臨場
事件の情報は玉石混交に思えた。
現役の配信者が逮捕された殺人事件とあって、世間の注目は高かった。
被害者は三十八歳の会社員、鈴木淳也。
発見されたのは八月十四日の朝。
森林の遊歩道をランニングしていた男性からの通報だった。
『首を吊っている死体がある』
「なるほど」
千早は遊歩道から規制線を眺めていた。
もう捜査員の姿は周囲には無い。
二十メートルほど先のハリギリが遺体のあった木らしい。
(一般人がこの距離から見れば、確かにそう言うだろうな)
後の調べで遺体の首には吉川線が確認されたのと、遺書も踏み台も無いことから絞殺されたものと警察は断定した。
(納得いかないな)
千早の胸に犯人の行動の妙が、違和感の棘となって刺さっていた。
(こんなに雑な偽装をする犯人が、わざわざ遊歩道から奥に入って吊るすのだろうか)
現にもっと近くに太い枝を広げたハルニレがあった。
(ハリギリは鋭い棘が沢山あるのに......)
(遺体を奥まで運ぶ理由は隠蔽だ。だが、実際は目立つ位置に)
(偽装だと看破される為の偽装)
「——なるほど」
千早はもう一度そう言うと踵を返した。
笠木警察署は笠木市の旧市街地にあった。
炭鉱が閉山した後は街の賑わいは国道側へと移ってしまった。
だが市庁舎をはじめ、公共機関の多くは旧市街に残り——いや、取り残された。
「捜査一課の音尾刑事をお願いします」
千早が受け付けの制服警官にそう告げると、内線を掛けた警官は済まなそうに表情を曇らせた。
「ただいま外出中のようですね。戻り次第、電話させましょうか」
「そうですね......」
千早は思案する素振りだけ見せてから言った。
「高木光一にこだわってたら、今井加奈の二の舞いになる——と、お伝え下さい」
そう言って踵を返したところで、力強く痛みを込めた悪意に肩を掴まれた。
「お早いおかえりですね」
この男が音尾刑事だろう。
千早はそう確信していた。
「手掛かりがここにあると聞きましてね」
音尾はそう言って柔く微笑むと、指先を鎖骨の近くに食い込ませた。
「探偵?あの国選弁護人の関係者じゃないのか」
音尾は鼻白むように、千早の名刺を手に言った。
そして少し考え込むと「本当に無関係なんだな」と、耳元で念打ちをした。
「もちろんですよ」
千早がそう言うと音尾は立ち上がって「第三取り調べ室を使うぞ」と周りの刑事に言うと、今度は優しく千早の袖を掴んで促した。




