恐怖との邂逅
食料庫から出た後、もう一度村の中をくまなく探したが一人も見つからなかった。
オレ達は村の中央で誰かが戻ってくるのを待つことにした。
家の中椅子を一脚、拝借し、そこに腰かける。
日が暮れるまでに誰かが戻ってきてくれればいいのだが。
やることがないので、オレは書庫から適当に数冊本を抜き出してきた。
もちろん読むことはできないが、文字の法則を見つけ出せないかと思い、調べている。
イリスは退屈なのか日差しを避けて、椅子の下に潜り込んで寝ていた。
最初のうちは手伝って、本を返しに行ってくれていたが飽きたのだろう。
特に困ることはないので放置している。
何冊か読んでいると法則がだんだん分かってきた。
文字の数は31個ある。
オレの知っているどの文字とも違う形をしていた。
それを複数使うことで単語を形成しているのだろう。
日本語より英語に近いのかもしれない。
文法はまだわからないが、一つの単語が文の最初に頻出している。
おそらくこれは、『私は』や『これは』などの主語なのだろう。
よく出る単語と31個の文字は生徒手帳のメモ欄に書き込んでいる。
言語チートって本当にうらやましいな。
昔の翻訳家って本当に偉大だったんだなと実感した。
書き込んだ単語が50を超えたが、一人ではそろそろ限界だろう。
この先は現地人がいないとどうにもならない。
太陽の位置がかなり移動していた。
日本だったらすでに小学生が帰宅している時間だろうな。
足元のイリスはまだ眠っている。
静かだ、虫の声一つ聞こえない。
そのおかげで集中できた。
椅子から立ち上がり、体を伸ばす。
立ち上がった時に椅子が当たったのだろう、イリスも起きてきた。
「むにゃむにゃ、おはよう」
目をこすりながら、イリスが挨拶をしてきた。
「ああ、おはよう」
もう村人は期待できないか。
今日はどこかの家のベッドを借りて、明日に備えよう。
「イリス、今日はあきらめて、どこかの家で寝よう」
「じゃあ、あの大きな家のベッドがいい!」
「ああ、オレもあそこがいい」
一番寝心地がよさそうだったのはあそこだった。
どうせなら一番いいところに泊まろう。
オレは椅子を元の場所に戻してきた。
イリスも待っていてくれたみたいだ。
「行こうか」
「うん!」
いい返事だ。
その時、村の中に流れていた空気が凍り付いた。
オレの背中の方に位置する村の入口になにかが迫ってきている。
村に何か脅威が近づいていることは容易に悟ることができた。
冷や汗が全身から噴き出している。
振り向きたくない、だが振り向かなければ対応できない。
意を決して、オレは後ろを振り向いた。
そこにいたのは圧倒的な恐怖だった。




