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パトカーの赤色灯が、静かな住宅街を赤く照らしていた。
規制線が張られ、警察官や鑑識が慌ただしく現場を動き回る。
正美は少し離れた場所で、毛布を肩に掛けてもらいながら事情を聞かれていた。
「落ち着いてお話しできますか?」
「はい。」
正美は小さく頷く。
「では。」
年配の刑事が手帳を開いた。
「亡くなっている方をご存知ですか?」
「はい。」
正美は遺体の方を見ないようにしながら答える。
「この人、私のクラスメイトです。」
「お名前は。」
「山口……。」
一瞬止まる。
「山口くんです。」
「ありがとうございます。」
刑事はメモを取る。
「高校はどちらですか?」
「えっと。」
正美は学校名を口にする。
「ご存知ですか? 翠膳高校の3年A組です。」
刑事ともう一人の若い警察官が顔を見合わせた。
「ああ……。」
刑事は小さく息を吐く。
「あそこか……。」
「?」
正美は首を傾げる。
「これでクラス以外も合わせると二十一人目ですからね。」
「ニュースにもなっていますし。」
「もうそんな人数に。」
正美は素直に驚いた。
(仕事がはやいな、鈴木さん。)
もちろん口には出さない。
心の中だけだ。
刑事は疲れたような表情を浮かべる。
「こちらとしても、関連性は調べています。」
「はい。」
「ただ……。」
言葉を選ぶように続ける。
「確か、最初に亡くなったのは鈴木という生徒でしたね。」
「はい。」
「いじめを受けていたという報道もありました。」
正美は少し考えてから答えた。
「この人も。」
遺体のある方向へ軽く視線を向ける。
「鈴木さんをイジメていたらしいです。」
刑事の手が止まる。
「……らしい、と言いますと?」
「本人の口から聞いたことがあります。」
「本人?」
「はい。」
「いつ頃でしょう。」
「2週間ほど前です。」
「鈴木さんが亡くなったあと。」
「教室で。」
正美は記憶をたどる。
「クラスのみんなが責任の押し付け合いをしていて。」
「『虫を食べさせたのはお前だ』とか。」
「『水をかけて笑ってたじゃないか』とか。」
「そういう話をしていました。」
刑事は真剣な表情で書き留める。
「なるほど。」
「録音などは。」
「ありません。」
「そうですか。」
「でも。」
正美は続けた。
「教室にいた人なら、みんな聞いてると思います。」
「証言してくれるかは分かりませんけど。」
「……。」
刑事は小さく頷く。
「ありがとうございます。」
少し間を置いてから尋ねる。
「あなたご自身は、そのいじめをご存知でしたか?」
「いいえ。」
正美はきっぱり答えた。
「知りませんでした。」
「全く?」
「全くです。」
「私はクラスで一人でいることが多かったので。」
「気付けませんでした。」
少し申し訳なさそうに目を伏せる。
「それは今でも後悔しています。」
刑事はその表情を見て、静かに言う。
「正直にお話しいただき、ありがとうございます。」
「いえ。」
「ところで。」
若い警察官が資料を見ながら首を傾げる。
「斎藤さん。」
「はい?」
「クラスメイトのお話は詳しいのに、ご自身のことは学校から提出された資料にもほとんど書かれていませんね。」
「そうなんですか?」
「部活動なし。」
「委員会も途中で辞退。」
「交友関係も特記事項なし。」
「先生の所見も『おとなしい生徒』程度で。」
「……。」
正美は少し考えて、
「影が薄いので。」
と答えた。
若い警察官は思わず吹き出しそうになるが、慌てて咳払いをした。
刑事は苦笑しながら手帳を閉じる。
「なるほど。」
「少なくとも今日は、ご協力ありがとうございました。」
「またお願いすることがあるかもしれません。」
「はい。」
正美は一礼した。
帰り道。
夜風が少し冷たい。
誰もいない道を歩いていると、不意に隣から声がした。
「……ちゃんと話したのね。」
鈴木だった。
姿は薄いが、いつものように穏やかな表情をしている。
正美は小さく笑う。
「聞かれたことに答えただけ。」
「嘘はついてない。」
「そうね。」
鈴木も静かに頷く。
「ありがとう。」
その「ありがとう」は、供え物への礼とも、復讐への賛同とも違う。
自分が受けたことを、見聞きした事実として隠さず伝えてくれたことへの、静かな感謝だった。




