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放課後。
正美はスーパーの袋を片手に歩いていた。
今日は新作のチョコを見つけた。
「期間限定かぁ。」
鈴木が喜ぶだろうか。
そんなことを考えながら、人気のない裏道を歩いていると。
「……?」
何か聞こえた。
押し殺した悲鳴。
何かが地面を擦る音。
正美は恐る恐る角を曲がる。
そこには。
黒い霧のようなものをまとった鈴木が立っていた。
その足元には、一人の男子生徒。
山口だった。
もう動かない。
そして、その周囲には血が広がり、惨たらしい有様になっていた。
正美の顔から血の気が引く。
「あ……。」
鈴木が振り返る。
「あ、斎藤さん?」
「っうぇ……。」
正美は思わず一歩下がった。
「怖い……。」
その声は震えていた。
鈴木は表情を曇らせる。
「……そう、そうよね。」
まとっていた黒いオーラが少し揺らぐ。
「ごめんなさい。」
正美は慌てて首を振った。
「いや、あのね?」
深呼吸する。
「否定しないよ?」
「……。」
「止めないよ?」
「……。」
「でもね。」
もう一度死体を見る。
すぐに目を逸らした。
「でもね。」
「うん。」
「ホラーとグロは苦手なんだよ〜……。」
半泣きだった。
「映画もダメ。」
「お化け屋敷もダメ。」
「スプラッターもダメ。」
「ゲームならギリ。」
「現実はダメぇ……。」
鈴木は思わず苦笑する。
「そっちなのね。」
「そっちだよぉ……。」
正美は目を閉じて数秒。
落ち着きを取り戻そうとする。
それから恐る恐る尋ねた。
「……その人。」
「うん。」
「死んでる?」
「ええ。」
鈴木は静かに答えた。
「もう。」
「……おけ。」
正美はスマホを取り出した。
「警察だけ呼ぶね。」
「え?」
「第一発見者になったからね。」
番号を押す。
「義理は果たすよ。」
鈴木は黙ってその様子を見ていた。
通報を終えた正美は、小さく息を吐く。
「これで。」
「うん。」
「腐る前に。」
少しだけ声が沈む。
「お葬式には出てもらわなくちゃ。」
鈴木は何も言わなかった。
正美は静かに続ける。
「殺されても仕方ないって思っちゃうけど。」
「……。」
「死んだらお葬式をやって。」
「お墓に入る。」
「日本人として。」
少し照れ臭そうに笑う。
「そこは譲りたくないかな。」
「ゴメンね。」
鈴木は山口の亡骸を見る。
つい数日前まで、自分を笑っていた相手。
憎かった。
許せなかった。
だから殺した。
それでも。
「……いいわよ。」
小さく呟く。
「別に。」
「嫌だけど。」
黒いオーラが揺れる。
「嫌だと思ってしまう自分が嫌だけれど。」
少し目を伏せる。
「コイツも、日本人だものね。」
その言葉に、正美は微笑んだ。
「ありがと。」
「優しいね。」
鈴木は首を横に振る。
「優しくなんかない。」
「私は復讐してるだけ。」
「それでも。」
正美は穏やかに言う。
「今、『どうでもいい』とは言わなかった。」
「……。」
「そこ、大事だと思う。」
鈴木は返事ができない。
やがて遠くからサイレンの音が聞こえ始める。
「私はもう行く。」
鈴木は姿を薄くしていく。
「うん。」
「またお墓で。」
「うん。」
「チョコ持ってく。」
鈴木は少し笑った。
「楽しみにしてる。」
その姿は夕暮れの中へ溶けて消えた。
一人残った正美は、目を閉じてから亡骸に向かって静かに手を合わせる。
「……安らかに、とは言えないけど。」
ぽつりと呟く。
「せめて、ちゃんと送ってもらってね。」
やがて到着した警察官に事情を説明するため、正美は深呼吸を一つして振り返った。彼女にできることは多くない。それでも、生きている者として果たすべきことだけは、最後までやろうと心に決めていた。




