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放課後。

正美はいつものように帰り支度を済ませると、校門を出た。

スーパーでチョコを一箱買う。

「今日は甘いやつ。」

レジ袋を揺らしながら歩く。

目的地は○○霊園。

すっかり日課になっていた。

墓前に花を供え、チョコの包装を開けて置く。

線香に火をつける。

「こんにちは。」

その一言で、空気がふわりと揺れた。

「いらっしゃい。」

鈴木が姿を現す。

以前より顔色は少し柔らかく見える。

「今日はミルクチョコ。」

「覚えててくれたのね。」

「もちろん。」

正美は胸を張る。

「名前も覚えてる。」

「そこはもういいわ。」

鈴木は苦笑した。

二人で墓石の前に座る。

しばらく他愛もない話をしていたが、鈴木がふと思い出したように口を開く。

「斎藤さんって結構言うのね。」

「へ?」

正美はきょとんとする。

「今日の教室のアレよ。」

「あ。」

正美は目を丸くした。

「あのときいたんだ。」

「ええ。」

鈴木は当たり前のように頷く。

「教室にはよくいるもの。」

「そっか。」

「皆の様子を見てる。」

少し寂しそうに笑う。

「だから、あなたが山口くんに言ってたことも全部聞いてた。」

正美は頭をかいた。

「いやぁ。」

「勢いで言っちゃった。」

「勢いで『せめて詫びてから死になよ』は結構重いわよ。」

「そう?」

「そう。」

正美は首を傾げる。

「でも本心だよ。」

「うん。」

「謝るのって相手のためだけじゃなくて、自分のためでもあると思うし。」

「……。」

「どうせ後悔するなら、謝ってから後悔した方がいいじゃん。」

鈴木は静かに聞いていた。

「斎藤さん。」

「なに?」

「普段はぼーっとしてるのに。」

「失礼だなぁ。」

「たまに妙に核心を突くわよね。」

「えぇ?」

正美は本気で自覚がない顔をする。

「そうかな。」

「そうよ。」

鈴木は笑った。

「教室じゃ誰も言えなかった。」

「ああいうこと。」

「だって。」

正美は少し考える。

「みんな自分が助かりたいから必死だったじゃん。」

「ええ。」

「だから『謝ったの?』って聞く人がいなかった。」

「そうね。」

「私は助かる側だったから。」

さらっと言う。

「だから言えた。」

鈴木は少し目を見開いた。

「……その発想なの。」

「うん。」

「私、当事者じゃないし。」

「だからこそ言えることもあるかなって。」

風が墓地を吹き抜ける。

線香の煙がゆっくりと流れていく。

「でも。」

鈴木は少し笑う。

「嬉しかった。」

「え?」

「私の代わりに怒ってくれたみたいで。」

正美は首を横に振る。

「違うよ。」

「違う?」

「私が怒った。」

「鈴木さんの代わりじゃない。」

「私があの話を聞いて、腹が立った。」

「だから言っただけ。」

その言葉に、鈴木はしばらく黙る。

やがて、小さく笑った。

「……そっか。」

生前は誰も、自分のために怒ってはくれなかった。

先生も。

クラスメイトも。

見て見ぬふりだった。

でも今、目の前の少し変わったぼっちの少女は、義務感でも同情でもなく、自分自身の価値観として「あれはおかしい」と言ってくれている。

その事実が、鈴木には少しだけ救いだった。

正美はそんな鈴木の心情には気付かず、墓石を見ながらぽつりと言う。

「それよりさ。」

「なに?」

「山口くんって名前、ちゃんと覚えた。」

「……今日だけじゃないでしょうね?」

「たぶん三日は保つ。」

「短い!」

墓地に、鈴木の笑い声が静かに響いた。

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