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亀裂

 踏み込んだ右足から力が膝に伝わり、太ももを経由し、腰に伝わる。

左足からも同じように力が伝わり、二つの力は腰で合流した。

それがオレの胴体を流れていく、その過程で背筋の力を加わった。

ついに肩に到達した。

それを一気に解放する!

解放された力はオレの拳を強く弾き飛ばす。

わずかに弧を描いた拳は白の側頭部に命中した。


 拳から伝わる衝撃はオレの骨を揺らし、全身を突き抜けた。

味わったことのない感触だった。

さっきの形だけの模倣をしたときには感じなかった。

白は首がねじ曲がり、それでも逃がしきれない力は体をアクション映画のように横に一回転させた。


 成功した!

その感動に胸がいっぱいになりそうになる。

いけない、まだは続いているのだ。

それにオレは一発打つのに時間がかかりすぎている。

白は同じ技を連発できるのだ。

喜びを心の奥底にしまい、白を見据える。

白はすでに起き上がっていた。


様子がおかしい


 当たった場所を手で押さえている。

よく考えれば、命中した場所は先ほどオレが蹴りを加えた場所だ。

感じる威圧感が先ほどより強くなっている。

まだ、底があるのか!?


 白は顔を覆っていた手をゆっくりと離す。

のっぺらぼうだった白の顔には亀裂が走っていた。

そこから黒い霧のようなものがやかんから噴き出す蒸気のように噴き出している。

霧は白の周りに留まっていた。

 

きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!


 白が甲高い悲鳴を上げる。

思わず耳を塞いでしまった。

今まで感情を感じさせなかった白から、初めて感じた感情は恐怖だった。

悲鳴をまき散らしながら、白は天を仰いでいる。

隙だらけだが、攻撃して大丈夫なのだろうか。

あの霧に触れるのは危険じゃないのか。

『離れて!』

霧はオレのすぐそこまで来ていた。

慌てて離れようとしたが、少し遅かった。

霧がオレの体に触れた瞬間、オレの意識が遠のいていった。


 そこは暗い暗い闇の中だった。

光は一切なかったが、自分の体はなぜか見える。

「イリス?。」

呼びかけたが返答はない。

オレの中にもその気配はなかった。


 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い


 闇の中をただひたすら歩いた。

音になっていない言葉が響いている。

何が怖いんだろう?

ここはどこなのか?

出口はどこだろうか?


 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ


 頭の中がおかしくなりそうな場所だったが、なぜかオレは冷めていた。


 しばらく歩いたら、誰かが蹲っているのが見えた。

男性か女性なのかもわからない。

話しかけるべきのかな?

出口に当てがないし聞いてみるか。


「すいません」

 返事がない。

その人はすすり泣いていた。

声の正体なのだろうか。

「大丈夫ですか?」

返事はない。

だが、すすり泣く声は消えた。

その人は立ち上がり振り向いた。


白だ。


 身構えたが、なにもしてこなかった。

ただ、オレを見つめているだけだった。


忘れないで……

 

「忘れるわけがないよ。」

 オレは小さくそうつぶやいた。

そして、闇は晴れた。

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