7
放課後。
正美はいつものように帰り支度を済ませると、校門を出た。
スーパーでチョコを一箱買う。
「今日は甘いやつ。」
レジ袋を揺らしながら歩く。
目的地は○○霊園。
すっかり日課になっていた。
墓前に花を供え、チョコの包装を開けて置く。
線香に火をつける。
「こんにちは。」
その一言で、空気がふわりと揺れた。
「いらっしゃい。」
鈴木が姿を現す。
以前より顔色は少し柔らかく見える。
「今日はミルクチョコ。」
「覚えててくれたのね。」
「もちろん。」
正美は胸を張る。
「名前も覚えてる。」
「そこはもういいわ。」
鈴木は苦笑した。
二人で墓石の前に座る。
しばらく他愛もない話をしていたが、鈴木がふと思い出したように口を開く。
「斎藤さんって結構言うのね。」
「へ?」
正美はきょとんとする。
「今日の教室のアレよ。」
「あ。」
正美は目を丸くした。
「あのときいたんだ。」
「ええ。」
鈴木は当たり前のように頷く。
「教室にはよくいるもの。」
「そっか。」
「皆の様子を見てる。」
少し寂しそうに笑う。
「だから、あなたが山口くんに言ってたことも全部聞いてた。」
正美は頭をかいた。
「いやぁ。」
「勢いで言っちゃった。」
「勢いで『せめて詫びてから死になよ』は結構重いわよ。」
「そう?」
「そう。」
正美は首を傾げる。
「でも本心だよ。」
「うん。」
「謝るのって相手のためだけじゃなくて、自分のためでもあると思うし。」
「……。」
「どうせ後悔するなら、謝ってから後悔した方がいいじゃん。」
鈴木は静かに聞いていた。
「斎藤さん。」
「なに?」
「普段はぼーっとしてるのに。」
「失礼だなぁ。」
「たまに妙に核心を突くわよね。」
「えぇ?」
正美は本気で自覚がない顔をする。
「そうかな。」
「そうよ。」
鈴木は笑った。
「教室じゃ誰も言えなかった。」
「ああいうこと。」
「だって。」
正美は少し考える。
「みんな自分が助かりたいから必死だったじゃん。」
「ええ。」
「だから『謝ったの?』って聞く人がいなかった。」
「そうね。」
「私は助かる側だったから。」
さらっと言う。
「だから言えた。」
鈴木は少し目を見開いた。
「……その発想なの。」
「うん。」
「私、当事者じゃないし。」
「だからこそ言えることもあるかなって。」
風が墓地を吹き抜ける。
線香の煙がゆっくりと流れていく。
「でも。」
鈴木は少し笑う。
「嬉しかった。」
「え?」
「私の代わりに怒ってくれたみたいで。」
正美は首を横に振る。
「違うよ。」
「違う?」
「私が怒った。」
「鈴木さんの代わりじゃない。」
「私があの話を聞いて、腹が立った。」
「だから言っただけ。」
その言葉に、鈴木はしばらく黙る。
やがて、小さく笑った。
「……そっか。」
生前は誰も、自分のために怒ってはくれなかった。
先生も。
クラスメイトも。
見て見ぬふりだった。
でも今、目の前の少し変わったぼっちの少女は、義務感でも同情でもなく、自分自身の価値観として「あれはおかしい」と言ってくれている。
その事実が、鈴木には少しだけ救いだった。
正美はそんな鈴木の心情には気付かず、墓石を見ながらぽつりと言う。
「それよりさ。」
「なに?」
「山口くんって名前、ちゃんと覚えた。」
「……今日だけじゃないでしょうね?」
「たぶん三日は保つ。」
「短い!」
墓地に、鈴木の笑い声が静かに響いた。




