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鈴木はフェンスにもたれ、夕焼けに染まる街をぼんやり眺めていた。
風が髪を揺らす。
少しして、不思議そうな顔で正美を見る。
「斎藤さんって。」
「ん?」
「私がみんなを殺してることについては何も言わないのね。」
正美は少し考えてから、
「えー、だってさぁ。」
と、あっさり答えた。
「私を殺してないじゃん?」
「ええ。」
「さっきも言ってたけど、本当にイジメに関係があった人しか復讐しないんでしょう?」
「そう。」
「イジメてた人とか、見て見ぬふりしてた子とか。」
「当然じゃない。」
鈴木は即答した。
「私は、自分に関係ない人まで巻き込むつもりはない。」
「じゃあいいよ。」
正美は肩をすくめる。
「徹底的にやりな。」
「えぇ……。」
鈴木は思わず間の抜けた声を出した。
「困るんだけど、その反応。」
「なんで?」
「止めないの?」
「止めても聞かないでしょ。」
「……。」
「だったら意味ないし。」
正美は実に現実的だった。
「それにさ。」
指を一本立てる。
「物語とかで復讐者って結構いるじゃん?」
「いるわね。」
「だから昔、暇なときに復讐について自分なりに考えたことがあるんだ。」
「へぇ。」
鈴木は少し興味を示す。
「それで?」
「色々考えた結果。」
正美は真面目な顔になる。
「逆恨みとか。」
一本指を折る。
「無関係な人。」
もう一本。
「復讐したい人の家族とか友達まで巻き込む。」
さらに一本。
「そういうのは嫌なんだよね。」
鈴木は静かに頷く。
「でも。」
正美は続ける。
「そこを越えないなら、あとは当事者同士の問題かなって結論になった。」
「……。」
「だから、どんどんやれって結果になりました。」
「そんな結論になる人、初めて見た。」
鈴木は苦笑した。
「もちろん法律とか社会としては駄目なんだろうけど。」
正美は付け加える。
「私個人の感情としては、って話ね。」
「感情。」
「うん。」
少しだけ目を伏せる。
「あと理由が真っ当。」
「理由?」
「イジメの内容。」
正美はため息をついた。
「本人たちが教室で責任押し付け合ってるの聞いてたんだけど。」
「……。」
「あれ、酷かったねぇ。」
虫を食べさせた。
水をかけた。
持ち物を壊した。
笑った。
見て見ぬふりをした。
相談を流した。
「私でも、『こんなのはひどい』って思ったよ。」
鈴木は何も言わない。
「成仏できないのも納得だよね。」
その言葉に、鈴木の肩が小さく震えた。
「……納得、か。」
「うん。」
「そんなふうに言われたの初めて。」
「そう?」
「みんな『かわいそう』とか『許して』とか。」
「でも誰も『あれは酷かった』とは言わなかった。」
正美は少し考え込む。
「だって酷いじゃん。」
その一言は、とても単純だった。
飾り気もない。
「私人類好きだけど。」
正美は空を見上げる。
「クズは嫌いだから。」
「人類好きなの?」
「結構好き。」
「なのに一人?」
「人類は好き。」
「人付き合いは苦手。」
「矛盾してる。」
「してないよ。」
正美は笑う。
「動物園に行って動物見るの好きだけど、一緒に檻に入りたいわけじゃないじゃん?」
「その例え、人類に失礼じゃない?」
「愛情はあるよ。」
「でも適切な距離も大事。」
鈴木は思わず笑ってしまった。
「ふふっ。」
「斎藤さんって、本当に変。」
「よく言われる。」
「でも。」
鈴木は静かに呟く。
「少しだけ救われる。」
「え?」
「私が受けたことを、『酷い』って迷いなく言ってくれる人がいた。」
夕焼けの光の中で、鈴木は穏やかに目を細める。
「生きてる間に、一人くらいそういう人と話せてたら。」
少しだけ寂しそうに笑った。
「違ってたのかな。」
正美はすぐには答えなかった。
しばらく黙って空を見上げ、それから静かに言う。
「分かんない。」
「……うん。」
「違ってたかもしれないし、違わなかったかもしれない。」
それは希望を断言する言葉でも、諦めを肯定する言葉でもなかった。
「でも。」
正美は鈴木を見る。
「今こうして話せてるのは、私は嬉しいよ。」
鈴木は少し驚いたように目を見開き、それから照れくさそうに微笑んだ。
「……ありがとう。」




