獣転拳
休憩は終わりだ、酔いはもう完全に回復した。
膝枕は少し、いやだいぶ名残惜しいが起き上がる。
軽く体を伸ばしながら、心の準備をする。
プラータさんはすでに準備が終わっている、急ごう。
「今日あなたに教えるのは、獣転拳という武術よ」
「獣転拳……ですか?」
「かつて獣帝国で史上最強の獣人と呼ばれた男が編み出した格闘術よ。それをあなたに授けるわ」
有りがたい、オレはすでに白の技を曲がりなりにも習得しているが、それだけでは心許なかった。
もちろん白の技が駄目というわけではない、全てはオレが未熟だから悪いのだ。
もしオレが白の技を完璧にマスターしていれば思わなかったかもしれない。
「基礎はすでにオールから教わっているはずよ」
この半月オールさんに教わったことを思い起こす。
ほぼ実戦だったが、一つだけ技術を教えてもらっていた。
筋力を瞬間的に最大まで発揮させるやつだ。
今のところ目に見えた成果は出ていないが、ちゃんと毎日練習している。
サボっているのが見つかるとそれを口実に修業がきつくなりかねないからだ。
イリスは一度サボってノルマを倍にされていた。
「静から動へ高速で転じること、獣転拳の基本にして神髄。極めればこんなことができるようになるわ」
オレはその時軽く瞬きをした、時間にすると一秒にも満たないだろう。
再び目を開けたときにはプラータさんの姿が消えていた。
どこに消えたんだ?左右を見回してもその姿は見当たらない。
後方からオレの肩がトントンと叩かれる。
振り向くとそこにはプラータさんがいた。
目を離したのは一瞬だったはずだ、その一瞬で背後を取られてしまったようだ。
「これが獣転拳の技の一つ、瞬転駆、私の一番得意な技よ」
「まったく見えませんでした」
油断していたとはいえ、完全に見失ってしまった。
「一瞬でMaxまで力を引き出されるから助走なしで急加速できるの。これを攻撃に使うとこうなるわ。」
そう言い、プラータさんはオレの肩に触れた。
刹那、オレの体に衝撃が加わった。
その衝撃は体の芯まで届き、オレは膝をつく。
「これが獣転拳の基礎の技、獣転掌、手加減しているからダメージはないはずよ」
その言葉通り、すぐに立ち上がることが出来た。
「獣転掌は打撃ではなくて、衝撃を与える技よ、衝撃はたとえ敵が鋼鉄の鎧を纏っていても伝わるわ」
……すごい、白の技もすごかったが、この技も凄まじい、別の形の至高の武だ。
それから獣転拳の指導が始まった。
そういえばなぜここで修業をするのだろうか、これなら村の中でもできただろうに。




