呼び起されるもの
目を開けた。
まったく眠れん。
元々寝つきがいい方ではないのだが、今日は異常だ。
肉体も精神も疲れ切っている。
だけど、眠れないのだ。
再び、目を閉じた。
寝ようとするが、眠くならない。
眠くなれー、眠くなれー
頭の中で自らに暗示をかけるように呟いた。
どれだけ、繰り返しただろうか。
体感では三十分ほどだ。
しかし、効果が全く現れなかった。
もう、何も考えず、眠くなるのを待つことにした。
昼間はあんなにうるさかった虫の声も聞こえない。
その沈黙と夜の暗闇がオレに襲い掛かる。
人間の気配が感じないのはこんなにも怖いことなのか。
方針転換、何か考えよう、そうすれば眠くなる。
様々なことが頭を巡る。
家族のこと……
父さんと母さん、伯母さんは心配してないだろうか。
間違いなく心配してるだろう。
どうにか連絡は取れないだろうか。
姉弟たちはどうしてるだろう。
学校ごと落ちたからこの世界にいるはずだ。
心配だ……
関係が悪くても大事な姉弟だ。
学校のこと……
クラスメイトや先生たちは無事かな。
顔を知っている人が苦しんでいるのは、気分が悪い。
そして、今日のこと……
散々な日だった。
人生の嫌な出来事ベスト5に入るだろう。
異世界に落とされて、落とされた先が森の中。
出来れば、町の近くにしてほしかった。
幼竜との出会いは微妙だ、良いことなのか、悪いことなのか。
そして熊に追いかけられ……
背筋がゾクッとした。
熊に追いかけられ、殺されかけた恐怖が蘇ってきたのだ。
血走った目や鋭い爪、尖った牙、その全てが思い起こされる。
だが、オレは生きている。
死んだのは熊だ。
オレは殺したのだ、殺されていない。
殺した……
そうだ、オレは生き物を殺してしまったのだ。
今までなかったとは言わない。
日本で肉や魚を食べてきたし、虫も殺したことがある。
だが、殺し合いは初めてだった。
足から伝わった骨を砕き、命を奪った感触が想起される。
仕方ない、殺さなければオレが殺されていた。
生きるためだった。
そう納得しようとする。
だが、命を奪った罪悪感と奪われるかもしれなかった恐怖は高揚感が抜けた今、凶器となってオレの心に襲い掛かった。
右腕が小刻みに震える。
それを抑えようと、左手で押さえつける。
だが、連鎖するように左手も震えだす。
それが全身に伝わり、ついには体全体が震えだした。
もう抑えきれなかった、閉じた目から涙が零れそうになる。
「(怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い)」
もはや、限界だった。




