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6

教室の空席は、一つ、また一つと増えていった。

昨日までそこにいた机。

名前の書かれたロッカー。

もう使われることはない。

朝のホームルーム。

担任の顔は土気色だった。

「……本日も、欠席者がいます。」

「……。」

誰も「どうしてですか」とは聞かない。

理由は全員知っている。

教室は静まり返り、誰もが俯いていた。

(ペースはやぁ。)

窓際の席で、正美だけがそんなことを考えていた。

もちろん亡くなること自体を軽く見ているわけではない。

ただ、あまりにも短期間で続く出来事に、純粋な驚きが勝っていた。

(昨日も今日も……。)

(すごいなぁ。)

その時。

ガタン!

誰かが勢いよく立ち上がる。

「なぁ!」

教室中の視線が集まる。

「なんでお前は飄々としてるんだよ、斎藤!」

突然名前を呼ばれた正美は、本から顔を上げた。

「え、私?」

相手の顔を見る。

「えーと、えっと……。」

数秒考える。

「……山田くん?」

「山口だよ!」

机を叩いて叫ぶ。

「嘘だろ! 新しいクラスになって半年は経ったぞ!」

「あ。」

正美は申し訳なさそうに頭を下げた。

「それはホントにゴメン。」

「……。」

「で、何?」

あまりにも自然に話を戻され、山口は一瞬勢いを失う。

「いや、その……。」

「なんでそんな普通なんだよ!」

「普通?」

「みんな死んでるんだぞ!」

「うん。」

正美は頷く。

「怖いよ。」

「ならなんで!」

「えーと。」

正美は少し考えてから答えた。

「だって。」

「私、イジメてないし。」

教室が静まる。

「見て見ぬふりもしてないし。」

「……。」

「ボッチだから気づかなかったの。」

誰も反論できない。

事実だった。

彼女は本当に一人だった。

昼休みも。

放課後も。

誰とも関わらない。

だから、あのいじめの輪の外にいた。

「さすがに。」

正美は少し表情を曇らせる。

「気付けなかったのは悪いと思ってる。」

「……。」

「だから、お供えには行ってるけどね。」

その言葉に教室がざわつく。

「お供え……?」

「うん。」

「花とか線香とか。」

正美は山口を見る。

「ねぇ。」

「君は行ったの?」

「お、おれは……。」

言葉に詰まる。

「少しでも謝ったの?」

「それは……。」

視線が泳ぐ。

正美は責めるような口調ではなかった。

ただ、純粋に尋ねているだけだった。

だからこそ、その問いから逃げられない。

「ま。」

正美は肩をすくめる。

「無駄だと思うよ〜。」

「なっ……。」

「君、イジメてたんでしょう?」

「……。」

「聞いたよ。」

「君の口から。」

山口の顔から血の気が引く。

「この前。」

「教室でペラペラ喋ってたもんね。」

『虫食わせたのはお前だろ!』

『水ぶっかけたじゃねぇか!』

『先生だって見てた!』

あの責任の押し付け合い。

全部、自分たちで口にしていた。

「せめて。」

正美は静かに言う。

「詫びてから死になよ。」

教室中が凍りつく。

「お、お前!」

「そんなこと言うなよ!」

誰かが叫ぶ。

正美はその声の方を見た。

「でも。」

「謝らないまま終わるよりは、謝った方がいいと思う。」

「許してもらえるかどうかは、相手が決めることだから。」

静かな声だった。

「みんな。」

正美は教室を見渡す。

青ざめた顔。

震える手。

目を合わせない生徒たち。

「鈴木さんが殺してると思うよ〜。」

「違う!」

誰かが叫ぶ。

「事故かもしれない!」

「呪いなんてあるわけ……。」

声は最後まで続かなかった。

誰も本気ではそう思っていない。

「現実逃避してる人、たくさんいるけど。」

正美は淡々と続ける。

「認めたくない気持ちは分かる。」

「でも。」

「現実から目を背けても、起きたことは変わらない。」

教室には重い沈黙が落ちる。

「だから。」

正美は小さく息をついた。

「恐怖に震えるのは当然だと思う。」

「自分たちがやったことを思い返して、絶望するのも。」

その言葉は、相手を挑発するためではなく、突き放した事実の確認だった。

「もし、本当に償いたいと思うなら。」

正美は最後にそう付け加えた。

「誰かに言われる前に、自分がしたことと向き合うしかないんじゃない?」

山口は何も答えられなかった。

教室の誰一人として、答えられなかった。

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