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居候の剣士と高校生のわたし  作者: 芳賀さこ
第二章 オバジーン編
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その4

 微妙な会話を交わし、ランチを済ませて再び市場へ向かう二人だが……。

「服を買いたいんだけど、いい店知ってる?」

「いや、知らんな」

「安い雑貨屋ある?」

「分からない」

「業務用の洗剤とか売ってる?」

「探せばあるんじゃないのか?」

「……」

「……」


 -案内になっていないのは、気のせい……?


 -俺は、この町で何年警らしているんだ……!?


 空を案内すると言っておきながら、何一つ役に立っていない自分が歯痒い。


 -こんなことなら、バディの話をちゃんと聞いておけばよかった。


 バディとは、二人一組で警らする相手を指す。最高位同志だとノーサ以外は全員目上の剣士だが、上級位以下だと同年代や若手が多い。

 そして、その大抵のバディはトレスの仏頂面に耐えきれず、終始沈黙かしゃべり続けるかどちらかである。

「あっ、ここの鳥の蒸し焼き、美味しいんですよ」

「そうなのか?」

「この間、カノジョにここの雑貨屋で髪飾り買ったんですけど、可愛いってすごく喜んでくれて」

「そうか」

 

 思い起こせば皆、貴重な情報を教えてくれていたと今になって気付く。

 勿論、トレスもただ漠然と警らしているわけではない。店の並びや地理はしっかりと頭に入っているが、値段や品揃えまでは把握していなかった。

 普段の生活は、城内に売りに来る業者に頼むか行きつけの店しか行かないのに対して、ノーサはまめに自分なりの店を開拓しているようで、折に触れて話してくれるがどうも記憶に残らない。

「俺の行きつけの店なら、案内できるが」

「まさか、武器関係じゃないよね?」

「……」

 当たりだったのか、珍しく藍色の前髪をぐしゃぐしゃに掻き乱した。

「役に立たなくてすまない」

「ううん。トレスと一緒にいられるだけで……」

「えっ?」

 どさくさに紛れてもう一回告白してみようとしたが、照れて口ごもってしまう。

「ああ!!」

 突然の大声に、二人は驚いて首を竦めた。

「ちょっとソラ、抜け駆けは許さないわよ!!」

 丁度市場へ使いに来ていたプレタが、怒りで小刻みに揺れる人差し指を空に向けていた。

「あ、あら、プレタ。偶然ね」

 あっという間に射程圏内に入ってきた少女に、まずいところを見られた空の目は泳ぎっ放しだ。

「何が『偶然ね』よ!! よりによってトレス様とデ、デ、デ……」

「デート?」

「そう、それよ。まさかあの約束を忘れた訳じゃないでしょうね?」

 約束というより、プレタが強引に空に誓わせたトレスに関するもので、二人きりで会わないだのアイコンタクトは三秒以内だのかなり偏った内容である。


 -完全に忘れてた。確か四項目まであった気がするけど、正直覚えてない。


 二人がこそこそと話している様子を、トレスが怪訝な顔で見ている。

「プレタなら店に詳しいだろうから、案内を頼むといい」

「「それじゃ意味ないの!!」」

 目を剥いていきり立つ空とプレタに、さすがのトレスもたじろいだ。

「トレス様も一緒に行きましょう?」

「あ、ああ」

さりげなくトレスの手を握るプレタに、空は唖然とした。


 -ええッ!? それはいいの!?


