16話「院長の不安2」
約束通り今日はおじいちゃんの家に、院長と二人で訪問した。
院長は、昨日の怯えが嘘のようにいつも通りに戻っている。
「パメちゃん、昨日ぶりじゃな。おや?そのお方は?」
院長の方を見て首を傾げた。絶対知っているくせにわざとらしい。
「私の孤児院の院長だよ。院長あの人がダリア商店の創設者のダリアおじいちゃん」
「初めましておじい様。私ソフィアと申します。いつもこの子がお世話になっているようで……ご迷惑はおかけしていませんか?」
院長は不安そうな顔をして、こちらをチラッと見る。
心外だ。私は迷惑はあまりかけてないはずだ。
どちらかというと私の方がおじいちゃんに迷惑かけられてる。
「おお、これはどうもご丁寧にありがとうございます。迷惑どころか毎回楽しいですぞ。
さぁさぁ、こんなところで立ち話もなんですから、パメちゃんも好きな緑茶を飲んでくだされ」
(やっぱり知ってんじゃん)
いつもよりウキウキしているおじいちゃんにため息を吐く。
「それでパメちゃん、何か話があってきたんじゃろ?」
「うん、商売の話なんだけど」
商売という単語を出すと、おじいちゃんの目が一気に鋭くなった。
(こわいこわい)
「だ、ダメだったら遠慮なく言ってください。子供の戯言と思って……」
おじいちゃんの迫力に院長が怯えている。
口元を引き攣りながらも、私の前に出てきて庇うようにフォローをした。
「やめてよ。院長怖がらせないで」
院長の後ろから覗いて、クレームを入れると、
「院長さんすみませんのお」と、さっきの眼光がスっと消えていく。
「それでおじいちゃん。私、何個かアイデアがあるんだよね」
「ほぉ、いくらパメちゃんでもお友達じゃからって簡単に売りに出すことはできんよ?」
(また怖い顔になってるよ……)
話進まないからもう突っ込まないけどさ。
「わかってるって。
とりあえず現物はないから、いくらか案を出すね。
1、遊びながら言語を学べる玩具
2、熱のときに頭を冷やせる便利な氷枕の作り方と、氷を使ったデザー……」
「ちょ、ちょっと待った!!パメちゃん!!」
勢いよくおじいちゃんは乗り出してきた。
(ていうか近い)
おでこを押して距離を取る。
「そんな興奮してどうしたの?」
「それ全部パメちゃんの案なのかの!?」
「そうだよ。おじいちゃんが前に手を出したいって言ってた、食、子供、平民向けのものを出してみた」
グイグイおじいちゃんが迫ってくるから、今度は後ろに体を仰反る。
(だから近いんだって)
「も、もしや……それ以外にもあるのかの!?」
(あれ?思いの外食いつきが良すぎない?)
目を細めて、今にも踊り出しそうなほどの満面の笑顔を浮かべている。
不気味だとは思う。
けど、食いつきがいいのは私的にも助かる。
(ここは乗っておこう……)
「んーどう思う??」と意味深げに微笑むと、おじいちゃんは喉を鳴らした。
「乗った!!!」
口元が引き攣る。
おじいちゃんがこう乗り気だと悪い予感しかしない。
(おじいちゃん何か企んでるね)
こんな好都合なのは絶対におかしい。
いや、それとも……院長効果かな……
「どうじゃ、パメラちゃん!?」
おじいちゃんの大声で現実に戻る。
「ねぇ、乗り気なのはいいんだけど、説明もしてないんだけど。
もっと波乱があるかと思ったんだけどあっさり過ぎない?」
「ああ、それはパメちゃんが出してくれたアイデアはいつもよく売れ………ああ、いかんいかん。これは内緒じゃった」
「おい、くそじじい。今なんて言った?」
聞き捨てならない言葉が聞こえてきた。
「口が悪いわよ!!」と院長に叱られるけど、これはおじいちゃんと私の戦いだから!!!邪魔しないで!
「い、いやぁ……ちょ、ちょっとじゃぞ?これ欲しいなぁ……って零したヤツをちょっとじゃ」
なるほど、その言い方は普段から私の話を聞いて、勝手に商品にしてたってことか。それも何回も。
(ムカつく)
私も前世の受け売りだから、文句も言いにくいけど!!でも使われてるみたいでムカつく!
