぁ!美味しそうね!」
「本当だ。すごく美味しそうだよ」
院長とユアンが1口食べた。
「まぁ!美味しいわ!!」
「美味しいよ」
そう言って二人は私の方を見た。
言ってないけど、どっちが作ったかはお見通しらしい。
とりあえず、2人ともお気に召したみたいでよかった。
前世の1人暮らし時代の自炊が活きて満足だ。
二人とも食べ終わったので、隣でソワソワしているヒルダを見る。
(緊張してる……無理もないか……)
「はい、食べ終わったら次ね。
二人とも今度はもーっと気にいると思うよ?」
収納魔法を発動してヒルダのスクランブルエッグを出してヒルダに渡す。
「ほら、ヒルダ。言いたいことあるんでしょ?」
緊張しているヒルダに笑う。
私が笑うとヒルダの緊張はどこかにいったのか、ムッとして口を開いた。
「あ、あのね!!!ユアンお誕生日おめでとう!!!!」
ユアンは目をぱちぱちとさせた。
「ありがとう。覚えててくれたんだ」
「えへへ」
ユアンがヒルダの頭を撫でた。
今日はユアンの誕生日だ。
ヒルダがやたらと張り切っていたのも、プレゼントを渡したかったらしい。
(手作り用意するなんて可愛いよね〜)
「あ、あのね!!い、院長はいつもありがとう!」
「まぁ、こちらこそありがとう。嬉しいわ、ヒルダ」
(ちょっと目頭が熱くなってきちゃった……)
目の前で繰り広げられる光景を見て胸がポカポカと暖かくなる。
今回の勝負は私の負けかもしれない。
いい勝負だった。
なんて言う私の思いはすぐに消え去ることになった。
ヒルダのある一言で――
「あら、パメラに対してはなにかないのかしら?」
「うん、何回か対決してるしパムと結構、仲良くなれたんじゃないか?」
気を利かせた二人が私に矛先を向けた。
2人の視線が突き刺さる。
ヒルダも二人に誘われて振り向いた。
ワクワクと次の言葉を待つが、聞こえてきた言葉に笑顔が消えた。
「あるわけないの!感謝どころか邪魔者なの!!!!ふん!」
腕を組んでヒルダは顔を逸らした。
「こら!なんてこと言うのあなたは!?」
「ヒルダ!なんでそんな酷いこと言うんだ?」
ありがとう、二人とも。
でも、二人が必死にフォローする姿が一番心にくる。
でも、そっか。そこまで言うの……。
懐いたと思ったのは錯覚だったみたい。
それに、孤児院でそんな言葉を発するなんて少しお仕置が必要なのかもしれない。
さっきも言ったように、厳しくするだけじゃダメなように、優しくするだけでもダメだからね。
「ヒールダちゃん♡」
にこりと笑ってヒルダの肩を掴む。
「ひぃっ、ユアン!院長ー!!助けてほしいの!!!!」
不穏な空気を察したヒルダは、ユアンに助けを求めようと手を伸ばしたが、その手が握られることはなかった。
「ヒルダが悪いよ。1回パムに本気で怒られた方がいいみたいだ」
「ふぇ……」
優しいユアンに断られてヒルダはポカンとしている。
「そうね……私たちだと怒っても甘やかしてしまうから……」
「ふぇええ……!?」
院長にも断られて、ヒルダの顔色が一気に悪くなる。
「ふ、ふふふふ。ヒルダ……ほんといい度胸してるよね。そんなに知りたい?私がブチギレる様を?」
「い、いらないの!!!」
「遠慮しないで。懲りるまで徹底的に教育してあげる。楽しくなってきたね?」
ヒルダを担いで、私の部屋に向かう。
「いやぁああああああ!!!!ユアンー!!!!!院長ーー!!!!助けてほしいのー!!!!!!パメラに殺されるのー!!!!!!」
ヒルダの悲鳴は孤児院中に響き渡っていたらしい。
後日、しばらくヒルダには怯えられた。
でも怪我だけはさせていない、とだけは言っておく。
「はい、ユアンおめでとう。私とおじいちゃんから」
「うわっ、大きいね。いいのか?」
「いいよ。おじいちゃんにご領地の美味しいもの取り寄せて貰ったから、後で美味しいやつ教えて」
「うん。……嬉しいよパム!!!ありがとう!!!」
「いいえー(プレゼント抱きしめてる……やっぱユアンに恋はまだ早いかも……)」




