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平穏は遠い

 いつまでも、笑いあっている場合ではない。

熊を倒すことができたが、依然、森の中であることは変わりないのだ。


「とりあえず、もう一度川に戻ろう」

 体中から汗が噴き出ており、気持ち悪かった。

それに、のども乾いてる。

あれだけ走ったのだ、当然の結果だろう。



 立ち上がろうとして異変に気付いた。

右足に痛みが走ったのだ。

捻挫か、最悪、折れているのかもしれない。

やはり、怪我は免れなかったか。



 しかし、おかしな感覚がする

鋭い痛みがたしかにある。

だが、動かしても触っても痛みが強くならないのだ。

まるで、痛みという現象だけが起きているようだった。



「どうしたの?」

 幼竜は心配そうに聞いてきた。

「少し足が痛むんだ」

「ちょっと見せて」

 幼竜はオレの右足に近づいた。

右足をじっと見たり、触ったりして何かを確認しているようだ。

時折、ブツブツと何かを呟いている。

頷いたり、首を横に振ったり、まるで誰かと会話しているようだ。



「誰と会話しているんだ?」

頭の中の誰かとかだったら距離を置きたくなるな。

「本体さんと交信しているんだ」

そう言い、幼竜はまた交信に集中し始めた。


……やることがないな。

 暇だ。

空を見上げた。

異世界の空も青く、太陽が輝いていた。

ここまでなら、オレは自分の世界にいると勘違いしてしまいそうだ。

だが、後ろには熊の死体があり、目の前には地球上には伝説上の存在である竜がいるのだ。

 そして空気が違う。

説明はできないが、オレ達の世界とは決定的に何かが違っていた。

オレは元の世界に帰れるのだろうか。



 しばらく、辺りを警戒しながら、幼竜を待つ。

「わかったよ」

幼竜は結論が出したようだ、交信から戻ってきた。

「おそらく、【破壊】の反動だと思う」

「僕らにとっては【破壊】は自分の体の一部みたいなものだけど、君にとって異物だ」

「それが痛みという形で表れているんだ」

なるほど、納得だ。

あの時感じた力はそれだけ異質なものだった。



「どれぐらいで治る?」

「一日ぐらいで治ると思うよ」

「反動が大きいからあまり使わないように……」

「却下だ」

 そのあまりに早い返答に幼竜は驚いたようだ。

「どうして?」

 悩む必要はない。



 もし、この先同じような状態に陥ったときのために習熟度を上げていたほうがいい。

使い慣れていなかったら、この先より強い敵に遭遇したときに何もできないかもしれない。

そのことをオレは告げた。

「それに耐えきれないレベルの痛みじゃないさ」

実際はただの強がりだ、涙が出そうになるぐらい痛い。

それに足ではなく、腕だったら動きも阻害されないだろう。

「でも……」

「この話はこれが結論だ」

 オレは話を無理やり終わらせた。

言いたいことがありそうだったが、方針を変えるつもりはない。

それを察してくれたのか、それ以上言ってはこなかった。


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