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4

鈴木はフェンスにもたれ、夕焼けに染まる街をぼんやり眺めていた。

風が髪を揺らす。

少しして、不思議そうな顔で正美を見る。

「斎藤さんって。」

「ん?」

「私がみんなを殺してることについては何も言わないのね。」

正美は少し考えてから、

「えー、だってさぁ。」

と、あっさり答えた。

「私を殺してないじゃん?」

「ええ。」

「さっきも言ってたけど、本当にイジメに関係があった人しか復讐しないんでしょう?」

「そう。」

「イジメてた人とか、見て見ぬふりしてた子とか。」

「当然じゃない。」

鈴木は即答した。

「私は、自分に関係ない人まで巻き込むつもりはない。」

「じゃあいいよ。」

正美は肩をすくめる。

「徹底的にやりな。」

「えぇ……。」

鈴木は思わず間の抜けた声を出した。

「困るんだけど、その反応。」

「なんで?」

「止めないの?」

「止めても聞かないでしょ。」

「……。」

「だったら意味ないし。」

正美は実に現実的だった。

「それにさ。」

指を一本立てる。

「物語とかで復讐者って結構いるじゃん?」

「いるわね。」

「だから昔、暇なときに復讐について自分なりに考えたことがあるんだ。」

「へぇ。」

鈴木は少し興味を示す。

「それで?」

「色々考えた結果。」

正美は真面目な顔になる。

「逆恨みとか。」

一本指を折る。

「無関係な人。」

もう一本。

「復讐したい人の家族とか友達まで巻き込む。」

さらに一本。

「そういうのは嫌なんだよね。」

鈴木は静かに頷く。

「でも。」

正美は続ける。

「そこを越えないなら、あとは当事者同士の問題かなって結論になった。」

「……。」

「だから、どんどんやれって結果になりました。」

「そんな結論になる人、初めて見た。」

鈴木は苦笑した。

「もちろん法律とか社会としては駄目なんだろうけど。」

正美は付け加える。

「私個人の感情としては、って話ね。」

「感情。」

「うん。」

少しだけ目を伏せる。

「あと理由が真っ当。」

「理由?」

「イジメの内容。」

正美はため息をついた。

「本人たちが教室で責任押し付け合ってるの聞いてたんだけど。」

「……。」

「あれ、酷かったねぇ。」

虫を食べさせた。

水をかけた。

持ち物を壊した。

笑った。

見て見ぬふりをした。

相談を流した。

「私でも、『こんなのはひどい』って思ったよ。」

鈴木は何も言わない。

「成仏できないのも納得だよね。」

その言葉に、鈴木の肩が小さく震えた。

「……納得、か。」

「うん。」

「そんなふうに言われたの初めて。」

「そう?」

「みんな『かわいそう』とか『許して』とか。」

「でも誰も『あれは酷かった』とは言わなかった。」

正美は少し考え込む。

「だって酷いじゃん。」

その一言は、とても単純だった。

飾り気もない。

「私人類好きだけど。」

正美は空を見上げる。

「クズは嫌いだから。」

「人類好きなの?」

「結構好き。」

「なのに一人?」

「人類は好き。」

「人付き合いは苦手。」

「矛盾してる。」

「してないよ。」

正美は笑う。

「動物園に行って動物見るの好きだけど、一緒に檻に入りたいわけじゃないじゃん?」

「その例え、人類に失礼じゃない?」

「愛情はあるよ。」

「でも適切な距離も大事。」

鈴木は思わず笑ってしまった。

「ふふっ。」

「斎藤さんって、本当に変。」

「よく言われる。」

「でも。」

鈴木は静かに呟く。

「少しだけ救われる。」

「え?」

「私が受けたことを、『酷い』って迷いなく言ってくれる人がいた。」

夕焼けの光の中で、鈴木は穏やかに目を細める。

「生きてる間に、一人くらいそういう人と話せてたら。」

少しだけ寂しそうに笑った。

「違ってたのかな。」

正美はすぐには答えなかった。

しばらく黙って空を見上げ、それから静かに言う。

「分かんない。」

「……うん。」

「違ってたかもしれないし、違わなかったかもしれない。」

それは希望を断言する言葉でも、諦めを肯定する言葉でもなかった。

「でも。」

正美は鈴木を見る。

「今こうして話せてるのは、私は嬉しいよ。」

鈴木は少し驚いたように目を見開き、それから照れくさそうに微笑んだ。

「……ありがとう。」

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