↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/16

14

チョコレートの香りが少しずつ薄れていく。

正美は空になった皿を台所へ運び、戻ってくるとソファへ腰を下ろした。

鈴木はそんな正美をじっと見ていた。

「ねえ。」

「ん?」

「あなた。」

少し困ったように笑う。

「私にお供えしすぎじゃない?」

「そう?」

「そうよ。」

指を折り始める。

「花。」

「線香。」

「お菓子。」

「料理。」

「ジュース。」

「そしてこの変わったお線香。」

「……。」

「結構な頻度よ?」

正美は少し考えてから笑った。

「大丈夫だよ。」

「お菓子とかは最終的には私が食べてるし。」

「そこまで心配しなくていい。」

「でも。」

「買い食いするタイプだったから。」

肩をすくめる。

「それの代わり。」

「買い食い?」

「学校帰りとか。」

「コンビニ寄って。」

「百円ちょっとのお菓子買ったり。」

「アイス買ったり。」

「それを今、お供えに回してる感じ。」

鈴木は少し安心したように頷いた。

「なるほど。」

「だから家計を圧迫してるわけじゃない。」

「趣味が変わっただけ。」

「趣味……。」

「最近、お供えコーナー見るのちょっと楽しい。」

「そんな高校生初めて見た。」

二人で笑う。

しばらくして。

鈴木が何か思いついたように手を叩いた。

「よし。」

「ん?」

「あなた。」

真面目な顔になる。

「私の家に来なさい。」

「え?」

「まだ私の私物は処分されてないわ。」

「そうなんだ。」

「ヘソクリもバレてない。」

「ヘソクリあるの!?」

「ある。」

「どこに。」

「教える。」

正美は思わず笑ってしまう。

「いやいや。」

「私、イジメた人だと勘違いされない?」

「大丈夫?」

「私が案内するし。」

鈴木は当然のように言う。

「会話してれば大丈夫でしょう。」

「それ。」

正美は即座にツッコんだ。

「おかしい人だと勘違いされるだけじゃない?」

「……。」

「……あ。」

鈴木も少し考える。

「確かに。」

「『うんうん、鈴木さん。』『そうだね鈴木さん。』って一人で喋ってたら。」

「普通に心配されるわね。」

「病院勧められる。」

「それは困る。」

少しの沈黙。

「でも。」

鈴木は首を傾げる。

「私がいると。」

「うん。」

「明らかに空気変わるでしょう?」

「まあ。」

正美は頷く。

「分かる。」

「何か『いる』って感じ。」

「ホラーみたいな。」

「でしょ?」

「ひんやりするし。」

「あとちょっと圧がある。」

「それなら。」

鈴木は腕を組む。

「ご家族にも分かるかもしれない。」

「……いやぁ。」

正美は苦笑した。

「『この子、誰もいない方向見て喋ってるのに急に部屋寒くなった』って。」

「余計ホラー。」

「それもそうね。」

鈴木も笑う。

「実は。」

少し真面目な顔になる。

「今まで真夜中に自室に帰る程度だったの。」

「家?」

「ええ。」

「みんな寝静まってから。」

「そうなんだ。」

「でも。」

窓の外を見る。

「日が上がっている頃に帰ってもいいかもしれないと思ってね。」

「……。」

「少しだけ。」

「家族の様子も見たい。」

その一言に、正美は何も言わなかった。

少しだけ寂しそうなその表情を見てしまったから。

「だから。」

鈴木はいつもの調子に戻る。

「とりあえず。」

指を一本立てる。

「線香。」

もう一本。

「花。」

さらに一本。

「お供え物。」

最後に。

「あとスーツケース持ってきなさい。」

「なぜに。」

即座に返す。

「服とかあるから。」

「え。」

「私とあなた。」

じっと見比べる。

「体格、似てるでしょう?」

正美も自分と鈴木を見比べた。

「……。」

「確かに。」

「身長も。」

「そんな変わらない。」

「でしょ?」

鈴木は頷く。

「いろいろ持っていきなさい。」

「えぇ。」

「どうせ。」

少しだけ笑う。

「捨てるだけでしょうし。」

その言葉には、どこか諦めと、それでも誰かに使ってほしいという願いが混ざっていた。

正美はしばらく黙っていたが、やがて静かに頷く。

「……分かった。」

「でも。」

「もらうだけじゃなくて、ご家族が『残したい』って思うものには絶対手を出さない。」

「もちろん。」

「それと。」

正美は少し照れながら笑う。

「ヘソクリはちゃんとご家族に相談してからね。」

「勝手に持っていったら泥棒だから。」

鈴木は一瞬きょとんとしたあと、吹き出した。

「ふふっ。」

「そうね。」

「私が許可しても、生きてる人の家のものだもの。」

「そこはちゃんとしなきゃ。」

「うん。」

正美は満足そうに頷く。

「じゃあ、今度お邪魔しよう。」

鈴木は小さく微笑んだ。

「ええ。」

「今度は、生きている頃には招けなかった私の部屋へ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。