19話「じゃじゃ馬娘との対決3」
「わ、わかってる!本当にわかってるの!そんな顔しないで!!」
真っ赤な顔をしたヒルダが、さっきから必死に言い訳をしている。
きっと力では敵わないので、振り返る前にやってしまおう。
とでも思ったのかもしれないけど……
それにしては、作戦が弱すぎる。
なにかに注目してもらうとか、他にも方法があったはずだ。
この世界には危ない場所も人も多いのに心配だ。いつか誘拐でもされそう。
「ヒルダ、本当に気をつけて」
ヒルダに本気で注意すると、
さらに顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。
とりあえず、わかってはいるみたいで良かった。
「それで?なんで殴りかかろうと思ったの?」
懇々と注意をされて、しょんぼりしているヒルダに理由を聞く。
「ヒルダ、ユアンが好きなの!!!」
「うん」
嫌ってくらい知ってる。
毎日睨まれてるし。
「でも、今日の朝…ユアンとパメラを見ていやで……ううっ……と、取られたって思ってまっさつしようと思ったの……」
ヒルダは涙を浮かべて、スカートを握りしめた。
罪な男だと思うと同時に、
泣かれるくらい好かれるなんてユアンも中々やるなと感心する。
「私……私にだけ優しくしてほしいのにっ!!好きでいてほしいのに!!うわぁぁぁん!!!!」
ボロボロと涙がこぼれ落ちた。
手で拭おうとするヒルダを抱きしめる。
(自分だけに優しくか……)
悲しいけどユアンの世話焼きは一生治らない。
きっと今だって、私以外の人に世話を焼いている。ユアンって誰にでも優しいからね。
なんて言ったとしてもヒルダも内心でわかってるだろう。
ただ感情が追いついてないだけで。
(どう慰めるべきかな……)
ヒルダを抱きしめながら頭を回転させる。
いや、でも敵に慰められても屈辱かもしれない。
となると、感情ぶつけさせる?いや、喧嘩?
それだとさっきとあんまり変わらないから、何かこう……いい方向にいけるような………あ!!
良いことを考えた。
それにこの作戦は面白そうだ。
ヒルダから少し離れて顔を見る。
鼻水と涙でぐしょぐしょだ。
「あのね……ヒルダ……内緒にして欲しいんだけど私もユアンが好きなんだ(家族として)」
ヒルダの目が見開かれる。
「でも、ユアンは誰にでも優しいし、きっと好きな人だっていないでしょ?
だから将来、告白を受けてくれるまでの間、二人で暴力以外で対決しない?」
ヒルダは首を傾げる。
「ぼーりょく以外ってなに……?それ以外でまっさつできるの?」
「抹殺から離れろバカ。
ていうかどこでそんなこと覚えてきたの」
誰だ。こんなこと覚えさせたバカは。
見つけ出して説教でもしてやる。
「そんなことしたらユアンから嫌われるのわかってるでしょ?
自分の意見を言うのはいいし嫉妬するのもいいよ。
けどそれで暴力するのも殺めるのもダメ」
「いたい……」
可愛い顔して脳筋のヒルダのおでこを指で軽くこつく。
さて、ここからが踏ん張りどころだろう。
私とユアンが将来冒険者として出た後に、今のヒルダが年長者でまとめ役だと本当に困る。
気に入らない子を抹殺して強者こそが正義の孤児院が出来上がりそうだ。
そんな殺伐とした実家なんて嫌だ。
未だに痛がる振りをしているヒルダにため息が出る。
12歳で冒険者として働きに出るまでの間、この脳筋を矯正できるのか……
(はぁ……すっごい不安……)
「じゃあどうするの?」
「いい質問だね」
口を窄めて拗ねた顔をしているヒルダに
微笑みかける。
ちょっと笑顔が邪悪だったのか、ヒルダから「ひぃっ」と小さい悲鳴が上がった。
「正直、家事、料理その他諸々。
お手伝いですらサボっている人が、いいお嫁さんになれるとは思わないんだよね」
「うっ……」
ヒルダは視線を逸らした。
わかってるみたいで良かったよ。
これなら作戦も成功しそう。
「でもね、今ですらモテモテのユアンだよ?将来狙う子なんて大勢出てくるだろうなー?」
想像したのか、また涙目になってきたヒルダの耳元に囁く。
「それに想像してみなよ。
ユアンと結ばれて、綺麗な部屋美味しい料理。
それを前にして、ユアンがヒルダに「ありがとう」って微笑んでる姿。
もしかしたらキスとかされるかもね。
これがゴミ屋敷で素敵なシーンになるかな?
それとも全部ユアンに押し付ける?」
「えへ……えへへへ……」
言葉通り想像しているのか、ヒルダの口元は緩んでよだれが出ている。
(あーあ、涙と鼻水とよだれのコンボになってる……)
ハンカチで拭いてあげるが、気づかないくらい妄想に夢中なようだ。
(どこまで妄想してんだか。面白いからいいけど)
頬杖をついて、しばらく観察していたら、ハッと現実に戻ってきた。
どっちにするかは決まっていそうだけど、あえて聞こう。
「で?どうする?対決する?それとも抹殺?」
◇◇◇
「おーい、ユアン?」
ヒルダの部屋から出ると、少し離れた場所でユアンが俯いて立っていた。
ここにも悩める子羊がいたみたいだ。
「お姉さんが聞いてあげよう。何に悩んでるの?」
「俺……知らなかったんだ。
だからヒルダが泣いたのは、俺が知らないうちに間違えたことをしていたのかなって思ったんだ……」
「いや?」
何もしてない。ただ顔が良かっただけで。
強いて挙げるなら、ヒルダのお嫁さんにして欲しいって返答に「大きくなってお互いが好きならね」くらいだ。
期待させると言われればされるかもしれない。
けど、これも子供への対応として間違えてるとも思えない。
「ユアンお姉さんからのアドバイス」
「うん」
顔を上げたユアンの目が涙目のキュルキュルお目で、うっとなる。
(この顔弱いんだよねー)
大きく息を吸って深呼吸をする。
「……今まで通りのユアンを貫くこと。
ヒルダが好きなのはいつものユアンだよ。私もね。
それに答える気がないならキッパリ断ればいい。恋愛は一人でする訳じゃないんだからさ」
ユアンの頭を撫でる。
「それに……今のうちに断るのに慣れておいた方がいいよ?」
「え?」
「将来美女に囲まれることになるんだから、これくらいで落ち込まないで」
「え?」
容易に想像できる。
それどころか――多分、厄介なガチ恋もできる。
「だからまずは、さっさとヒルダ振ってきて」
「ええ!?」
少し荒業すぎるけど、こういうのは他人に押されるのも大事だったりする。勇気が出ないから。
それに意外としぶといよ奴は。
「大丈夫大丈夫、やってみればわかるよ」
ユアンの背中を押してヒルダの部屋まで連れていく。
「ちょ、パム!!心の準備が!!!」
「はい、男らしくいってらっしゃい〜。
あ、私に殴りかかってきたから、泣き落としに負けないでね」
扉が閉まる瞬間「どういうことだ!?」と焦った声が聞こえたが、出てくることはなかった。
あとはユアンがどうにかするだろう。
「ま、これで一件落着ってことで!」




