空
河原を歩くのは結構きつい。
石の上を歩かなければならないせいで、足の裏が痛む。
体力的にはまだまだ歩けるが、いつまで動けるかわからない。
イリスも先ほどから自分で歩いている。
浮くこともできるが、歩いたほうが速いらしい。
さきほどオレが軽く童謡を教えたから、イリスはそれを歌いながらオレの前を歩いている。
ところどころ音を外していたが、機嫌よさげにしていた。
ちなみに熊に出会うあの曲は教えていない。
熊はもううんざりだ。
「イツキも一緒に歌おう」
一人で歌うのは飽きたのかそんな提案をしてきた。
気晴らしになるか、オレは了承した。
小学生の頃に歌っていた童謡を一緒に歌う。
歌は苦手だ、音程は合っているらしいが、オレの歌は魂がこもっていないらしい。
機械が歌っていると称されたことがあるぐらいだ。
そんな下手くそな歌に、イリスは文句を言わずに合わせてくれる。
ていうか、イリスも音程を外しているからお互い様だな。
オレとイリスの上手いとは言えない歌はしばらく河原に響いていた。
一時間ほど歩き続けたが、特に何も起こらなかった。
しいていえば、歌える童謡のレパートリーが無くなったので、童謡から中学校の合唱曲に変わったことぐらいだ。
本来、男女でパート分けされている曲も男性パートしか知らないので同じパートを歌っている。
「ねえ、イツキ」
「どうした?」
イリスは歌を突然やめ、話しかけてきた。
「『空』って単語がよく出るけど、イツキの世界の人たちって空が好きなの?」
「さぁ?でも、確かに多いな」
「イツキはどうなの?」
「普通だな、好きでも嫌いでもないよ」
「そうなんだ、でも僕はこの曲は好きだな」
「ああ、オレも好きだよ」
そう言い、イリスは続きを歌い始めた。
確かに合唱曲はいい曲が多いと思う。
思い出補正がかかっているかもしれないが、最近の流行りの曲よりいい。
正直、恋とか青春の歌ばかりで辟易している。
どちらもまったく謳歌していないので、共感できないのだ。
あんな経験をしたやつなんて日本中探してもそんなにいないと思う。
「イツキもちゃんと歌ってよ」
「ああ、ごめんな」
先に進んでいるイリスが考え込んでいるオレに気付いて抗議してきた。
少し小走りして、追いつき、また一緒に歌い始める。
歌っていれば、誰かが気付いて近づいてこないかな。
だが、熊、お前はダメだ!