「報酬は?私に対して何もなし?」
「い、いやぁ……」と言っておじいちゃんは目をそらす。
「悪徳商会って呼んでやる。みんなに広めてやる」
「パ、パメちゃん!!!わしが悪かった!!!
今回パメちゃんが出す商品はパメちゃんの条件を飲むから許しておくれ!!」
(へぇ……)
ニヤリと笑うと、「げ、限度はあるぞ?」と怯えている。
「ふーん。じゃあ本当にいいんだね?私の商品を今回は引き受けてくれるんだね?私の条件で。」
条件の部分を強調しておじいちゃんを脅す。
「う、うむ。でもパメちゃん、ほ、本当に要相談でお願いするのう」
おじいちゃんは後ろめたいのか、どんどん小さい声になっていく。
(はぁ……まぁその発言が聞けたならいっか)
隣にいる院長を見る。展開についていけてないのかオロオロしている。
「院長、これでお金の心配はないよ」
「へ?え、ええ……」
これで院長が心配していたことが一つ減った。
「でも、おじいちゃん言っとくよ。
院長が不安が解消されないなら教えないから」
「なんじゃと!?色々聞き捨てならんぞ!パメちゃん!!
それに聖女様の不安ってなんじゃ!?」
そっちもやっぱ知ってたんだ。
元院長が聖女だって。まぁこの街でも有名だからね。
それに出さないって聞いて悲しそうな顔をしてたけど、譲れないからね。
私は狸爺より院長を取るから。
「そこでおじいちゃんに相談なんだけどさ。
アイデア料はいらないから食料の現物支給にしてくれない?」
「わ、わしはいいけど、パメちゃんはいいのかの?」
「今回限りだとこれがいい」
これで犯罪の不安は減ったはずだ。
食料だけで、元聖女が経営している孤児院になんて誰も入らないだろう。
「あと、これはおじいちゃんのアイデアってことでいいよ。でも私の事絶対誰にも漏らさないで」
「……」
おじいちゃんの目が真剣になり、顎を触る。
「口止め料ってことかの?」
「そう」
「ふむ……」
おじいちゃんは遠くを見て考え込んだ。
(これはおじいちゃんにも利点があるはずだ)
この世界では、商品を登録する制度がある。
アイデアを使いたい人は、登録名の人に料金を支払う仕組みだ。もちろん全体に公開することもできる。
その権利を全部おじいちゃんに譲る。
私サイドは孤児院が有名――いや、目立たない、誘拐が起こらないための措置だ。
「うむ、悪くない条件じゃの。わしにも色々利点はある。その条件飲むとするかの。それだけかの?」
「あと1つだけある」
残るは1番大切なことだ。院長の不安がなくなるかもしれない条件――
「おじいちゃんここが1番重要だから忘れないで」
念を押すようにおじいちゃんを見る。
「いつもお世話してる子供の保護者が挨拶に来た。
それが元聖女様で話をして感銘を受けた。
だから現状を知って、成長が悪い子供たちに支援をすることにした。
ってことにしてくれる?」
院長の方に振り向く。
「院長。これなら日頃、支援してくれる人と変わらないでしょ?バザールで貴族に支援してもらうのとなにが違うの?」
ニヤリと笑って院長を見る。
「……ふ、ふふふっ、そうね。
私の子供たちが、危険もなく元気に成長してくれるのなら、受けない訳にはいかないわ」
キョトンとした顔の院長は次第に笑みが溢れ始めた。
(はぁ……丸く収まって良かった……)
楽しそうに笑っている院長に安心する。
「パメラ」
院長と目が合った。
「ありがとう。あなたは自慢の私の子よ」
そう言って院長は、とびきりの笑顔を浮かべた。
後日、利害が一致したおじいちゃんと、勇気を出してくれた院長のおかげで、孤児院の食事は豪華になった。
「聖女様、ほれ、デザートもっといかがですかな?」
「い、いえ。お気持ちだけで十分です。それに私はもう止めた身ですから聖女はちょっと……」
「おじいちゃんってもしかして院長のファン?」
「ファンってなんじゃ?」
「大好き、尊敬、憧れとか色々な意味?」
「いいのぉ!聖女様のファンを名乗ろうかのう!」
「どうせならファンクラブ作ろうよ」
「ちょ、ちょっと!パメラ!おじい様もやめてください!!(なにか嫌な予感がするわ……)」




