21話「ユアンのお嫁さん対決」
「パメラ!!対決を申し込みに来たの!」
「昨日に続き、今日も精が出るね」
こうして挑まれるのは、今回で6回目だろうか。
勝敗は5勝0敗。私の圧勝だ。
「それで、今日は何するの?」
「料理対決なの!!」
ヒルダはビシッと私に指を指して、決めポーズをする。
しかし、私の横にいたユアンに「人に指差しちゃダメだよ」と言われ、慌てて直した。
「料理対決かぁ。先に聞いておくけど何作るの?」
「……ス、スクランブルエッグ!!!
これならヒルダでも作れるはずなの!!!この間教えてもらったの!!」
ここで簡単な卵料理を出してくるヒルダに少し成長を感じる。
以前なら、やたらと手間のかかる料理を出してきて、院長、私、ユアンに却下される展開になってたのに。
「それならいいよ」
「ヒルダ、院長の許可は取ってきたのか?」
「うっ。と、取ってないの……」
「取っておいで」
あの後、何を話したのかは知らないけど、ユアンとヒルダの関係もだいぶ変わったみたいだ。
いつもなら「ヒルダ、一緒に許可取りに行こう?」と甘やかしているはずなのに。
とはいえ、しょぼくれているヒルダが見てられなくて助け舟を出す。
「ヒルダ、一緒に行ってあげるから許可取りに行こう」
そう声をかけると、顔色が一気にパァっと明るくなった。
「ふふっ、パムも結構みんなに甘いよね」
「こういうのは厳しくするだけじゃダメなんだよ。
今回はちゃんと現実味のある提案をしてきてくれたからご褒美だよ」
そう言ってヒルダの頭を撫でようとすると避けられた。
(これがまた反抗期の妹みたいで可愛いんだよねぇ……)
さらに猫みたいに威嚇してる姿が、また可愛くてふふっと笑みが零れる。
「これはダメなんだ?」
「そこまでは許してないの!ユアン……撫でて」
ユアンがチラッと私を見る。
遠慮しているような表情をしているので頷く。
(気にしてないからいいのに)
「……そうだね。ヒルダよく頑張ったね」
私の手前、悩んだユアンにヒルダはしょんぼりしていたが、褒められて小躍りしそうなほど喜んでいる。
ユアンはユアンで、飴と鞭を覚えたみたいだ。
それはそれで、沼らせる可能性があるんだけど……ま、いっか!面白いし!
試行錯誤している二人が微笑ましい。
二人とも偉い。という意味も込めてもう1回頭を撫でようと挑戦したら、やっぱりヒルダには避けられてしまった。
◇◇◇
厨房――
厨房は前世とそれほど変わらない作りになっている。
院長が財産を使って作った厨房なのでコンロ、冷蔵庫などの魔道具も揃っている。
孤児院にしては豪華なラインナップで、院長の張り切り具合が伺える。
「それじゃあ許可も取れたから、料理作ろっか」
この対決をし始めた当初、院長はまた変なことを始めた。という目で見ていた。
でも対決するに連れて、ヒルダは少しずつ成長して行ってるので、今ではすぐに許可がおりるようになった。
(院長も悩んでたんだね……)
「今回の審査は俺と院長でいいのかな?」
「いいよ」
「ユアンがいいの!!!」
ヒルダは鼻息を荒くして返事をした。
今日はすごく張り切っているみたいだ。
「じゃあユアンは一旦解散ね」
ユアンの肩を押して厨房から出す。
不安そうな顔で出ていくユアンに「大丈夫、ちゃんと見とくから」と告げてから扉を閉めた。
大丈夫、怪我はさせない。
厨房も……なるべく守る。
大丈夫、スクランブルエッグでぐちゃぐちゃになんてならない。
ならないはずなんだけど……あのヒルダだからちょっと怪しいかも……。
「パメラ早く早く!今回こそは勝つもん!」
「はいはい」
もうエプロンもつけて、やる気満々なヒルダの元へ急いで駆け寄る。
エプロンをつけて、フライパンを出す。
「ヒルダ、やる気満々なのはいいけどスクランブルエッグの作り方知ってる?」
「卵を……卵を焼く…の…?」