 女の約束は儚いものだと思い知らされた。


「あそこにいるのはトレス様じゃないですか?」

「あ、ほんとだ。珍しく両手に花だね」

 二人の少女を両脇に従えて店を右往左往する親友に、失笑する人物は警ら中のノーサである。


 -まあ公休だから、何やってもいいんだけどね。


 以前の彼からは想像できない光景に、つい頬が緩んだ。

 踵を返すノーサにバディの剣士が声を掛けないのかと尋ねたので、首を縦に振った。

「せっかくの休みを邪魔しては彼女達にも悪いし、ここは大人しく退散しよう」

 それから、と言葉を続ける。

「このことは他言無用で願いたい。あいつのイメージもあるから」

 あの仏頂面で美少女を引き連れていたとなれば、噂が尾びれ背びれが付いて独り歩きする。

 それこそ、女王マリーナの耳にでも入ったらあの可憐な顔が悲しみに沈むに違いない。

 この剣士が皆に言わなくとも、いずれは空の存在が明らかになるだろうが、それまでの時間稼ぎくらいにはなるかも知れない。


 -これで、当の本人は涼しい顔だからたまらないよ。


 同性にも異性にも深い感情を抱かせる藍色の髪の友人を恨めしく目で追いながら、ノーサは三人から静かに離れて行った。


 ノーサ達に目撃されていたとは露知らず、洋服屋ではしゃぐ女の子二人にトレスはいささかうんざりしていた。

「これ、可愛い!!」

「こっちも今流行ってるのよ」

 次々と体に服を当てては褒め合う風景は、何処の世界も同じである。

「ねえ、これなんかどう?」

「いいんじゃないのか」

「トレス様、これ似合いますか?」

「ああ」

 代わる代わる感想を求められて曖昧に返事していると、やがて頬を膨らませた二人の顔が至近距離にあったので身をのけ反った。

「真剣に考えてないでしょ!!」

「どうせ俺が言っても、お前達は聞いちゃいないだろうが」

 ごもっとも、と空が頷くとプレタは茶色の瞳を潤ませて反論する。

「だってトレス様いつもそんな調子じゃないですか!! 去年の収穫祭の時も……」

「収穫祭?」

 空が尋ねた。

「実りある一年になるようにって、願いを込めて祭りが開かれるのよ。そこで老若男女おめかししてダンスを踊ったりするの」

「へえ」

「その時も精一杯お洒落したのに、トレス様ったらちっとも気付いてくれなくて」

「それはトレスが悪いよ」

「俺!?」

 空とプラダの同盟に、旗色が悪いトレスは憮然とした。こうなったら口下手な彼には不利だ。


 -まあ、乙女心をトレスに求める方が、どうかと思うけどね。


 自分は最近トレスに恋したが、プレタは片想い歴が長そうなので気の毒に思える。

「その収穫祭っていつあるの?」

「あと二カ月したらあるわよ。その時は一緒に回ろうね」

「ありがとう」

 だが、この言葉には裏があって、トレスと空を一緒に過ごさせない作戦とはお人好しの空が察知する由もない。

 

 買い物を堪能した空とトレスは、プレタと別れて城への帰路に着いた。

 町の外れに繋いでいた馬に、空はトレスの前に乗る。

「今日は有り難う」

「それにしても買い込んだな」

 彼女の胸には大きな買い物袋が置かれていた。

「また忙しくなると当分は行けないから」

 何を考えているのかトレスが黙ってしまったので、少しだけ後ろを振り向く。

「トレス?」

「なあ、空」

「なに?」

「今の生活に満足か?」

「うん」

 即答だった。

「だって、トレスと一緒だもん」

「いつも傍にいられないのにか?」

「距離の問題じゃないよ。私の心の中には、いつもトレスがいるから」


 -きゃー!! 言っちゃった!!


 言ったはいいが引っ込みがつかなくなって、真っ赤な顔の空が俯いているとふっとトレスの体温を感じて、すぐに耳元で囁く低い声がした。

「……」

「えっ? なに?」

 風が吹き木々が揺れる音と混じったトレスの台詞がよく聞き取れなかった空が、もう一度言うよう促したが二度は言ってくれなかった。

 

 -何て言ったのかな……。ああ、私のバカバカバカ!! 肝心なのを聞き逃すなんて!! でも、あの雰囲気から少しは期待していいのかな。


 しつこく聞いても、トレスの性格ではもう言ってはくれないだろう。

 またもや告白の答えを知り損なった空は、悶々とした気持ちで馬に揺られるのだった。

 






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