脱水
『水分補給は大事よ、特に運動するときは水がすぐに飲める状態にしないと』
オレは今正座させられて怒られている。
異世界にも正座があるみたいだ。
彼女の怒りはごもっともなので、オレは甘んじて受け入れている。
たしかに軽率だった、下手したら脱水症で倒れていたかもしれない。
今度は水を持ってきて練習しよう。
『昔、ある国の騎士団が鎧を着けたまま炎天下の中、水も飲ませずに訓練していたそうよ』
『その結果、半数は倒れて、数人死んだらしいわ』
『それぐらい、水をとるのは大事なのよ』
どっかの体育会系運動部みたいな話だ。
どこにでも根性論を振りかざすものがいるのだろう。
根性論は正しい知識を持たない指導者がやるとただの自己満足だと思う。
それから、プラータさんは水分補給の大切さを多くの実例を交えて説明してくれた。
ためになる話なのだが、ずっと正座をしているのでだんだん足が痺れてきた。
尻を少し上げ、体重で圧迫されていたふくらはぎを解放する。
目線が少し高くなると、寝ているはずのイリスと目が合った。
オレは目で助けてと合図を送る。
しかし、すぐに目線を逸らされる。
この野郎、無視しやがった!
懐いていた愛犬に噛みつかれた気分だ。
『ちゃんと聞いているんですか!』
『すいません、聞いてます』
まだ続くみたいだ、聞き流そうとするとなぜかばれるのでちゃんと聞かなければならない。
あとで小テストがあるみたいな気持ちで聞き続けた。
救いなのはつまらない話じゃないことだ。
プラータさんが説明してくれた水分補給の話はとても詳しく、専門的だった。
水をとらなければどうなるかだけではなく、水をとり過ぎた場合のことも知っていたのだ。
思い出してみれば、飲まされた水は少し味がついており、薄いスポーツドリンクのようだった。
おそらく、プラータさんはただの水よりも、塩などを入れたほうが吸収がいいことを知っていたのだ。
彼女の知識量では知っていてもおかしくないと思う。
プラータさんは本当に何者なのだろうか。
間違いなく一般人ではないな。
オレの推測では元冒険者か元軍人だと思う。
それも一流のだ。
医者という線も考えられたが、身のこなしが違う。
あくまで推論で確証はまったくないのだが。




