ジュウシンソウ
振り下ろされた爪に対して、プラータさんは大きく横に跳ぶことにより回避した。
外れた爪は空を切るが、それだけでは収まらない。
その威力は土煙を上げながら地面を切り裂き、進路上にあった森の木を切り倒す。
それは空間まで切り裂いてしまいそうな迫力だった。
これが紅の技を再現しようとした技、そして史上最強の獣人と呼ばれた者の力か。
斬撃を飛ばすというアニメやゲームで見たような現象だ。
マジックみたいに仕掛けがあるのではなく、爪を振り下ろしただけでそれは起こった。
いつもなら感動していたかもしれないが、今回はまったく心が震えない。
白極や獣転拳の時は自分も身に付けたいと思ったが、それがなかった。
舞い上がった砂が目に入り、少し痛いが、オレは目を擦ることも瞬きをすることもしなかった。
視界が少しでも遮られるのが嫌だったからだ。
二人の闘いはまだ続いているのだ、片時も目を離したくない。
「まだじゃ。!」
プラータさんが跳んだ方向にオールさんはもう片方の手を振り下ろす。
普通なら届かないが、斬撃を飛ばすことができるこの技なら届く。
さっきは避けていたが、体力が尽きているプラータさんにそれができるのか?。
「プラータさん!」
イリスが叫んだが、オレは黙っていた。
視界に入ったプラータさんが薄い笑みを浮かべ、オレたちを守っているシルバーも落ち着いていたからだ。
その斬撃がプラータさんに到達する直前にオレは彼女の姿を完全に見失った。
瞬転駆だ。だがその速度は今までとは格が違う。
次にその姿を捉えることができた場所はオールさんの後方だった。
目も段々と慣れてきていたのだが、まったくその動きを見ることができなかった。
振り下ろしたオールさんの片腕から血が噴き出す。
プラータさんが攻撃をしたんだろうが、まったく分からなかった。
オールさんは傷ついた腕を手で押さえている。
予想外だったのか、オールさんの顔は驚きに染まっていた。
一方、先ほどまで肩で息をしていたプラータさんは涼しい顔をしている。
あれは演技だったみたいだ。
さすがプラータさんだ。
人によっては汚いと思われるかもしれないが、必要なことだ。
オレも見習わなくては。
オールさんは腕を押さえるのをやめた。
攻撃を受けた腕は上がらないみたいだ。
これで戦況はプラータさんの方に傾いたな。
このまま無事に終わればいいが。




