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数日後の日曜日。

昼前から、正美はエプロン姿で台所に立っていた。

「よし。」

スマホを見ながら気合いを入れる。

「今日はハンバーグ。」

テーブルの上には、レシピサイトが表示された画面。

「料理初心者でも失敗しにくい!ふっくらハンバーグ!」

「……これでいこう。」

コンコン。

「鈴木さーん。」

いつものように声を掛ける。

部屋の空気が少しだけ冷える。

「こんにちは。」

「いらっしゃい。」

鈴木が現れると、正美は笑って手を振った。

「今日はリクエストメニュー。」

「覚えてたのね。」

「もちろん。」

冷蔵庫からひき肉を取り出す。

「玉ねぎ……みじん切り。」

「そこからなのね。」

「ハンバーグって意外と工程多い。」

包丁でトントントンと玉ねぎを刻む。

目が少し潤む。

「染みる……。」

「大丈夫?」

「涙出る。」

「泣いてるみたい。」

「玉ねぎのせい。」

鈴木はくすっと笑う。

玉ねぎを炒め、粗熱を取る。

ボウルにひき肉、玉ねぎ、パン粉、牛乳、卵を入れて混ぜる。

「うわ。」

「冷たい。」

「ひき肉だもの。」

「なんか粘土みたい。」

「その例えは食欲が。」

「ごめん。」

二人で笑う。

「空気抜き。」

正美は両手で丸めた肉だねを、ぺちん、ぺちんと手のひらに打ちつける。

「テレビで見た。」

「ちゃんと勉強してる。」

「形。」

「丸……。」

少し考える。

「いや、楕円。」

「焼いたら膨らむんだっけ。」

「そのはず。」

フライパンに並べる。

ジュゥゥッ。

香ばしい音が広がる。

「おお。」

「いい音。」

正美は少し得意そうな顔をした。

「料理って音も楽しい。」

「分かる。」

鈴木は懐かしそうに目を細める。

「家でお母さんが作ってる音、好きだった。」

「それ。」

正美は頷く。

「なんか安心するよね。」

「ええ。」

焼き色が付いたところで裏返す。

「成功。」

「崩れてない。」

「すごい。」

「やった。」

蓋をして蒸し焼き。

その間に付け合わせを作る。

ブロッコリー。

にんじん。

ポテト。

「色合い大事。」

「偉い。」

「写真映え。」

「インスタはやらないのに?」

「撮るだけ。」

「投稿は?」

「しない。」

「やっぱり。」

完成。

皿の中央にハンバーグ。

付け合わせを添え、ソースをかける。

湯気が立ち上る。

「どう?」

鈴木は静かに目を閉じた。

ゆっくり香りを吸い込む。

「……。」

数秒後。

目を開けて微笑む。

「すごく美味しそう。」

「よかった。」

正美は小さな皿にも同じように盛り付け、お供えとして置いた。

「いただきます。」

鈴木が静かに手を合わせる。

「いただきます。」

正美も続く。

しばらく静かな時間が流れる。

「どう?」

「匂いだけだけど。」

鈴木は嬉しそうに笑った。

「ちゃんとハンバーグ。」

「そりゃそうだ。」

「いや。」

少し首を振る。

「こういう普通のご飯を、もう一度誰かが私のために作ってくれるなんて思ってなかった。」

その言葉に、正美の箸が止まる。

「……。」

「ありがとう。」

鈴木は静かに頭を下げた。

正美は少し照れたように笑う。

「いいよ。」

「どうせ作るなら二人分考えた方が楽しいし。」

「それに。」

一口ハンバーグを食べる。

「おいしいものは、一人で食べるより『これおいしいね』って言える相手がいた方が、なんか得した気分になるから。」

鈴木は、その何気ない一言を聞いて、小さく笑った。

「そうね。」

「生きてる頃に、あなたと友達になってたら。」

「毎週こんなことしてたかも。」

正美は笑いながら頷く。

「あり得る。」

「私、友達少ないし。」

「私も。」

「じゃあ成立してたね。」

「してたわね。」

二人は顔を見合わせる。

一人は生者。

一人は怪異。

それでもその昼食の時間だけは、どこにでもいる女子高生二人が休日を過ごしているような、穏やかな空気に包まれていた。

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