熊さんに出会った♪
しばらく、森の中を歩く。
春なのだろうか、比較的涼しいが、額に汗がにじんできた。
さっきから虫はうるさい。
真夏のセミのようだ。
どこからか水の音が聞こえてきた。
思わず、音のほうに向かって走り出してしまった。
そこには澄んだ川があった。
水深は深くなく、膝が浸かるぐらいだろう。
まさしく清流を体現したような綺麗な川だ。
川に手を突っ込み、のどを潤す。
横を見ると、幼竜も顔を突っ込み、のどを潤していた。
「水って美味しいね!」
幼竜は興奮ぎみに話しかけてきた。
こいつは生まれたばかりだっけ?
初体験の感動を噛み締めているようだった。
できれば、水筒などの入れ物に入れたいが、持っていないので、飲み貯めしておこう。
限界まで水を溜めこむと地面に座り込んだ。
疲れた……
つい、ため息が出てしまった。
幼竜はまだ水を飲んでいるようだ。
地面にへたり込んだ状態で左右を見回した。
上流か下流か。
どちらに進むべきだろうか。
悩んでいると幼竜は、オレの肩に再び乗ってきた。
満足したのだろう。
「何を悩んでいるの?」
「どちらに進むか考えてるんだ」
下流だな。最悪海に出れる。
そこから、人を探そう。
行動を再開するか。
立ち上がるために、足に力を込める。
その時、グルルルゥと唸り声が聞こえた。
幼竜のものか?
「何か用か?」
しかし、返答が返ってこなかった。
後ろを向き、何かを見ているようだ。
「ごめん、気付かなかった」
振り向くとそこには熊がいた。灰色の毛に包まれており、手には鋭い爪を持っている。
その口からは牙がその姿を覗かしており、そして、目は血走っていた。
明らかに友好的な雰囲気を感じない。口からよだれが垂れているし。
喰う気満々。一言で表現するとそんな感じだ。
慌てて立ち上がり、恐怖を抑えながら、熊と正対する。
本能が隙を見せたら、飛び掛かられると感じたからだ。
熊と目を合わせ、少しずつ後ずさりしていく。
何とか十メートルぐらい離れることができた。
振り返り、オレは全力で駆け出した。
◇
後ろから熊が追いかけてきている。
体が重い、この世界は重力が強いのか。
特に右肩が重い。
右肩を見ると、幼竜がオレの肩に乗っていた。
「降りろよ!」
「降りたら僕が喰われる。絶対にいやだ!」
お腹がいっぱいになったらあきらめるかな。
ふと黒い考えが思い浮かんだ。
やめよう、それをやったら人でなしだ。
打開策をめぐらせていると、幼竜と出会ったときのこと思い出した。
「そうだ、最初みたいにオレの中に入れないか?」
「そうだ、それがあったね!」
幼竜は黒い光になり、オレの体に入り込んでいった。
出来るなら、始めからしろよ!。
『ごめんごめん、すっかり忘れてたよ』
最初の時のように、頭の中に声が響く。
ただ、少し違うのは、デフォルメされた幼竜がイメージとして、頭に浮かび上がっていた。
忘れるなよ!
だが、軽くなった!
足に力を込め、加速していった。