第三取り調べ室
音尾はドアノブを回すと、千早を奥に通した。
四畳半程度の部屋にスチールの机とパイプ椅子。
なんの意匠も無い無機質な壁。
高木はここでもう既に二週間近くも取り調べを受けている。
そう思うと、他人事ながら気が滅入った。
音尾が椅子に腰を下ろすと金属が軋む音が鳴った。
それを覆い隠すように大きなため息をかぶせた。
そしてゆっくり視線を千早に移して「何を知ってる?」と、机に手を乗せて身を乗り出した。
千早は音尾のそんな様子に「何を知らない?」と不遜に笑い返した。
「ふっ......降参だ。何も分かっちゃいない——どちらも、な」
音尾は怒る素振りも見せずに両手を上げた。
(ああ曲者だ、この刑事)
音尾の様子に千早はそう感じた。
「音尾さん、犯人はどうしてあの木に吊るしたのでしょうね」
敬意を込めて千早はそう尋ねた。
「自殺の偽装と死体の隠蔽だろ」
音尾の教科書通りの答えが本心なのか誤魔化しなのかは、千早には分からなかった。
ただ、答えまでの一瞬の間に、警察はその点を重視していないことが分かった。
そしてこの瞬間、音尾が"釣れた"ことを確信した。
「散策ならまだしも発見者はランニング中の人ですよね?隠蔽とは程遠くないでしょうか?」
「......」
音尾は腕を組んで目を閉じた。
「自殺の偽装なら、手前に枝振りのいいハルニレがありました。偽装に使われたのは比較的枝の位置の高いハリギリです。名前の通り針の桐。針のような棘が生えた木をどうしてわざわざ選んだのでしょう」
「アンタは......」
話をじっと聞いていた音尾が口を開いた。
「千早さんには、その理由が分かっているのかい?」
「いいえ、さっぱりです」
千早はあっさりとそう答え、続けた。
「だから、これから調べるんですよ」
ニッと口角を上げた千早に、音尾は毒気を抜かれたよう頬を緩ませた。
「話にならんな、千早さん。——だから非公式に、秘密裏に手を組みましょう」
今度は音尾が口角をニッと上げた。




