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出会い

 突然、響いた声に驚き、周囲を見回したが、誰もいない。

気のせいか?

再び、オレは思考に没頭しようとした。


『気のせいじゃないよ』

やはり、声が聞こえる。

しかし、どこにも気配がない。


『僕はここだよ』


 自分の体から何かが染み出るのを感じた。

その何かが黒い光になり、形を作る。

それは、恐竜のような頭部を持ち、その目はどこまでも赤く、全身が鈍く輝く黒い鱗にが包まれていた。

まるで、昔プレイした国民的RPGに出てくる、子供の竜のようだ。


思わず、身構えてしまう。


「大丈夫だよ、僕は敵じゃないよ」

 信用はできなかった。

しかし、情報を得るためには、この謎の生物の存在は貴重だ。

なんとか情報を引き出さなくては。

「お前は……何だ?」

「僕は……」



 それは、深く考え込んでるようだった。

「何だろう?」

気の抜けた回答に膝から崩れ落ちそうになった。

「ごめんね、僕はさっき生まれたばかりだから、よくわからないんだ」

生まれたばかり?



 まさか、オレの子供か!?

恐竜と交尾をしたことはないんだが、まあ人間ともないが。

そんな馬鹿なことが頭によぎった。

「強いて言えば、残り香かな」

「残り香?」

思わず、聞き返してしまった。



「そう残り香、君についたある存在のね」

「僕はある存在によって生まれた分体みたいなものなんだ」

 情報が多くて処理ができない。残り香かそんな存在と接触した覚えが……あったな。



 引きずり込まれた時に、誰かの匂いを感じた。

確認してみる。

返ってきたのは予想通り肯定だった。


ということは……



「お前が犯人かぁ!」

首根っこを両手で包み、激しく揺らした。

「苦しぃ!ちょっ!やめて!」



 抗議の声が上がる。

取り合えず、揺らすのはやめるが、首根っこは掴んだままだ。

「もう、零歳児を虐待しないでよ」

その物言いに、少しイラっとする。



「引きずり込んだ本体さんに変わって謝るよ」

「何で引きずり込んだ?」

 こいつの目を覗き込む。

「あれは誰かが世界に穴を開けたんだ、あの状態を維持するとあの世界は壊れてたんだよ」

「あの世界?」

「ここは君の世界じゃないよ」



 頭が真っ白になった。

手から力が抜け、幼竜を地面に落としてしまう。

「ふぎゃ!」

悲鳴があがるが、頭に入らなかった。

異世界?

家に帰れないのか?


「おーい」


父さんと母さんはどうしてる?


「おーーい」


姉弟たちは?


「おーーーい!」


 学校のみんなはどうなった?

頭に多くのことが駆け巡る。


「がぶっ!」


 左足に鋭い痛みが襲った。

噛みつかれたようだ。

思わず悲鳴を上げてしまう。



「何をする……」

涙声になりながら、抗議した。

「まだ話は終わってないのに無視するからだよ」

こいつはまったく悪びれずに答えた。



 こいつの言い分には納得できないが、おとなしく話の続きを聞くことにした。

「さっき、本体さんは君をこの世界に引きずり込んだって言ったよね」

「ちょっと待ってくれ、そもそも本体さんって何者なんだ?」

オレをこの世界に引き込んだ存在を知りたかった。


「管理者」

幼竜は短くそう答えた。


「世界っていうのは一つじゃないだ。幾つも世界がある。2つや3つどころじゃなく、無数にね。本体さんは、その無数にある世界を見守っているんだ。そして、今回の事件が起こった。この世界のだれかが君たちの世界に大穴を開けて、この世界に引きずり込んだんだ。危なかったんだよ、あと数秒穴が空いてたら、君たちの世界は壊れていたんだ。だから、君を本体さんが引きずり込んだんだ。ごめんね」


「誰だ、その穴を開けた犯人は?」


「わからない。一つだけわかることは、かなり強大な存在だよ。じゃないと、世界間をつなげることはおろか、穴を開けることすらできない」

 理解できない、自分の知識の範疇を大きく超えていた。

ただわかることは、オレ達だけじゃない、オレの大切な人たちを危険な目に合わせようとしたことだ。

その存在に対して怒りがこみあげてくる。



「元の世界に帰れないのか」

 これは一番大事なことだ。

オレはまだあの世界に未練がある。

「帰れるよ」

あまりの軽い物言いに肩の力が抜ける。

少し希望が出てきた。


「ただ、タイムリミットがある」

「この世界の状況が改善しなければ、本体さんはある決断を下す」

その声色は先ほどまでより真剣味が増していた。


「大体一年ぐらいかな。この世界を完全に破壊する。この世界の生物ごとね」

 背筋が凍りつく。

「この世界を放置するのは危険すぎるんだよ。いずれ君たちの世界だけじゃない、多くの世界が滅びる可能性がある。だからその前に壊す。これが管理者の仕事だからね」

 別にこの世界が滅んでも構わないと思う、ただ姉弟や学校のみんなまで死んでしまうのは嫌だった。



「そんなに重く考えなくてもいいよ。それまでに脱出なりなんなりすればいいんだし、それに評定は出来高だからいくらでも猶予はできるみたいだよ」  

 スポーツ選手か!

思わず、そんな突っ込みが思い浮かんだ。

少し心が軽くなった。

わざとだろうか、こいつの言葉に救われた気がした。



 多くのことが頭を巡る……

やめよう、今考え込んでも仕方ない。


「いくぞ」

「どこへ?」

「こんな場所じゃ落ち着いて考えられない。安全な場所を探す」

「それもそうだね」

 幼竜はオレの肩までゆっくり浮かび上がり、肩に乗った。

意外に軽い、五キロくらいだろうか。

「降りろよ」

「いや」

 即答だ。


 精神的疲労がひどい、抵抗する気力が湧かない、このままいくか。


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