首を傾げたヒルダに少し不安になってきた。
あの自信満々な作れるという言葉はなんだったんだ。
「うん、まぁ正解」
私に正解と言われてヒルダは、ほっとした顔をした。
(一応……一応私から作ろうかな)
このままでは、とんでもないスクランブルエッグが出来そうだから。
フライパンを魔道具のコンロの上に置くと、ヒルダが手元を覗き込んだ。
「じゃあ私から作るね」というとあからさまにホッとした顔をしている。
「まずボールに卵と塩、牛乳を入れてかき混ぜます。
この時は、切るように混ぜるのがポイントね」
真剣に私の手元を見ている。
ユアンのために頑張ろうと行動する姿勢は素晴らしい。その行動力は見習うべきだ。
コンロに着いている魔石に魔力を流すと、火がボウッとついた。
「じゃあ混ぜたら、バターをフライパンに入れて、卵を入れてかき混ぜる。
……はい、完成〜」
ふわふわスクランブルエッグの完成だ。
我ながらいい出来だと思う。
対決まで冷めないように収納魔法を発動する。
収納魔法は私が前世を思い出してから、思いついた初めての魔法だ。
時間も経過しない優れものだ。
「……また変な魔法覚えたの?」
変なものを見る目で見てくる。
「変な魔法って失礼。これはマジックバッグの魔法版だよ!」
すっごい便利なんだから!!!
これがあったら鞄だっていらないし、スリにだって合わない。
と言ったらヒルダは興味無さそうにそっぽを向いた。
魔法にはあまり興味が無いみたいだ。
「そんなことより次、ヒルダの番ね。
火傷に気をつけてやってみて」
「ふふん、こんなのヒルダ簡単だもーん!そこで見ててほしいの!!」
清掃魔法を使って綺麗になったフライパンをヒルダに渡す。
やる気十分なヒルダにヒヤヒヤする。
私の経験上、こういう時は何かやらかす。
あまり口出しするつもりはないけど、なるべくすぐに止めれるように隣に立つ。
あ、卵落とした。
あ、次はボールごと落とした。
(前途多難だ……)
あ、今度は塩………
「ちょっと待ったヒルダ!!!」
慌てて手を掴む。
「ヒルダ、まさかその量を入れるわけじゃないよね?」
片手いっぱいに握りしめた大量の塩を持ったヒルダを見て、口を出さないのは無理だった。
「味濃い方が美味しいでしょ?」
「塩分過多で死んじゃうから……」
「えんぶ…?なに?」
あの二人ならヒルダが作った料理が、どれだけ辛くても食べ続けるだろうし。
「待って、バター入れすぎだよ!胃もたれさせる気!?」
「芋タレってなに?お芋?ヒルダ知らないの」
次は残っているバターを丸ごと入れようとするヒルダを止める。
ヒルダは段々とムッとした顔になってきた。
火力が強すぎるコンロを弱くした時――ついにヒルダの怒りは爆発した。
「もう!邪魔ばっかりしないで!」
「邪魔されたくないのはわかるけど、火は強すぎて危ないし、調味料も使いすぎ。
院長にも怒られちゃうかもね?」
「どうしよう!!!ヒルダ怒られちゃう!?怒られちゃうの!?」
頭に抜けていたのか焦り始めたヒルダにため息をつく。
次第には「も、もしかしてユアンにも……?」と顔が青くなる。
「んーもしかしたら怒られるかもね?」
(多分、両方怒んないと思うけど)
一生懸命作ったヒルダを怒ることはないだろう。
でも火に関しては怒られるかもしれない。
「大丈夫だって、火加減だけ気をつけてくれれば二人に言わないから」
怪我がないならもうなんでもいい。
あとは好きに作って。
「ほら、あとは焼くだけだからやってみて」
「う、うん。でもこれは全部ヒルダが頑張ったの!
でもあ、ありがとう………」
「ん?」
(今ありがとうって言った?)
「て、敵に手を貸すなんてパメラはきっとバカなの!!」
顔を真っ赤にしているヒルダにニヤニヤが止まらない。
警戒心の強い猫がちょっと懐いた。
「ニヤニヤしないで欲しいの!!!!」
「んー無理!嬉しいから」




