二つの覚悟
戦いを終えたオレをプラータさんが迎えてくれた。
プラータさんの見立てでもイリスは気絶してるだけだそうだ。
それでも早くベッドに寝かしてやりたい。
オレ達はシルバーに乗り、急いで村に戻った。
村に戻ったときには夕方になっており、村の建物は赤く染まっている。
イリスをベッドに寝かした後、今日の修業はこれで終わりなので明日に向けて休むように言われたのだが、寝床には戻らずに川に来ていた。
オレは手と膝を付き、川に向けて吐く。
胃の中が空っぽになるほど吐いたが、吐き気は収まらない。
人を殺した……
その罪悪感は熊を殺した時とは比べ物にもならない。
あの時は怒りに任して殺したが、その罪悪感が襲い掛かる。
血を綺麗に洗い流したはずの手が赤く染まっていた。
オレは水の中に手を突っ込み、洗おうとする。
だが、川も血のように赤く染まっていた。
「ああああああああああああああああ!」
気がおかしくなりそうだ。
地面に頭を打ち付けた。
「イツキ君、しっかりしなさい!」
地面にもう一度頭を打ち付けようとしたら、抱きしめるように動きを止められた。
プラータさんだ。
「手に血が…………」
「よく見なさい、血なんてどこにもないわ」
もう一度手を見るとたしかに赤く染まっているが、それは夕日によるものだ。
川の色も夕日によって染められていたみたいだ。
「落ち着いた?」
「はい」
プラータさんはオレを解放し、オレの隣に腰を下ろした。
今までで一番情けない姿を見せてしまったな。
「あの、イリスは大丈夫ですか?」
「イリスちゃんは大丈夫よ、明日には目を覚ますわ」
「良かった……」
それを聞いたら、話すことがなくなってしまった、しばらく無言の時間が続く。
「人を殺したのは始めてでしょう?」
プラータさんにオレの苦悩はお見通しみたいだ。
「はい、吐き気が止まりません」
「私も始めて人を殺したときは震えが止まらなかったわ」
「プラータさんもですか?」
「当たり前よ」
「私も同じように修業を受けたからね」
過去を回想しているのか、プラータさんは目を閉じている。
「攻撃……途中で止めちゃったね」
「見てたんですか。」
「あの洞窟には中の様子が確認できるように穴を空けてあるの」
さすがだ、準備に余念がない。
「あなたが途中で攻撃を止めたのは殺人の覚悟と不殺の覚悟がなかったからよ」
前者はわかる、だが不殺の覚悟とはなんだ。
「あなたはこの先、旅するうえで多くの人と出会うわ」
「旅する中で味方もできるでしょうが、敵と遭遇して殺しを避けられないときが来るわ」
「人を殺したら恨みを買う、それは避けられないことよ」
「でも、生かすことでも恨みは買うわ。それを頭に入れときなさい」
「逆恨みとかですか?」
「それだけじゃないわ」
それ以外になにがあるんだろうか?
「もしあなたが生かした敵がのちに虐殺をしたらどう?」
「それは…………」
言葉が出ない、そんなことになれば立ち直れる気がしない。
「遺族があなたが殺さなかったことを知れば、彼らにとってあなたは共犯者になるわ」
たしかにそうだと思う、自分がもし家族をそれで失えば恨まずには居れない。
「殺す、殺さないは大きな決断よ、だからこそ逃げずにその意味に向き合い選択しないといけない」
「洞窟の中であなたはどちらも選択できなかった」
「もし殺すことを覚悟していたなら拳を止めなかったでしょう、殺さないことを決めていたなら必殺の攻撃なんて使わなかった」
「二つの覚悟を持ち、どちらでも選択出来るようになりなさい」
その言葉はとてつもなく重かった。
オレにできるのだろうか。




