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教室の空席は、一つ、また一つと増えていった。
昨日までそこにいた机。
名前の書かれたロッカー。
もう使われることはない。
朝のホームルーム。
担任の顔は土気色だった。
「……本日も、欠席者がいます。」
「……。」
誰も「どうしてですか」とは聞かない。
理由は全員知っている。
教室は静まり返り、誰もが俯いていた。
(ペースはやぁ。)
窓際の席で、正美だけがそんなことを考えていた。
もちろん亡くなること自体を軽く見ているわけではない。
ただ、あまりにも短期間で続く出来事に、純粋な驚きが勝っていた。
(昨日も今日も……。)
(すごいなぁ。)
その時。
ガタン!
誰かが勢いよく立ち上がる。
「なぁ!」
教室中の視線が集まる。
「なんでお前は飄々としてるんだよ、斎藤!」
突然名前を呼ばれた正美は、本から顔を上げた。
「え、私?」
相手の顔を見る。
「えーと、えっと……。」
数秒考える。
「……山田くん?」
「山口だよ!」
机を叩いて叫ぶ。
「嘘だろ! 新しいクラスになって半年は経ったぞ!」
「あ。」
正美は申し訳なさそうに頭を下げた。
「それはホントにゴメン。」
「……。」
「で、何?」
あまりにも自然に話を戻され、山口は一瞬勢いを失う。
「いや、その……。」
「なんでそんな普通なんだよ!」
「普通?」
「みんな死んでるんだぞ!」
「うん。」
正美は頷く。
「怖いよ。」
「ならなんで!」
「えーと。」
正美は少し考えてから答えた。
「だって。」
「私、イジメてないし。」
教室が静まる。
「見て見ぬふりもしてないし。」
「……。」
「ボッチだから気づかなかったの。」
誰も反論できない。
事実だった。
彼女は本当に一人だった。
昼休みも。
放課後も。
誰とも関わらない。
だから、あのいじめの輪の外にいた。
「さすがに。」
正美は少し表情を曇らせる。
「気付けなかったのは悪いと思ってる。」
「……。」
「だから、お供えには行ってるけどね。」
その言葉に教室がざわつく。
「お供え……?」
「うん。」
「花とか線香とか。」
正美は山口を見る。
「ねぇ。」
「君は行ったの?」
「お、おれは……。」
言葉に詰まる。
「少しでも謝ったの?」
「それは……。」
視線が泳ぐ。
正美は責めるような口調ではなかった。
ただ、純粋に尋ねているだけだった。
だからこそ、その問いから逃げられない。
「ま。」
正美は肩をすくめる。
「無駄だと思うよ〜。」
「なっ……。」
「君、イジメてたんでしょう?」
「……。」
「聞いたよ。」
「君の口から。」
山口の顔から血の気が引く。
「この前。」
「教室でペラペラ喋ってたもんね。」
『虫食わせたのはお前だろ!』
『水ぶっかけたじゃねぇか!』
『先生だって見てた!』
あの責任の押し付け合い。
全部、自分たちで口にしていた。
「せめて。」
正美は静かに言う。
「詫びてから死になよ。」
教室中が凍りつく。
「お、お前!」
「そんなこと言うなよ!」
誰かが叫ぶ。
正美はその声の方を見た。
「でも。」
「謝らないまま終わるよりは、謝った方がいいと思う。」
「許してもらえるかどうかは、相手が決めることだから。」
静かな声だった。
「みんな。」
正美は教室を見渡す。
青ざめた顔。
震える手。
目を合わせない生徒たち。
「鈴木さんが殺してると思うよ〜。」
「違う!」
誰かが叫ぶ。
「事故かもしれない!」
「呪いなんてあるわけ……。」
声は最後まで続かなかった。
誰も本気ではそう思っていない。
「現実逃避してる人、たくさんいるけど。」
正美は淡々と続ける。
「認めたくない気持ちは分かる。」
「でも。」
「現実から目を背けても、起きたことは変わらない。」
教室には重い沈黙が落ちる。
「だから。」
正美は小さく息をついた。
「恐怖に震えるのは当然だと思う。」
「自分たちがやったことを思い返して、絶望するのも。」
その言葉は、相手を挑発するためではなく、突き放した事実の確認だった。
「もし、本当に償いたいと思うなら。」
正美は最後にそう付け加えた。
「誰かに言われる前に、自分がしたことと向き合うしかないんじゃない?」
山口は何も答えられなかった。
教室の誰一人として、答えられなかった。




