17話「じゃじゃ馬娘との対決」
「パム、スープ服にこぼれてるよ」
「あ……ごめん」
ある朝は、私の服に溢れたスープをユアンは拭き取り、
「パム、これだけ食べれる?あーん」
「あーん」
またある朝には、ユアンは私にご飯を食べさせた。
(あれ?介護されてる?)
と思ったのはつい最近の話だ。
なんでこんなことになったのか。
それは私が朝起こして欲しいと軽くお願いした日から続いている。
「パム、起きて。朝だよ」
今日もユアンに起こされた。
カーテンが開き、朝日が目に染みる。
揺すられる身体を無視してもう一度寝入るも、ユアンは根気よく起こしてくれた。
なんとか起き上がって着替えるが、すぐに力尽きた。
(なんでこんなに毎朝だるいの……)
これなら徹夜をした方がまだ体調はいい。
それにこの毎朝のだるさには少し覚えがある。
なんだっけ………
あ、前世の時だ。
前世の社畜時代もこうだった。
(……てことは前世の習慣が今世でも残ってる?)
性格が残ったように、社畜の頃の名残が残っている可能性がある……。
だって魔法を思い出せない、なんて要素を残したポンコツ神様だ。
(……そ、そんなの嫌だ!!今世は絶対過労死でなんか死なないから!!!)
部屋をノックされる。
返事がない私に痺れを切らしてユアンが部屋に入ってきた。
「パム?座り込んで何してるの?顔青いけど大丈夫?」
おでこに手を当てて、熱を確かめられる。
熱は無いんだよ。
ちょっと絶望……いや、思い出して嫌な気分になっただけで……
「ユアン……」
弱々しく名前を呼ぶと、ユアンは撫でていた手を止めた。
「ちょっと動くの面倒臭いからおんぶして……」
間が広がる。
しばらくするとユアンからため息が聞こえて。
「まったく。パムって素直じゃないよね。はい、後ろ乗って」
ユアンが背中を向けてしゃがみ込んだ。
「ラッキー(ごめんね)」
「パム、言ってることと思ってることが多分反対だよ」
ユアンおんぶされたまま、食堂に着いた。
部屋に入ると、みんなの視線が突き刺さる。
一言で言えばこうだろう。
「またやってるよ」
呆れた目を全身に浴びる。
いくらでも見てくれていいよ。
どうしようもない姉と思われても私は気にしない。羞恥心だってないし。
それよりこっちを睨んでいるヒルダに夢中だ。
自然と口角が上がる。
きっとヒルダから見たら、私はユアンを取ったメス猫だろうか。
楽しいシチュエーションに「むふふ」と変な声が漏れる。
「パム、降ろすよ」
ユアンは間近で聞いているのに、気にする風もなく私を降ろした。
随分慣れたものだ。
今も「顔色が良くなったね」と嬉しそうな顔をしている。
「おや、パメラちゃん、ユアンくんおはよう」
「おはようございます」
「おはよう」
毎日、孤児院のお手伝いに来てくれるエマおばさんに挨拶をする。
「エマおばさん、私スープだけで……」
「エマさん、パムの言うことは気にしないでください。俺が調整しますから」
言い終わる前にユアンに遮られてしまった。
ムッとするけど、ユアンに「お昼までにお腹空くよ?」
と言われて、ぐうの音も出ない。
私の分の朝食も持っていくユアンに、肩を落としてとぼとぼと着いていく。
「パム、今日も食べれるだけ食べてね」
そう言って私の前にお皿を置いた。
私があまりにも朝食を取らないのを見たユアンが、こうしてフォローをするようになったんだけど……
面倒臭そうどころか、ユアンは存分に世話が焼けるからか、少し生き生きしている気がする。
本当にもの好きだと思う。
「いつも思うんだけど、ここまでしなくていいんだよ」
ユアンのお皿に、自分のパンを乗せる。
大食いなんだからユアンが食べた方がいい。
「いつも思ってるけど、食べてほしいからするよ」
載せたパンが戻ってきた。
最後の抵抗だったけど、ニコニコと横で微笑んでいるユアンに完全に諦めがついた。
今日も私の負けみたいだ。
ボーッとしながら食事を取っていると「パム」と呼ばれた。
振り向こうと思ったが、先にユアンが覗き込むように見てきて、首を傾げる。
「なに?」
「髪の毛食べてるよ。気をつけて」
そう言ってユアンが私の髪の毛を振り払ったその瞬間――
「きゃーーーー!!!!!!」という悲鳴が食堂に響き渡った。
ニヤリと笑う。
この声の主はヒルダに違いない。
ヒルダを見ると、怒りで震えながらこちらを見て睨んでいた。
隣でユアンが首を傾げる。
「今のヒルダの声?なんであんな怒ってるんだ?」
ユアンがそう発言した瞬間――
私は耐えきれなくなった。
「あはははは!!なんで気づかないの?!あはははは!!」
どう考えでもヒルダの嫉妬だろう。
日頃、好き攻撃を受けているのになんで気づかないんだ。
ハーレム主人公の鈍感くんの反応そのもので本当に毎回面白すぎる。
だめだ。
隣でキョトンとしているユアンと、さらに怒ってるヒルダの対比が面白すぎてお腹が痛い。
「パム?さっきからなんで笑ってるんだ?」
「ん、んふふふふ」
「??でも、目が覚めたみたいで良かったよ」
「ふははははは!!!もうやめて……ふふっ、笑わさないで」
(あー楽しい)
朝食の時間が終わるまで、私の笑いは食堂に響き渡った。
楽しいから二人の関係を壊したくないけど、ヒルダのあの対応はなんとかしないといけないかもしれない。
フォークを握りしめて今にも襲いかかってきそうだった。
姉妹喧嘩は拳でやるべきだろう。武器は卑怯だ。
年長の私たちが冒険者になるまで約一年。
それまでにあの少し攻撃的な性格をどうするべきだろう。
そう思っていたら、その時はすぐ来ることとなった。




